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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

12 彼女らの対峙

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「もうっ、アタシたちのことは別にどうでもいいのよっ! そんなことよりも、もっと大切なのが、あのドラゴンのこと! ロッドバルドみたいな悪魔ならともかく、魔女の……しかも新米魔女のアンタにドラゴンなんて倒せるの?」

 アレだって、元はと言えば魔女なんだから!
 真っ赤な顔をしたまま話を逸らそうとしているオディールの言葉に、生暖かい目で見守っていたグレイはこてんと首を傾げた。

「さあ? どうかしらね」
「どうかしらって。アンタね! ドラゴンって、かなり癪だけど悪魔の娘たるアタシよりも魔力が豊富で、アンタたち魔女みたいに魔力の源は必要としないの! ちょっとジーク、アンタが知っている人間の世界のドラゴンについて教えなさいよ!」
「ん? 嫁さんがそう望むなら」
「誰が、誰の、嫁さんよっ!」
「じゃあ、もうすぐ嫁さんになるオディールが、望むなら」
「誰もそんなこと詳しく説明しろなんて言ってないから!」

 話を先に進めてくれないか、と口を挟むのが躊躇われるやりとりに、アンバーは目を白黒させていた。猫の姿だと咳払い一つするのにも、やり方が分からない。
 困ったようにグレイを見上げると、グレイは一つため息をついて、ぱちりと一つ指を鳴らした。
 その音に、オディールと緑色の彼……ジークは言葉が止まった。今度は何が起こったのか、と僅かに身がこわばる。

「何もしていないわ、ただ指を鳴らしただけ」

 だから気にせず、続きをどうぞ。
 淡々とそう告げられると、気まずそうにオディールが口をつぐんだ。それから小さくジークのわき腹を小突く。
 一瞬、呆けた顔をしていたジークだが、直ぐにポンと一つ手を打った。

「ドラゴンについて、だが。まぁ、お前も知っているだろうが、物語に出てくるような伝説上の生き物だ。その鱗は刃を通さないほどに硬く、その牙で噛み切れぬものはない。人非ざる姿をしているも知能はあり、宝石などの美しい財宝を溜めこんでいるという……。それこそ、すべて物語や伝承上の話であって、それが本当かどうかは分からないがな」

 彼はそう締めくくったが、聞けば成程。あの継母が何故ドラゴンの姿に変化をしたのか、何処か納得してしまいそうな内容である。
 美しいものに執着した彼女。
 美しいものを手に入れるためなら、どんなことでもやった彼女。
 彼女にもうゼルを奪われないためにも、グレイは彼女との因縁を切らねばならない。
 三度目などあったら、もう自分自身ですら許せない。

「それでも、なんとかするわ」
「なんとかって!」
「勘違いしないで。考えがないわけでもないの。それに、ヴァイオレット……紫色の魔女から引き継いだ力も、知識もある。心強い味方もいる。だから、大丈夫よ」

 ぽんぽんとアンバーの背中を叩いたグレイの声は、驚く頬穏やかだった。
 猫を抱きかかえた丸腰の少女が、ドラゴン退治に行くのだと言われても違和感しかない。その本質が魔女だとしても、オディールは思わず問わずにはいられなかった。

「ねぇ、それ本当に現実を見て言ってるの? 正気?」
「残念ながら正気よ。夢を見ているだけで、生きてなんか行けないわ」
「ふぅん。全然そんな風には見えないけど」
「そう、それは残念だわ」

 淡々とした口調で、それでいて腕の中でゆっくりと猫を撫でているそのアンバランスさに、オディールは、何度目か分からない言葉を飲み込んだ。
 あぁ、この娘は本当に。

「魔女に、アタシが何を言っても無駄ね」

 どこまでも、魔女らしい。

「あら、知らなかったの?」
「今、改めて思ったの! 別に、知らなかったわけじゃないし!」
「はいはい。それで、それだけならもう行ってもいいかしら?」

 頬を上気させて興奮させているオディールには悪いが、これ以上呑気に話をしている暇はないのだ。
 きっと、この場所にいる時点で、彼女には気付かれている。気付いていながらもグレイたちの前に姿を現さないのは、様子を見ているのか、それとも構う価値などないと思っているからなのか。
 彼女から接触してこないのは、好機か否か。
 それを判断するすべは、今のグレイには持ち合わせてはいないが。

「行けばっ? 知らないわよもうっ!」
「何か、兄君に伝言があれば承るぞ?」

 ぷいっと、桃色の髪を揺らして顔をそむけるオディールの傍で、それすらも愛おしいと笑みを浮かべるジークが、ふとグレイにそう言葉を掛けた。
 グレイは少し考えてから、静かに口を開いた。

「家族が増えたかも、って伝えといて」
「了解した。家族が増えるのは喜ばしいことだ、おめでとう」
「まだ、どうなるかわからないけど、ありがとうとだけ返しておくわ」

 生真面目ね、とくすりと肩をすくめて笑ったグレイに、その腕の中にいるアンバーが不満そうに喉を鳴らした。まだ、でしょう? とその背を撫でながらグレイは静かに歩きだした。
 後ろでまた、オディールとジークが何やら痴話喧嘩しているが、それを気にすることもなく、幸をかき分け歩いていく。
 尖塔を後にし、大きくそびえ立つスノーベルク王国の王城へ。一番大きな巨城へ。
 空から舞い降りる粉雪を、まるで己の意思で纏っているかのような、幻想的な白い城へ。

「大丈夫か?」
「平気よ」
「笛の音事件の時のゼルと、全く同じ顔をして『大丈夫』と言うのだな」

 アンバーの琥珀色の瞳が、グレイの表情を映していた。
 なるほど、グレイがいなくなった時に同じ顔をしていたと言うのなら、ゼルだって相当ひどい顔をしていたのだろう。
 心配から焦燥感に駆られるこの青白い顔。こわばった顔で笑おうとして、失敗したらよほど変な顔になったのか、アンバーがにゃごにゃごと笑っていた。。
 本人曰く、堪えようとして変な声が出たと言ってものすごく恥ずかしそうにしていたが、それはそれで可愛かったから許した。

「アンバー」
「なんだ?」
「我が身を一番に考えて、ひたすら避けて。立ち向かおうとしないで」
「ならば姿を」
「私の視界に映っている間は、癒しであって」
「理不尽だぞ!」

 尻尾をぶわりと太くして怒るアンバーに、冗談よ、と笑って腕から下した。
 大丈夫だ、笑える。
 大丈夫、立ち向かえる。
 ぱちんと、一つ指を鳴らした。
 目を白黒させて元の姿に戻ったアンバーの姿を確認することもせずに、ゆっくりと上空へと視線を動かした。
 グレイの灰色の瞳に、黒い影が映る。
 ゆっくりと、影を大きくする。

「来たわね」

 警戒するように、否、威圧するように旋回してその姿を大きく見せる。空を自由に翔る両翼。巨体に覆われた硬い鱗。長い首。その先に見える、血の色のような真っ赤な両目。鋭い牙を見せつけながら唸り声をあげる。
 上空から威嚇されながら見下され、粉雪を舞い上げる煽り風を受けるも、グレイはしっかりと地面に足をつけて彼女を見上げた。
 ゆっくりと口を開く。

「ねぇ、決着をつけに来たわ」
「マタ、オ前カ!」
「返してもらうわよ、ゼルを」
「私ノ美シイモノヲ奪オウトスルナ!」

 ドラゴンの咆哮と、グレイの指を鳴らす音が、同時に響いた。
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