FC2ブログ

「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

08 悪魔と王子

 ←07 揃った舞台役者 →09 取引と説得

 ゆっくりと馬から降りて、ぱちりと音を鳴らした。乗ってきた馬が消える。
 ぱちりと鳴らした音がやけに大きく響いたようで、アンバーが率いる騎馬隊の面々が、グレイに警戒したように槍を握る手に力を込めた。その様子をわき目に見ながら、ゆっくりと進む。
 以前は剣を持つ相手には委縮するしかなかったのに。力を手にした今では彼らがちっとも怖くない。彼らをどうこうするつもりがなくても、対応する力はある。魔法を使えば取るに足らない相手なら、一々相手などする必要もない。たかだかただの人間に、そう時間を掛ける必要が見いだせないのだ。

 あぁ、これも魔女の力を手にした代償か。

 こうした感性のズレも、気付かないうちに魔女らしく修正されてしまうのか。それに気付いたグレイは僅かにうつむいた。

「……その者に手を出すなよ」
「隊長!?」

 俯きながらも歩みを止めないグレイに、警戒心をあらわにする騎馬兵たち。そんな彼らに、アンバーは制止を掛けた。近くの兵に己の馬上槍を託す。

「彼の言葉を信じるなら、彼女は魔女だ。お前たちにかなう相手ではない」
「だからこそ、警戒せざるを得ないのではありませんか!」
「それを抑えてこそ、だろう。魔女には敵わない。無駄に戦力を削るのは感心しない」
「ですが、魔女とは言え」
「それに、お前たちはここから先に突入できないようだ。待機せよ」
「それこそ納得いきません!」

 あぁ、成程。確かに我が強い彼らを率いるには苦労するだろう。手綱を握る人材を欲しがるのも無理はない。
 それも他人事だとグレイは歩みを止めない。馬上槍の刃先を向けられるも、気にも留めない。こんなの、彼女やロッドバルドの魔力に比べれば、微々たるもの。怖いとも思えない。

 誰かがグレイの前に立ちふさがった。ゆっくりと見上げる。
 鮮やかな赤い髪の彼……結婚式で見た新郎、それでいてアンバーが慕う今では元王太子。アウトキリアのキース元王太子である。雲の上の存在たる彼を目前にしても、グレイは委縮しなかった。

「アレはどうした?」
「アレ、って何のことですか?」
「……紫色の魔女だ。珠玉の娘のラプンツェルを、アレが放っておくはずがないだろうに。お前は一番アレの近くにいただろう? だからこそ、アレがいないとは考えられないのだがな」
「……それは、ヴァイオレットの力を当てにしていたと言う事?」

 思わず敬語が抜けてしまったくらいには、キースの言葉がそう聞こえてしまった。フード越しにキースを睨みあげる。

「否定はしない。オレの力だけであのドラゴンに立ち向かえるとは思ってはいないからな」
「貴方の目的は、あの子だけではないの?」
「まさか。廃嫡されたとは言え、国への脅威は見過ごせない。第一の目的はラプンツェル奪還。第二にドラゴン退治だ」
「……そう」

 それですべて、とでも言うかのような言い草に、グレイの声は自然と低くなった。
 彼にとって取るに足らない相手かもしれない。意識を傾ける必要もない存在かもしれない。そもそもソレに気付いていたかも怪しい。
 だが、自分の大切なものをここまで蔑ろにされると、腹も立つと言うものだ。敬語を使う必要ですらない人間だと思ってしまうのも仕方がないものだ。

「質問に答えるわ。ヴァイオレットはもういない」
「いない?」
「これ以上の質問は受け付けないわ。そこ、通りたいの。どいて」
「どいっ!?」
「貴様、キース殿下に対して無礼な」
「よせっ」

 キースを押しのけて通り抜ける。その行為を無礼と判断した血気のいい兵が、グレイを捕らえようと腕を伸ばす。
 アンバーが制止の声を挙げるも、もう遅い。

「無礼なのはどっちかしらね?」

 ぱちん、と指を鳴らした。
 どう、と音を立てて強風の塊が兵を襲った。掴みかかろうとした兵は吹き飛ばされ、一本の針葉樹にぶつかり、うめき声をあげている。二次災害で木の上の雪が落ちてきたことが、何故だかグレイの胸をすっとさせた。

「新米魔女にしては、あまりにも魔女らしい」

 くすりと笑われた。一連の様子をずっと観察していたのであろう彼は、にやにやと笑っている。
 ちょうどいい、前から一言言いたかったのだ。この際だから言ってしまえ。
 茨の穴の前に立ちふさがるロッドバルドの元へと進む。グレイに剣呑な目で見られようとも、ロッドバルドの笑みは引っ込まない。

「私は今、不幸せよ」
「おや。淡褐色の瞳の兄弟がいない。紫色の魔女もいない。それゆえにでしたら、存外弱いのですねぇ。いやはや、評価を変えなければいけません」
「貴方の評価はどうでもいいわ。魔女になってしまったのも、自分の意思。これも仕方ないと割り切る。でも、違う。そうじゃない」
「では、どうしたというのです?」

 口元に弧を描いたまま、彼はこてりと首を傾げた。グレイは声を低くしたまま、告げる。

「貴方言ったわよね? 灰色と淡褐色の兄妹に、一つ贈物を捧げようって」

 ぴくり、とアンバーが肩を震わせた。

「ねぇ、アレのどこが私たち兄妹への贈り物だと言うの?」
「おや、お気に召しませんでしたか?」
「えぇそうね。だって、アレで私たちに何の利があったと言うの? 現に今だってそう。それとも、私が気付かないだけで、何かあったのかしら? それならば教えてほしいものだわ」
「ふむ……大まかに見ても、確かに。利になるようなことは、今はないでしょうな」

 意味ありげに同意するロッドバルドに、グレイは眉をひそめた。
 嘘は言ってないはずだ。自分の発言を反芻しても、それが自分にとって事実ならば嘘ではないと思っている。魔女協定の悪魔には逆らわないには、ギリギリ大丈夫だと思っている。逆らっているわけではない。意見しているだけだ。彼が許容しているうちは大丈夫だろう。

「大丈夫ですよ、聡い彼なら正しく理解しているでしょう。あぁもちろん理解していなければ、私がやることは一つですがね」
「カラバ侯爵!」
「いいえ、それは仮の名前。私は悪魔、ロッドバルドですよ閣下」

 慌てたように掛けられた声に、ロッドバルドは意地悪く笑って答えた。いつの間にか傍に来ていたアンバーは、左胸に手を当ててロッドバルドに軽く頭を下げていた。

「失礼、つい馴染みある名の方を呼んでしまった。ロッドバルド卿、無礼を許してほしい」
「結構。名についての無礼は許しましょう」

 ですが、もちろん分かっておりますよね?
 何が、とは言わない。何が、とも問わない。
 もちろんです、と当然のように返すアンバーに、ロッドバルドは満足そうに頷いた。

「グレイ」
「何かしら?」
「グレイの優先順位を教えてほしい」
「……ゼルの奪還。あの人との決着。ついでに、ヴァイオレットの忘れ形見の救出」
「ついでとは何だ!」
「殿下は口を挟まないで頂けますか?」

 アンバーに口を出すなと言われながらも、尚も言葉を続けようとしたキース。だが、その口から続きの言葉が出てこない。パクパクと口を開閉するだけで、声が出てこないのだ。
 アンバーはグレイを見た。静かに首を振られた。
 アンバーはロッドバルドを見た。にやにやと笑っていた。
 誰が何をしたかは明白のこと。アンバーは静かに頭を下げて、言葉にはしない礼を述べた。

「私の目的は、二人の救出。二人以外に連れられた人物はいないらしい。そして、ドラゴンの討伐補佐」
「馬鹿正直に討伐補佐と言うのね。ドラゴンバスターの箔をつけて、アレを王太子へと返り咲かせるつもりかしら?」
「魔女たちにとって、我が殿下は嫌われる何かを持っているのだろうか……」
「単に相性が最悪なだけよ」

 それでも否定はしなかった。
 いいや、だからなんだ。と無視するにはグレイの中でアンバーは親しすぎた。その姿が猫の姿ではなく人の姿だとしても、彼もいつの間にか、ヴァイオレットと同じくらいに身内に見ていたようだ。
 それに気づいた今、グレイは関わるのをやめようと心に決めた。
 なにせ彼は、アウトキリア国の王子なのだ。騎馬隊隊長なのだ。
 彼に関わること、即ち世俗に関わってしまう。
 魔女協定に反してしまう。

「話はそれだけ? 私、もう行きたいんだけど」

 だからこそ、素っ気なく話を切り上げようとした。
 もう関わらなくてもいいように。

「いいや、グレイ。いや、魔女。私と取引をしてくれ」

 それも、アンバーの言葉に失敗に終わったが。
関連記事
スポンサーサイト





総もくじ 3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ 3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ 3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ 3kaku_s_L.png 零れ話
総もくじ  3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ  3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ  3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ  3kaku_s_L.png 零れ話
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言
  • 【07 揃った舞台役者】へ
  • 【09 取引と説得】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【07 揃った舞台役者】へ
  • 【09 取引と説得】へ