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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

13 問い掛け

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「もうね、僕の妹ってば世界一可愛いの。何処が可愛いかって、そりゃまぁ外見はもちろんだよ? 可愛いのは当たり前じゃないか、僕の妹だからね! でも、それ以上にその内面? 性格っていうの? 最高だよ? 自分は冷静だって思っているのに、顔ではひどく動揺しているのが見えたり、自分の中でテンパってくると、落ち着いて行動しようって小さく呟いて、良しって自分で気合い入れるの。しかも、それ、他の誰にも見られてないバレてないって思ってるんだよ? その姿を初めて見た時の僕の気持ちわかる!? 本当にもう、可愛すぎて僕死ぬんじゃないかって思ったもん!」

 死因にあたるのが、妹が可愛すぎて、とかもう笑えないでしょ? と鎖で繋がれた腕を振り回しながら、興奮気味にゼルは言った。
 ぽかんとした様子で聞いているラプンツェルのことなど、とりあえず聞いていればいいと置いてけぼりにして。

「まぁね、ちょっとズレているんじゃないかなーと思う部分もあるけど、そこをひっくるめて可愛いんだ。危なっかしいところもあるけど、そこはお兄ちゃんである僕がフォローすればいいし? でも、どっちかっていえば、仕方ないなぁって顔しながら一緒に考えてくれたり動いてくれたりするあの感じがたまらなく好きだから、お兄ちゃん無駄に張り切っちゃって冷たい目で見られることも多いけどね!」

 熱を帯びて語っていたゼルだったが、ふいに大きくため息をついた。白い息を隠すように深く俯いて、鎖で繋がれた腕をよろよろと持ち上げ、頭を抱えた。
 どうしたのだろう、とラプンツェルが小さく小首を傾げた。

「たださ、僕は心配なわけ。あの子は身内にはとことん甘いんだよね。そこが好きでもあるし、僕が全力でそこに寄りかかっているのも否定はできない。でも、あの子は一度あの林檎の魔女クソババアを内側に入れてしまった。口では決着をつけるとか、なんとかしないとと言っているけど、あの子にそんなことできないんじゃないかな。言うだけで、具体的にどうしようとか、考えてないんじゃないかな……」

 殺してしまった、と激しく動揺していた姿を思い出す。
 今度こそ決着をつけるの、と言った緊張していた顔を思い出す。
 どうして、ともどかしさに顔をゆがめていたのを思い出す。
 後悔するくらいなら、手を出さなければいいのに。それはそれ、これはこれと割り切ってしまえばいいのに。
 きっと今回も、いや、今回こそは自分が何とかしないとと、また思いつめているのだろう。

 ヴァイオレットがいい感じに止めてくれるといいけど。

 ゼルがポツリとそんなことを呟いた、そんな時だった。ただ黙っていたラプンツェルが、大きく目を開いて、身を乗り出してきたのは。

「っ!」
「え、何? 急に激しく動き出して。僕の妹の話が聞き足りないって?」
「っ! っ!」
「んー、言葉で喋れないって不便だよねぇ。これがグレイだったら、僕は一言も間違えないで意思疎通できる自信あるけど、花嫁さんだと、何が言いたいのかよくわからないや」

 なにせ赤の他人だもんね、と肩をすくめながら続けるゼルに、ラプンツェルは緩やかに頭を振った。

「まぁいいや。グレイが助けに来てくれるまでの暇つぶしで、花嫁さんの一方的クイズでもしてようかなー」

 大げさに身を起こして、じゃらりと鎖の音を室内に響かせた。
 慣れた手つきで鎖を邪魔にならない位置へと動かし、ラプンツェルが正面になる位置で腰を落ち着けた。
 純白のウェディングドレスはあちこちに鈎裂きができており、割けたあちらこちらの部分から、フリルがたっぷりのパニエが覗いている。風圧でとれたのだろう、花嫁の顔を隠すためのヴェールは既にない。ティアラが引っかかったのか、綺麗に整えられたはずの髪はボサボサだった。綺麗に整えるために止めていたピンは役目を果たしきれなかったようで、だらんと薄金色に輝く三つ編みが、鎖に絡まっていた。
 ヴァイオレットと同じ、紫色の瞳。
 それだけで何に反応したのかは明白に分かっていたけれど、ゼルはあえて答えをぼやかした。

「花嫁さんが激しく反応したのは、僕の言葉だ。えぇと、グレイの話の中で反応しそうなのは……可愛いのは分かってくれたとして、具体的な部分かな?」

 ラプンツェルの意思を確認するように口に出すと、こくりとラプンツェルは頷いた。

「クソババア……林檎の魔女かな? アレは、花嫁さんが見ていたようにドラゴンに姿変えたけど、花嫁さんもアレに狙われていたのかな?」

 きょとん、と目を丸くしてふるふると首を振られた。
 まるで、それは初めて聞いたとでもいうような反応に、ゼルはなんとなく察した。

「あぁ、君が守られてた人か」
「?」
「僕はね、正直何も知らない。だって、グレイのこと以外どうでもいいからね。でもまぁ、グレイと雇ってもらっていたヴァイオレットのことは、多少ならわかる。多少さえわかれば、あとは想像できる。これってつまり、何が言いたいかわかる?」

 こてり、と首を傾げられた。

「君は、花嫁さん。アンバーのお兄さんであり、アウトキリア国の王太子の花嫁になった人。それと同時に、紫色の魔女ヴァイオレットが大切に守ってた子でしょう? あの子って呼ばれてた、自分の体の半分が欠けてまで守っていた子」

 違う? と問われても、ラプンツェルには反応に困った。
 キースの花嫁になった前半だけなら、頷けた。だが、ヴァイオレットが大切に守っていた子とは。体が半分欠けてまで守っていた子とは。
 塔にいた時だけのことを指していたのか。何故それを知っているのか。知らないとしたら、それは、彼の元に行った後のことを指していたのか。
 それなら、何故、目の前に現れてくれなかったのか。
 何故、ラプンツェルを手放したのか。

 ぐるぐると混乱する様子のラプンツェルを見て、ゼルは片膝に頬をついて、その淡褐色の瞳を向けた。
 何色でもないその色は、優柔不断の自分を表しているかのようで。ラプンツェルはくしゃりと、顔をゆがめた。

「まぁ、これは全部僕の憶測で、全然違うかもしれないし、全部本当かもしれない。それは別に、どうでもいいんだけどさ」

 一つだけ、教えて。

「グレイがね、君の姿を見た時に思わず言ってたよ。『花嫁様は、今本当に、幸せなのか』ってね」

 ねぇ、君は、幸せだった?
 あの人の花嫁になれて。あの人の隣に立てて。その時は、人生最高の瞬間だった?

 そう言われて、ラプンツェルは何も答えられずに、頭を抱え込んで蹲ってしまった。


 *  *  *


「花嫁はね、これまでの家族への愛よりも、愛しい人と育んだ愛を選ぶ。その時は、新たな愛を自分の家族の形にすることできるのが、幸せに感じると同時に、選ばなければいけないことに涙を流す人が多くいるんだって」

 だから、幸せであり、不幸せでもある。
 その瞬間を、中途半端でも体感した身はどうだった?

 彼の問いかけが、胸を打つ。
 あぁ、どうかお願い。これ以上わたしを責めないで。
 わたしが悪いの。分かってる。私が悪いの。
 だからお願いよ、選ばなかったお母さまも、選べなかったあの人も。何も悪くないの。悪いのはわたし。
 分かってるから。分かっているから、どうか。それ以上言葉を続けないで。

 家族への愛。
 そうね、お母さまへの愛は、お母さまが大好きだという気持ちは、家族への愛だった。

 愛しい人と育んだ愛。
 貴方への気持ちは、これに当てはまったのかしら? わたしは、お母さまへの愛しか知らない。でも、お母さまへと向ける愛とは違ったの。だから、きっとそう。

 選んで。選んだはずなのに。
 選べなくて。選びたいと思ったのに。
 結局ダメで。

 好きよ。大好き。
 それなら大丈夫、いくらでも伝えられる。

 でも、愛してる。
 それは、伝えられない。伝え方を知らない。言葉も知らなかった。

 わたしは知らないまま、選ぼうとしていた。選んだつもりになっていた。選ばされていた。
 ぐるぐると、回る。頭の中を回る。
 進めない。一歩も。あの人も、お母さまも。ぐるぐると、回る。
 私の世界は広がったようで、狭いまま。いつまで経っても、二人しかいない。
 二人しかいないから、わたしは分からないの?
 目の前の人を見つめた。淡褐色色の不思議な瞳をした彼。もし彼が、妹が大好きだと言った彼がわたしの世界に加わったら? そうしたら、わたしはまた新たな愛を作ることが、見つけることが出来る?
 そうして、またぐるぐると合わさって回るのかしら。分からないが、決められないが、増えていくのかしら。

「なんだっけこれ、マリッジブルー? やだねー、こんなのに僕の可愛いグレイがなったらとか考えるだけで……あ、大丈夫か。グレイがお嫁さんになる時なんか、この先ずうっとないもんね!」

 だって、僕がいるし。そう続けた彼の言葉にまた気付かされる。
 マリッジブルー……。あぁ、誰かがそう言っていた。誰だったろうか。準備を手伝ってくれた人だったろうか。それすらも、覚えていないなんて。それを言ってくれた人ですら、わたしの世界に入れられなかっただなんて。

「ねぇ、ちょっと大丈夫? 泣くのはやめてね? 女の子泣かせたら、グレイに軽蔑されるから」

 清々しいほど彼は妹が中心で。いっそ自分もそうなれたらよかったのに。
 お母さまでも、あの人でも。どちらでもいい。どちらかが中心にして、それがぶれなければ……。
 あぁ、だめよ。お母さまが中心だったのに、それをやめたのはわたしじゃない。あの人を入れたのは、他でもないわたしじゃない。

 涙は流れない。それでも、心の中はひどく荒れ狂っていて。顔が、あげられなかった。
 困ったようにため息をつく音が聞こえた。じゃらり、と鎖が鳴る。

「うん?」

 遠くで、かつん、と音が聞こえた。
 連続して聞こえる、足音。

「んー? 二人分? あのクソババアじゃなさそうだし、ちゃんと歩いてるし、……誰だろ? 僕には心当たりないけど」

 ゆっくりと頭を持ち上げた。酷い顔、と声を掛けられた気がしたけれど、扉の方へと目を向ける。
 かつかつ、と。かつん、かつんと。誰かがここへ来ようとしている。あぁ、誰だろう。誰だろう。
 わたしにもわからない。
 息をのんで、扉が開くのを見ていた。

「人の気配がするぞ! おい、ここじゃないか!」
「本当の本当よね!? もう無駄足は嫌よ! そう言ってアンタ何回外したと思ってんのよ!」
「今度は本当の本当だ!」

 騒がしい声が聞こえる。騒々しい男女の声。
 そして、扉が開かれる。

「無事かっ!」

 勢いよく入ってきた緑色の髪の男の人。続いて肩で大きく息をしているピンク色の髪をツインテールにした女の子。
 言葉が出ない私の代わりに、彼がぱちくりと目を瞬かせて言った。

「……誰?」
「味方だ!」
「誰に対しての?」
「お前らに対しての、だ!」
「帰れ」

 ただ、そのあとに続く言葉は、どこまでも冷たかったけれど。
 どうして、そんなことを言うの?
 せっかく助けに来てもらえたのに。わたしと違って選べる貴方なら、ここから出て、妹さんに会いに行けばいいのに。

「別に、あんたみたいな上から目線の偉そうな奴に助けてもらわなくても、今のところ困らないし。全部終わったら、僕の可愛い妹がきっと助けに来てくれるからね。あ、どうぞどうぞ、僕のことは気にしないで」

 困ったようにわたしの方を向く、緑色の髪をした男の人。視線を向けられて、びくりと固まった。
 選べないわたしが、一緒に行っていいの?
 ううん、違う。一緒に行ってどうするの?

「何言ってんのよ、アタシは別にアンタなんか助けないし、ここから帰る気もないわ!」
「はあ? じゃあ、なんで来たんだよ?」
「避難よ!」

 堂々と言ってのけた女の子の言葉に、わたしも彼も面食らった。
 えぇと。避難してきた、と言う事は、この子たちも浚われてきたのかしら? あのドラゴンに? でも、それにしても様子がちょっとおかしいような……。

「アンタの大事な大事な妹がドラゴンと戦っている間、アタシは囚われのお姫様たちを守ってるって言っちゃったのよね。まぁ、なんていうの? 利害の一致ってヤツ?」
「へえー…ええええええっ!? グレイがっ? グレイがアレと戦ってるって言うの!? 捕まってる場合じゃないじゃん! あんなにか弱くて可愛い子にそんなことさせるなんて、お前らに心はないのか! 鬼かっ! お前らもドラゴンかっ!」
「ジーク、止めて」
「了解だ」
「ちょ、おい! 放せよ! 僕がグレイを助けに行かないと!」

 ガチャンガチャンと鳴る鎖を振り回して暴れる彼を、羽交い絞めにして抑える緑色の髪の男の人。
 そんな彼らの様子など気にも留めずに、ピンク色の髪の女の子は薪がない暖炉に火を灯した。ふっと軽く一吹きしただけでつけるなんて、まるでお母さまの魔法みたい。

「アンタたちは囚われのお姫様の役目なの。物語が結末を迎えるその時まで、出番はないわ。ここで大人しく守られていなさいよ」
「はあ!? 何気持ち悪いこと言ってるのさ! お姫様は、こっちの彼女だけだろ? ていうかむしろ僕のグレイこそがお姫様なのに、なんで!」
「それが、彼女が選んだ道だからだ! えぇい、大人しくしろ!」
「そしてそれが、一番理想の結末だからよ。アタシは、巻き込まれないように。アンタたちも巻き込まれないように、ここに避難して、この塔を守っているだけ。安心して頂戴。アレを倒したのなら、さくっとここから出ていくし」
「そして、俺と結婚だな、オディール」
「何しれっと言ってるのよ! まだそうと決まったわけじゃなでしょっ!」

 結婚、という言葉に、きしりと胸が痛んだ。
 彼の妹は来ている。でも。でも、貴方は、わたしのために、ここまで来てくれているのかしら。お母さまは、わたしのために動いているのかしら。
 選べなかったわたしは、次こそ、ちゃんと、選べるかしら。

「王子が二人もいるし、いざとなれば肉盾にでもするくらいしたたかさを持っている子でしょ、あの子」
「それでも!」
「紫色の魔女の力を引き継いで、本当の魔女になってるの。それでも心配って、アンタ相当なシスコンね」
「そうだよ! 僕がグレイを大好きなのはもう今更だよね! って、え。ちょっと待って。本当の魔女? ヴァイオレットの力を引き継いでってどういうこと? そこんとこ詳しく!」
「いいわよ別に。暇つぶしにはなるんじゃない?」

 自分勝手な人たちは、好き勝手に言葉を交わす。
 そして知る。互いのことを。
 自分が知りたい人のことを。知りたい内容を、知りたい今を。
 わたしにはそれができない。

 あぁ、だからなのね。

 やっとわかった。わたしはどうしてぐるぐると回ってしまっていたのか。
 どうして、わたしの世界が狭いままだったのか。広がったつもりでいたのか。
 わたしは、何も知らないまま、選び取ろうとしていたから、何も選べなかったことも。
 やっと。やっと、わかった。
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