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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

15 打開策

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「二人で無茶をするなっ!」

 突然参入してきた鮮やかな赤毛の彼。アンバーにとっては見慣れた姿の彼は、炎を剣に纏わせて、その翼の膜に深々とした傷を斬り込み入れてきた。

「殿下!」
「っの、馬鹿!」

 ぱちん、とグレイが焦ったように指を鳴らすと、反射的に襲い掛かってきたのだろう尻尾がキースの体にぶつかる前に空へと弾かれた。
 尻尾の軌道を無理やり変えられたドラゴンの動きが一瞬止まった。その隙を逃さないアンバーは、素早く斬撃を放った。
 キースがつけた裂傷が更に大きく破ける。

「よくやった!」
「そんなことやってる場合じゃないでしょ!」
「ヨクモ、ヨクモヨクモ!」
「ブレスが来るぞっ!」

 散れ! とアンバーが叫んだ瞬間に、グレイとキースが宙に退避した。魔法が使えるのはかくも便利なものだと、雪を振り掛けられながらも地面を駆け避けた。
 だが、裂傷を大きくしたアンバーに狙いを定めたのか、ブレスはどこまでも地表を滑り、アンバーを追いかける。
 足場が悪い地面を蹴り進めるも、逃げ場は宙以上にない。

「っ」

 迫りくる熱量。先ほどよりも近くなる。背中に近付いているのを嫌でも感じる。熱量が減る気配がない。
 まずいな、とアンバーが軽く舌打ちをしたその時、ぱちんと近くで指を鳴らす音がした。同時に、体に違和感……いや、馴染んだ感覚。

「アンバーッ!」
「ぐぅっ!?」

 お腹に回された腕に強く引っ張られ、両脚が地面から離れる。遠ざかる熱量。ぶらりと揺れる後ろ脚を視界に入れて、あぁやはり猫になったのだなと、あきらめのため息をついた。

「すまん、助かった」

 まぁ、助かったならいいかと思いかけたが、ふと自分の肉球をふにふにして、これでは剣を持てない! と言う事を気付いた。
 元に戻すように抗議しようとしたが、それよりも先にぎゅっと強く抱きしめられた。ぴん、と張った髭は、激しく動く風の動きは感じていない。
 どうしたのかと、グレイの方に顔を向けると、浅く呼吸を繰り返しながらこわばった顔をドラゴンへ向けている。よくよく耳を澄ますと、ドドドドド、と早い鼓動がよく聞こえた。
 アンバーは琥珀色の瞳を丸くして、グレイを見上げた。

「グレ」
「来るっ!」
「ぐうっ」

 腹を抱えられてるアンバーは、圧迫されて変な声が喉から出たが、落とされては堪らないと爪を立てて堪えた。

「地面に下ろせグレイ! 手を塞がるのはまずいだろう!」
「大丈夫よっ!」

 近くにいるのに叫ぶように返すその様子が、殊更に余裕がないのがよくわかる。放してなるものか、とでも言うかのように抱きしめる力が強くなっていた。
 苦しい、と抗議するよりも先に、襲ってきた爪を避ける為に急上昇した反応速度に言葉は喉で止まった。
 グレイがぱちん、と指を鳴らした。ドラゴンの意識がキースに向かっていることが気にくわないとでも言うかのように、鉄の楔を打ち込む。どつん、と地面に突き刺さったソレをするりと回避したドラゴンの鎌首が、ゆっくりとグレイに向かう。血走って真っ赤になったその瞳がグレイを映すと、大きく息を吸った。
 ブレスがくる。グレイが身構えると同時に、キースがその尾に炎をまとった剣を突き立てた。

「グアゥッ!?」
「燃え灼けろ!」

 キースが纏う炎が白い色へと変化し、その熱量は降り積もっていた雪を水へと溶かすほどの威力となっていた。
 ぱちん、とグレイが再び指を鳴らす。
 その魔法の効果を見るよりも、アンバーはグレイを見上げた。
 浅い呼吸を繰り返して、ただ機械的な攻撃方法になっているのは既に分かっていた。鼓動だって早鐘を打ち続けている。こわばった腕で、必死に抱えられている。小刻みに動く視線はあちこちを見ているように見えるが、ただドラゴンだけを見詰めているのが分かる。
 新人兵に見られる状態だ。周りも見えず、結果だけ求めるばかりで、どうしていいのかもわからない。非常に良くない状態である。
 ぶらりと後ろ脚が宙に浮いた状態で、アンバーは戦況へと視線を滑らせた。
 己の鱗を貫く力を持つキースに注意を大きく払っているのか、狙いを彼に定めることが多い。気付けば増えた攻撃手たちが、タイミングをずらしてその狙いを分断させようとしている。
 雪をまとった白い魔女が。四次元的に動く緑色の騎士が。戦場での動き方を知っている者たちが、劣勢だった戦況を盛り返している。

「何人タリトモ、ワタシノ美シイモノニハ、近寄ラセナイ!」

 びりびりと空気を震わせて咆哮したドラゴンは、その身に吹雪をまとった。近寄れば氷の礫がいくつもぶつかり、宙の風向きを縦横無尽に切り替えて飛行を難しくし、なにより吹雪の影響により炎の勢いを弱めているのだ。
 それぞれの武器を構えながら、距離を置いてドラゴンと対峙する。誰かが人を見下してみているドラゴンを見上げて、忌々しそうに一つ舌打ちをした。

「攻撃が届かないのは、痛いな……」
「困ったわ。私の魔法を見ただけで、学習したのね」
「一筋縄ではいかない相手と、分かってはいたがな」

 ぽつりぽつりと、会話するでもなく呟かれた言葉を拾い、アンバーはぱたりと耳を動かした。くるりと琥珀色の瞳を瞬かせて、再びグレイを見上げた。
 グレイは、動かない。宙に浮いたまま、宿敵に微塵にも興味を向けられることもないまま、ただ茫然と浮いていた。

「グレイ」
「……何かしら」
「返事をする余裕ができたか?」
「自分の無力さにあきれ果てて、余裕も何もないわ」

 努めて深く呼吸を繰り返そうとしながらも、戦況を揺れる瞳で見つめるその姿勢に、アンバーは満足そうに頷いた。

「魔力を手に入れたとしても、戦うすべを知らなかった者が急に戦えるかと言えば、まあ難しかっただろうな」
「そう、ね。闇雲に攻撃したとしても、学習されて防がれるだけ。あの人たちの戦い方を見てれば、私がやったことがいかに無意味だったか。……嫌でも、分かったわ」
「それで、立ち止まってどうするのだ? このまま手を引いて逃げるつもりか?」
「まさか」

 アンバーの問いを、グレイは鼻で笑った。

「打開策を探しているのよ。幸い、私のことなんて今、あの人たちの意識にはないわ」

 皮肉気にでも笑った。笑える余裕はできた。無理やりにでも造り出したとしても、先までの切羽詰まった様子ではない。
 そのことに満足そうに頷いたアンバーは、一つ喉を鳴らして体をねじり、その身をグレイの肩へと移した。手持無沙汰に後を追いかけてきたグレイの手に艶やかな毛並みを触れさせて、不敵に笑った。

「打開策なら、見つけたぞ」
「本当に?」
「本当だ。伊達にしばらく戦況を見ていただけではない。なにより私は、これでもアウトキリアの琥珀騎馬隊隊長を務めていたのだからな」
「そう。なら、猫隊長に任せるわ。……指示して頂戴、従うから」
「任せるがいい」

 勝機は見えた。あとはそこに繋げるだけだ。
 アンバーの心強い言葉に、グレイはゆっくりとアンバーの艶やかな毛並みから手を放した。
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