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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

03 幸せの形

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「婚儀か……、オディールの花嫁姿を見せびらかしたくもあるが、誰にも見せたくないとも思うな」
「な、に、を! 想像してんのよ馬鹿っ!」
「照れるなオディール。お前なら何を着ても可愛いのは間違いない、いやむしろそのままのお前でも構わな」
「ちょっと、黙って、なさいってば!」

 ぐいぐいと、真顔でとんでもないことを口にする馬鹿の顔を押しやった。本当に、いきなり何言い出してんのよっ!
 そりゃまあ、アタシだってウェディングドレスに憧れはあるわよ? いつも以上に着飾って、誰よりも何よりも可愛くなった花嫁に、参列者はメロメロに違いないわね!
 ……悪魔の娘だから、実際に教会とかでの婚礼はできないけど。

「アンタ、なんでここにいるのか分かってるのよね?」
「もちろんだ。目的のついでに、今後の参考になるかと思ってな、婚礼の流れも見ている」
「……今後なんか、アンタにあるのかしらねっ?」
「何を言っている? オディールさえよければ、今この場でも構わないぞ俺は」
「全っ然! よくなんかないわよっ!」

 あぁ、もう調子狂うんだからっ! そんなこと真顔で言わないで!
 本当に、ちょっぴり。ほんのちょっとだけよ? 想像しちゃったじゃないの。
 ……花嫁衣装を身につけてヴァージンロードを歩くアタシの隣で、アンタが歩いている姿を。

「……まぁ、似合うんじゃないの?」
「何がだ?」
「何も言ってないわよ!」

 アンタのタキシード服も、ふにゃって笑った顔に似合うんじゃないの? なんて、そんなこと口になんかできないけど!
 って、こんなことばっかり気にしてなんかいられないわよ。

 ロッドバルドからのお願い、とは名ばかりの命令。

 それをこなすために、アタシたちはこんな場所にいるんだから。
 帝国に属していたジークの、少し前まで対戦国だったアウトキリア国。その中心にそびえる王城で開催されている婚礼披露パーティ。
 その会場の天窓の外にアタシたちはいる。ここならまぁ、ある程度騒いでいても気付かれないし? 見回りの兵だっていないしね。

「全ての元凶となった、林檎の魔女を捕えろ、ね」
「元凶、か」
「そうよ。アンタだって掛けられたじゃない、カエルになる魔法」
「まぁそれも、お前に出会えたしな。今では感謝したいほどだ」

 流す! 一々コイツの言うことに反応してたらキリがないもの!

「それ以外にも色々してるわよ。そろそろ魔女協定違反も目に余るものがあるみたいだし、ていうかなにより、このアタシの喚びだしを拒絶したしね!」

 そう! なによりの問題はそこ!
 魔女は悪魔に逆らわないはずなのに! 悪魔の娘たるアタシの喚びだしに応えないってどういうことよ!? 強制喚びだしを拒絶するなんて! ただの魔女のくせに!

「落ち着け、オディール」

 ……ちゅって。
 不意打ちにキスすんの、やめなさいよ、ばか。

「怒り顔よりも、そっちの方が素のお前らしくて、俺は好きだけどな」
「あっ、あんたの好みなんか知らないわよ」

 だからそうやって、笑いながら頭撫でるのもやめなさいよ。

「……本当に、ばか」

 とか言って。
 払いのけることもしないで、大人しくしているアタシも、相当ばかみたいなんだけど、さ。

「それで? お前には分かるんだろう?」
「分かるに決まってんでしょ、林檎の魔女の気配くらい」

 花嫁がまだ姿を現していない会場。その中でも、ちらちらと林檎の魔女の気配を漂わせている数がちらほらと。
 正確に言えば、漂わせると言うよりは、纏わっていると言った方がいいかも。微弱になってきている気配もあるし。
 まぁ、別の気配もいくつかあるけど、それでもここが一番林檎の魔女の気配を多く感じ取ることができる。

「なら問題ないな」
「アタシを誰だと思ってんのよ?」
「悪魔の娘・オディール、だろう?」

 苦笑と一緒にぽんと返された。
 分かってるならいいのよ、とふふん、って笑ってやろうと思ったら、コイツ。

 最後の最後で爆弾落とすんだから!

「あぁ、もうすぐ名実ともに俺の妻になるオディール、でもあるがな」
「っ! 知らないっ!」

 ……きっとそんな日も、遠くはないんだろうけど。



 *  *  *



『新しい国を作るのですよ。皆が幸せになるための国を』

 彼の言葉が、ふと蘇った。
 いつのことだっただろう。彼がパレードを行っていた期間には間違いない。

 パレードに参加していた子どもたちは、糸が切れたように木々の根元で眠りについている。すやすやと、あどけない寝顔を浮かべて。
 子守唄のようなゆっくりとしたメロディを奏でていた彼は、不意にピッコロから口を離し、ぽつりとこぼしたのだ。

『皆が幸せだなんて、そんなのありえないわ』

 誰もが幸せになることなんかできない。
 幸せになるものの影には、不幸だと感じるものが出てくる。
 そう、それは淡褐色を手に入れたいと願っている義母と、兄を守りたいと考えるグレイのように。
 幸福と不幸は表裏一体。誰であろうと、その二つを切り離すことはできない。
 それがわかっているからこそ、グレイは他の子どもたちと同じようにパレードに参加できなかった。参加する必要を見いだせなかった。

『……それを知っていても尚、彼らは願うのですよ。幸せになりたいと』

 だからこそ、彼の言葉が胡散臭く聞こえてしまうのだろうか。

『そんな子どもたちをたぶらかしている貴方は何? この子たちに幸せを、本当に分け与えることができるというの?』

 だからこそ、彼にトゲトゲしい言葉をぶつけてしまうのだろうか。
 パレードに賛同できないがゆえに、このパレードが終わるまで、囚われの身になっている自分には、何もできないというのに。

『いいえ』

 彼は、答えた。

『人にとっての幸せとは人それぞれのもの。人間にとっての幸せへの欲求は際限がないもの。それをどうして私が与えることができましょう?』
『そんな無責任な』
『本当の意味で責任をとれる人間など、この世にいるでしょうか?』

 くつりと、彼は笑った。
 どういうことだろうか。“本当の意味で”とは、何のことを言いたいのだろうか。

『そう、例えばこの子どもたち。彼らが辛いと思った環境を作り出したのは誰のせい? 彼らが真っ当な生活を送れなかったのは、誰のせい? 彼らが幸福を求めたいと、こんな現実から逃げ出したいと願ったのは、どうしてでしょうね』 
『そんなの屁理屈だわ』
『屁理屈? いいえ、全ての物事には原因がある。原因を引き起こした事象は、とても小さいかもしれません。たった一言かもしれません。善意ある行動だったかもしれません。それに、果たして責任がもてるのでしょうか?』

 世の中なんて皮肉で満ち溢れているのですから、責任をとれる人間なんてほとんどいませんよ。
 そう彼は続けた。

 皮肉で満ち溢れているだなんて口では言いながらも、その仮面の下の表情は、どこか悲しげな雰囲気を発しているかのようにグレイは感じた。
 問題がすり替わっているだとか、一々話が回りくどいだとか、言いたい言葉は他にもあった。
 それでも、口からこぼれ落ちた言葉は、たった一言。

『……幸せが嫌いみたいね』

 彼が紡ぐ言葉は、全部そこにたどり着いているような気がした。

 幸せになどなれない。
 幸せになどできない。
 幸せなど、訪れるはずがない。
 幸せなど、あるはずもない。

 何度も幸せという言葉を口にしている割には、彼自身は幸せに頓着していないような、そんな印象を受けた故の言葉だった。

『私は、幸せからは縁遠い存在ですからね』

 苦笑を漏らしながら、彼は小さく言葉こぼした。
 緩慢な動作でグレイの方へと顔を向ける。仮面をつけたその顔からは、表情を読み取ることはできないけれど。
 うっすらと弧を描いた唇が開かれる。

『貴女には答えられますか?』
『何を……?』

 仮面越しに、視線が合ったような気がした。

『貴女にとっての幸せとは、なんでしょう?』

 あぁ、違った。正しくはこう問いかけるべきでした。

『貴女は、幸せですか?』

 グレイには、答えられなかった。


「……花嫁様は、今本当に、幸せなのかしらね」
「グレイ?」

 この祝いの席にはふさわしくない言葉だった。
 思わずこぼしてしまった自分に失笑を漏らして、小さく首を横に振った。

「なんでもないわ、ゼル」

 それでもどうしてか、彼の言葉がグルグルと頭の中から離れなかった。
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