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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

14 挑む者たち

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 知識だけでは、分かったつもりになっていた。

「オノレ、小賢シイ!」

 ドラゴンの鋭利な爪も、ずらりと並ぶ牙も。

「それは、こっちの台詞でもあるわ!」

 暴風を起こすかのような、強靭な翼も。

「ぐぅっ!? さすがに、硬いな」

 刃を通さないほどに硬い鱗も。

「っ、アンバー引いて!」
「ブレスかっ!」

 ごうう、と雪を溶かし、地面抉り取る勢いの強いブレスの威力も。全部全部、分かったつもりでしかなかった。
 聞くのと体験するのとでは大きな違いがあると言われているが、これはそれ以上である。想像などを遥かに超える強さであり、太刀打ちできる存在ではないと、本能が叫んでいる。
 一度でもあの爪に引き裂かれたら。一度でもあのブレスを浴びてしまったら。一度でも攻撃に当たってしまったら。
 たったの一度ですら気を抜くことですらできない相手。酷く神経を使う。

 ふっと鋭く息をついて、一息に飛ぶ。
 長い首をゆっくりと動かして、グレイが飛んだ後をブレスの光線が追いかけてくる。熱量と閃光が背中を追ってくるその感覚に、鼓動が嫌でも早くなる。
 追いつかないほどに早く。それでいてアンバーの位置を忘れないように、攻撃しやすい位置取りでいれるように。

 魔女としての戦い方も、知識として受け継いだ。
 それでも実践するのは初めてで。実戦になるのも生まれて初めてで。上手く息が吸えない。
 やるしかないのだ。他でもない、自分が。
 グレイしか、あのドラゴンに太刀打ちできる相手はいないのだ。
 その思いだけで、ぱちんと指を鳴らした。
 ブレスの勢いが弱くなってきたのを見計らって、巨大なフライパンで叩くようなイメージをして、魔力の塊をドラゴンへと撃ち落とす。
 ずん、とドラゴンの頭が地面にめり込む。ぼしゅり、と外に出きらなかったブレスの残りが、ドラゴンの口の中で小さな爆発を起こしていた。もくもくと黒い煙を口の隙間から零したその隙に、何度も何度も指を鳴らす。
 ぱちり、ぱちり、ぱちり。
 時に鋭利な槍を降り注いで地面に縫い付け、時に火の玉をいくつも造り出し多方面からぶつける。

「っ、はぁ」

 息が荒くなる。
 これで正しいのかと、考える余裕なんかない。戦略? そんなのを練る余裕なんかあったら手を休めずに攻撃をしなければ。
 アレは、考えて倒せるような相手じゃない。
 どうやっても、どうしようかとも。いくつか考えていたことはあったと思う。それもなんだったかは、もう、忘れてしまったけれど。

「グレイ! 気を抜くな!」
「わかってるっ!」

 アンバーが鋭く叫ぶ。
 彼は彼で、翼の膜を狙って剣を振っているようだが、そこに気を配っている余裕などかなかった。
 息をつく暇もないくらいに、ドラゴンは何をしても攻めてくる。
叫び返した瞬間に、空気を切り裂いて長い尻尾が振り回されてきた。
 ぱちん、と指を鳴らした瞬間に、視界が鱗いっぱいに覆われる。

「グレイッ!」

 気付いた時には粉雪を舞い上がらせて、地面に叩きつけられていた。勢い良く叩きつけられた尻尾は腹部を圧迫し、息をするだけでも胸が痛く感じさせる。地面に叩きつけられた背中は言うまでもない。

「っはぁ!」

 息が詰まった。胸の奥で何かが詰まっているかのような感覚。動かすだけで痛い。息を止めて、意識を痛みに向けないようにして、ぱちんと指を鳴らした。
応急処置だけでも魔法で済ませて、再び飛ぶ。一拍後、今いた場所に、ざくりとドラゴンの爪が地面をえぐった。
 咄嗟に防御膜を張ったのに、それでもおそらく骨をやられた。痛みに慣れていないから猶更そう感じるのだろうが、もし防御膜が間に合ってなかったらと思うと、ぶるりと背筋が冷えた。

「無事かっ!」
「なんとか!」
「チョコマカト!」

 あぁ、キリがない!
 飛び交う言葉。交わす視線。
 互いにそう思っているのは、嫌でも伝わった。
 何か決定的なことがない限り、グレイたちの分が悪いままである。ジリ貧であり、このままだと集中力や体力が持たず、先にどちらかが倒れてしまう。
 それでも二人に打開策が思い浮かぶこともないまま、ただ目の前の敵に立ち向かうだけであった。


 * * *


「あああああっ! もうだめ見れられない! 僕も行くっ!」

 塔の中からハラハラと様子を伺っていたゼルだったが、グレイが吹き飛ばされた光景を見てしまった後、頭を抱えて絶叫した。
 じゃらじゃらじゃらりと大きく鎖の音を響かせて、鍵がかかっていない扉へと駆けだしていく。

「ジーク」
「お前が行ったとしても、何の力にもならない! 落ち着け!」
「可愛い僕の妹がいたぶられているんだよ!? あのクソババアに! 僕が行かなくて誰が行くって言うのさっ!」
「馬鹿ね、行ったとしてもアンタなんか余計なお荷物にしかならないわよ」

 ジークが羽交い絞めにしてゼルを止めたのを見ると、オディールは鼻で笑った。

「アタシの話、ちゃんと聞いていた? アンタの妹は、紫色の魔女から魔女の力を受け継いだ。アンタが知ってるカワイー妹じゃなくて、歴とした魔女。ついでに、一緒にいるのは戦い方を知っている、魔女の眷属予定のどっかの国の騎士隊長なんでしょ? なら、戦いに素人なアンタがいない方が、二人は戦いやすいんじゃないの?」
「そういう問題じゃないんだって! 見てわかるだろ! あのままだとどうしようもないってこと!」
「まぁ、それは分かるが」
「分かってて放置なのかよ! じゃあ何だよ!? お前らが行ってくれるわけじゃないんだろ!? 助けてくれるわけじゃないんだろ!? 分かってるから僕が動くんだよ! 僕しか助けに行ける人がいないなら、僕が動くしかないじゃんか!」

 力にならないのは分かってる。何もできないのは分かっているけれども、少しの隙くらい作ることくらいなら、もしかしたらできるかもしれないじゃないか。
 気迫迫る声で叫び、鎖で繋がれているのを少しも感じさせない動作でもがくゼルに、ジークは唇をかみしめて押しとどめていた。
 オディールは興味がなさそうに静かに首を振った。

「アンタを無駄死にさせるのは、悪魔の娘たるアタシの約束違反になるのよねー」
「それはお前らの都合でしかないだろ!」
「そうね、アタシはアタシの都合でしか動かない。違わないわ?だってそれが悪魔だもの。悪魔の娘であるアタシだって一緒」

 だから、そこの花嫁モドキと一緒に、黙って結末を見届けていればいいじゃない。オディールはそう続けるも、ゼルにはできそうになかった。
 ヴァイオレットはもういない。その事実を突如告げられ、茫然としているラプンツェルは、ただ静かに窓の外を見つめている。外を見つめてはいるが、その焦点は合っていない。
 あのようになれと? あのように絶望した顔で、何かを失ってしまったような顔で、ただぼんやりと待っていろと?
 そんなのできるはずがない。

「ふざけんなっ!」
「あー、もーキャンキャン煩いわね。そんなに吠えるなら犬にでも変えるわよ!」
「……オディール。頼むから俺を巻き込んでカエルにはするなよ」
「真面目な顔して何言ってんのよ! 当たり前でしょっ!」

 本当にやらないわよ、馬鹿! と続けざまに詰られるも、ジークに堪えた様子はない。ゼルを拘束する手が緩むこともないその様子に、ああもう! と苛立ったようにゼルが地団駄を踏んだ。

「僕はこうしている暇なんかないんだってば!」
「気持ちはわかるが……」
「分かるなら放せよ! 僕を、グレイのところまで行かせてよ! 助けさせてよ! そうじゃなきゃ、お願いだから。僕の大事なグレイを、唯一の家族を、妹を……助けてよ」

 お願いだから。かすれた声で懇願されたジークは、唇を震わせたまま、何も答えなかった。答えられなかったのかもしれない。
 もし。
 もしもの話だ。
 それが己の立場だったら。
 オディールが同じようにドラゴンと戦っていて、己が動けない状況だったら。
 同じように懇願しただろうか。同じように動こうとしただろうか。
 そしてそれを止められた時。
 果たして、ゼルと同じようにしないと、言えただろうか。

「……」

 何も言えなくなったジークに、力なく縋りつくゼル。
 オディールが小さく息をついて、ジークに触れようとした、そんな時だった。

「何、悩む必要も、そんな悲壮な顔をする必要もありませんよ、物語は幸福な結末に向けて、僭越ながらこの私が動かせて頂いておりますので」

 突如現れた胡散臭い笑みを浮かべる悪魔。
ロッドバルドはすべてを知ったような顔で笑い、ぎょっと手をひっこめたオディールは真っ赤な顔をして叫んだ。

「ロッドバルドアンタね! 急に現れるのやめなさいよ!」
「おや理不尽な。突然現れるのは悪魔の楽しみの一つではないですか、それをやめろというのは、悪魔の娘としての台詞なら、非常に残念なものですね」
「そういうことじゃなくて! もう! 急に現れて何よ!」
「あぁ、そうそう。灰色の彼女から『不幸せだわ』と、『アレのどこが私たち兄妹への贈り物だと言うの』と言われてしまいましてね。お詫びとして淡褐色の兄君の方にはせ参じたのですが」

 私の助けは、必要ですかね?
 ゆっくりと問いかけられた言葉に、ゼルはゆっくりと顔を上げた。そしてロッドバルドを見つめて、不思議そうに首を傾げた。

「……もしかして、お前、あの時の、笛吹き男?」
「あぁ、そんなことをしていた時期もありましたね。ある時は公爵、ある時は王子の側近、ある時は恋に溺れる愚かな男で、ある時は子どもを連れ去る笛吹男。その正体はすべて私、悪魔たるロッドバルドです」
「御託はどうでもいいよ。僕を助けてくれるの? どうやって? 何をしてくれるというの?」

 責め立てるように、それでいて切羽詰まったように縋るようにして言葉を重ねるその様子に、ロッドバルドはくすりと笑って、静かに窓の外を指さした。
 御覧なさい、と指さされた先に見えたのは、雪の中でもはっきりと目立つような赤い髪の男。白いマントをたなびかせ、剣を振りかざしてドラゴンへと立ち向かっていく。
誰かが援軍に来てくれたと、ほっとしたと同時に、今まで微動だにしなかったラプンツェルが、唐突に立ち上がった。

「っ!?」
「な、なに、どうしたの?」
「まぁ、少しばかり動揺しても仕方がないでしょう。なにせ彼は、彼女の王子さま。あぁ、貴方に分かりやすく表現するとしたのなら、アウトキリア国の王太子、あの猫に変えられたアンバーの兄にあたる人物になるのですからね」

 花嫁を救い出すために、果敢にドラゴンに立ち向かったのですよ。
 愉快そうに紡ぎ出されたロッドバルドの言葉など、ラプンツェルの耳に入ってはこなかった。
 思わず窓に両手を付け、赤い色をしっかり見つめようと身を乗り出す。じゃらりと重たげに鎖が揺れるが、そんなことを気にも留められなかった。
 だってそうだ。もし彼が、本当に、自分の思い描く相手だとしたら。
 もし本当にそうだとしたのなら、ラプンツェルは立て続けに、大切な相手を失うことになってしまう。未だにヴァイオレットが本当に消えてしまったことに対しても受け止めきれないのに、もしかしたら、キースも消えてしまうことになってしまうかもしれないなんて。
 これ以上大切な、ラプンツェルの好きな人が消えてしまうなんて。ラプンツェルの広いようで狭い世界にいる人がいなくなってしまうなんて。
 やっと、分かったのに。何もできないまま、何も伝えられないまま、全部失ってしまうかもしれないなんて。
 そんなの。

「――――っ!」

 耐えられるはずもないじゃないか。
 音にならない声で、彼の名前を叫んだ。
 行かないでと、どうか生きてと。その思いだけで、届くはずもないと分かっていても叫んでしまった。

 激しく取り乱すラプンツェルの様子に遠慮してか、誰も窓際に寄ってこない。それをいいことに、涙まみれの顔を窓にくっつけ、必死に彼の姿を追う。
 あぁ、今ドラゴンにとびかかった。
 ブレスがくる、どうか避けて!
 やめて、彼を傷つけないで!
 お願いよ、どうか彼をわたしから奪わないで!
 嗚咽ですらも音にならなくて、とめどなく流れる涙が頬を伝い落ちる。

「大切なものを奪われる気持ち、つらいわね」

 ふと、鏡に映るのは、自分ではないことに気付いた。
 光が入らない悲し気な瞳で、銀色の長い髪を冷たい雪風に揺らす知らない誰か。

「わたしだって同じよ? 大切なわたしのものを返してほしいだけ」

 全部、無茶苦茶にされてしまったけれど。元のようには、戻らないけれど。
 つう、とガラスの反対側から手を重ねられる。ラプンツェルは、ただその悲し気な瞳を静かに見上げていた。

「一番に大切だったものは、もう、失ったものは戻ってこないってわかってても。そのよすがだけでも、縋っていたいもの」

 ほう、と小さく息をついた名も知らない彼女。
 何を言っているのかは、ラプンツェルにはよく分からなかったけれど、それでも、彼女が大切なものを全部失った状態なのはよくわかった。
 それはまるで、未来の自分を見ているかのようで、思わず瞳を伏せれば、彼女は小さく囁いた。

「あなたは、わたしと同じになるのかしら?」

 同じ目をして、生きる意味を、よすがだけに縋るしかなくて、それを盲目に愛すしか、もう分からなくなるの。それでも、わたしはいいのだけれども。
 くすりと笑ってそう呟いた彼女は、ふわりと雪と共に舞い上がり、やがてドラゴンに大きな氷の礫を打ち付け始めた。
 彼女も、ドラゴン退治に参戦したのだろうか。
 彼女自身が奪われた何かを、取り戻すために。
 灰色の魔女と呼ばれたゼルの妹。鮮やかな赤色の王子。そこに悲し気な瞳をした、雪のような白の彼女が加わった。
 二人の加勢に、戦況は激しさを増していく。
 一心にその様子を見つめるラプンツェルに、笑みを浮かべて状況を見守っているロッドバルド。険しい顔で外を見つめるゼル。
 不意に、ジークが動いた。扉に手を当て、押し開ける。冷たい風が室内に入り込んできた。

「ちょっと、ジーク」

 何をするつもりと、言外に強く責めるような言葉で、オディールはその行動を咎めた。
ジークの動きが止まったのも一瞬で、ゆっくりと振り返ると、真っすぐにオディールを見つめる。真剣な瞳で。その瞳で見つめられるだけで、思わずたじろいでしまうくらいの、強い視線で。

「……行かせてくれ」
「馬鹿じゃないの! なんのために、アタシが、あれこれ手を回して、こうなるようにしたと思ってんの!?」
「全ては、俺のためだろう?」
「っ、ちが……! いや、違わないわ。そうよ、全部アンタが弱っちいからよ!」
「オディール、今正直に、俺が『俺たちの婚儀のため』って言ったと思っただろう?」
「うっさいわね! そこは華麗にスルーしなさいよ馬鹿っ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶオディールの反応に、ジークはそれはそれは嬉しそうに笑って、一歩、外へと踏み出した。

「ちょっと!」
「まぁ、俺は確かにオディールのように悪魔の力は持っていない。あの娘みたいに魔女の力もない。ただ、この腕一つで戦場も王宮も駆け抜けてきた。思うところは色々あるが、あのアウトキリアの王子二人が戦えているのなら、俺も多少なりとも力になれるのではないかと思うのだ」
「自信過剰! あんなのアンタが太刀打ちできる相手じゃないのは見てわかるでしょ! アイツが行ったから、アイツができるからで、アンタまでもできるとは限らないのよ!」

 行かせないとでも言うかのように、オディールはぎゅっとジークの腕を掴んだ。それはまるで行かないでとでも言うかのような、頼りない力で、掴む手が少し震えている。
 それに気づいたジークは、安心させるかのようにぽんぽんとオディールの頭を優しく叩いた。

「それでもな、もし俺が彼の立場であったら。もし、お前が彼女の立場であったらと思ったら、やっぱり俺は微力でも力になりたいと思うのだ」
「それが、勝手な思い違いで。アンタが勝手に自意識過剰になってるって言うのよ……」
「すまんな、一番力になりたいのはオディールには違いないが、きっとこの後もっと幸せな結末に向かうようにするには、今、物語を幸福な結末に導く力になる必要がある」
「アタシが、アンタの一番ていうなら、ちゃんと一番にしてよ!  一番に考えなさいよ! ……アタシだけで、いいじゃない」
「俺は欲張りなんだ。お前だけじゃなく、お前と笑う未来までも欲しいんだ」
「本当に、もう、この、馬鹿。本当に、馬鹿」

 だんだん声が小さくなっていくオディールが、力なく掴んでいた手を下ろす。顔が蕩けそうなくらいに満面の笑みを浮かべたジークは、俯くオディールをぎゅっと抱きしめて、今度こそ進もうとした。
 かつ、かつと階段を下りる。

「ジークッ!」

 不意に、オディールが強く叫ぶ。反射的に振り返ったジークは、視界いっぱいに映るオディールの顔しか見えなくて。
 目じりに涙をためて、頬を真っ赤にしたその顔が酷く愛おしくて可愛くて、そんなことに気を取られていたら、噛み疲れるかのようにして、唇を奪われた。
 ちゅ、とリップ音を響かせて離れる柔らかいそれ。
 思わずもう一度と追いかけ掛けて、体が異常に軽いように感じる違和感に止まった。

「アタシの力、少し分けてあげる。だから、ちゃんと、アタシのところに、帰ってきなさい」

 目を合わせないで言うその姿をしっかりと見つめて、ジークは今度こそ、階段を下りて行った。
 やがて外の光景に、緑色の騎士が加わる。
 静かにラプンツェルの横に座り込んで、そっと緑色を見つめるオディール。

「待ってるのって、辛いんだから。一人は、途方もなく、辛いんだから。もう、これ以上辛い思いなんかさせないでよ、ばか」

 小さくそう呟いたオディールを、ラプンツェルはそっと抱き寄せて、二人で小さく祈りながら、外の様子をただ静かに、見つめていた。

「……ねぇ、アンタはいかないの?」

 ただ静かに想い人を祈ることしかできなくなった二人の少女の姿をじっと見つめ、ゼルは静かにロッドバルドへと言葉を投げた。

「僕には理解できないけど、この現状を何度も物語と口にされた。それなら僕やお姫様が囚われの役、参戦した人たちは勇敢な騎士の役。悪役はアイツ。分かりやすい配役だ。そこにいるアンタはなんだって言うの?」
「なに、ただ悲劇にも喜劇にもならないように、見守っているだけなので、どうぞ私のことなど、気にも留めずにいて頂いて結構ですよ」
「喜劇だ、悲劇だ、そんなこと言ってるなら劇作家気取かよ?その割に、物語に介入しすぎだろ。だったら、さっさと悪魔の力とやらを使って、お前が望む結末に変えてしまえばいいだろ」

 苛立ちを隠さない様子でそう吐き捨てたゼルの言葉に、やれやれとロッドバルドは肩をすくめた。
 その態度がますます苛立ちを煽っているのは、分かっていてやっているのだろうか。悪魔だから、あり得なくもない話だ。落ち着け、と自分に言い聞かせはするも、腹立つものは腹立つ。

「作者アクマの手が介入しないと、物語を制御しきれないでしょう? そうですねぇ、敢えて言えば、今の私は強靭な檻であり、守りの要とでも思っていただければ」
「はあ?」
「攻撃の余波に巻き込まれて、助けが来る前に死んでしまったら、唯の喜劇。いいえ、元も子もないでしょう?」

 違いますか、と問われ、違わないけど、としか言えないゼル。
 ジークと異なり何もできない自分が酷くもどかしく、深く深くため息をついた。

「僕が囚われのお姫様の一人って配役な時点で、どう考えてもミスキャスト。喜劇にしかならないってのに、今更、何を言っているのだか」
「何を言っても、すべては今更に成り代わってしまうのですよ、それが不条理な世の摂理というものです。さぁ、与太話は後にして、どうぞ外をご覧ください。物語が大きく動き始めたようですよ」
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