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「Hazel amd Gray」
黄金色を探して

16 決着

 ←15 打開策 →17 二つの結末

 アンバーがグレイに伝えたのは、シンプルな作戦だった。
 何を言っても気にするな。ただ自分を連れて、一定の距離を保ったまま逃げてほしいと。合図をしたら、急接近してほしいこと。
 攻撃をするという知識だけを受け継ぎながらも、それを自分には活かせないことは嫌でも理解したグレイは、思考することを止めないようにしながらも、アンバーの指示に従った。

「こうも大きければ、格好の的だな!」

 吹雪の影響を受けない、ギリギリの範囲で。アンバーが振り落とされないような速度で。それでいて、ドラゴンの攻撃は受けず、言葉が届くような、そんな微妙な距離。
 動きを予測し、範囲を特定しながら飛ぶことの、なんと難しいことか。グレイは自然と息を詰めながらも、前を見据えた。

「まるで宝石の原石を削っているかのようなものだ! 当たれば当たるほど、竜の鱗が欠片でもはがれる!」

 白の魔女は、一体この猫は何を喋っているのだろうと、若干呆れたような視線を向けた。それもほんのわずかな間のことで、すぐに意識をドラゴンへと戻した。猫が馬鹿なことを言っているとでも言いたげな態度が、明らかに分かる。

「っはあああ!」
「そら! これでいくらだ? 二十万か?」

 キースが隙をついて剣を振るうと、キラキラと鱗の破片が飛び散る。そんなタイミングにヤジを飛ばすと、五月蠅いとでも言うかのようにブレスが飛んでくる。
 そんなことを何度か繰り返していると、やがてドラゴンはその姿を変えた。
 つるりとしたフォルムの、ドラゴンよりは一回り小さいヤモリのような姿に。その体表に鱗はなく、ちろりちろりと長い舌が地面に触れるたびに鋭く土が抉れた。
 時間はかかったが、予想通り一回り小さくなった姿を見て、アンバーはやはり変化を見ていたか、と納得したように呟いた。

「むっ、体を柔らかくしただと?」

 ふよん、と刃を押し返された感触に、戸惑った声を挙げるジーク。すぐ上空を飛んでいるグレイらの言葉のせいだと思い至ると、抗議の声を挙げた。

「鱗もない! これでは剣戟が通りにくくなるだろうが!」
「いや、何も問題はない! ハンマーで殴るにはちょうどいい大きさよ!」
「どちらにしろ、俺には関係ないがなっ!」

 それもすぐさまアンバーに肯定の言葉で返され、キースに証明されてしまえば、悔しそうに口をつぐんだ。そして負けてなるものかと、慣れない力を行使して、鱗のない姿の彼女へと向かって行った。
 自信ありそうに力強く放つ言葉とは裏腹に、アンバーはどこか苦笑しながら緑色を目で追った。彼女へと続ける言葉を少し悩みながらも、半分くらい彼に告げるつもりで再び口を開く。

「魔女の呪いで猫になった頃から見れば、まだ大きいくらいだ!私よりも小さければ、どうなるかと思ったが、こうもちょうどいい大きさになるとはな!」

 ぴたりと、ジークの動きが止まった。思わず声の主の姿を探し掛けたが、その隙をつかれて振り回された尻尾に吹き飛ばされた。
 盛大に地面を転がり、土と雪まみれになりながらも起き上がったジークは、言葉の意図も、向けられた言葉の意味もようやく理解した。
 そういうことなら、乗るべきではないかと。
 剣を構え、突撃する。目標をしっかりと定めながら、彼と彼女に向かって言葉を放った。

「確かにな、カエルに変えられたあの時は、これ以上に素早く動けたものだ! 皮肉なことにな!」
「あぁ! それは互いにとって、酷い皮肉だな!」
「違いない!」

 何の因縁か、戦っていた相手が、同じ呪いを掛けられた相手がいる。情報だけは知っていた相手が。剣を交えていた相手が。
 共闘しているのがかつて敵だった相手だとしてもいい。この敵が倒せるのであれば。その姿など、どうだっていい。
 皮肉気に一つ息をついて、彼らは言葉を連ねた。

「これだけ的が大きければ、当ててくれとでも言っているかのようだな」
「何、図体がでかいばかりで、奴の攻撃などほとんど当たらないのだ。何も恐れる必要などないだろうよ」
「違いない。カエルよりも小さくなられなければ、怖いものなどないからな!」

 アンバーとジークが言葉を重ねる。
 自分は関係ないとでもいうかのように、黙々と攻撃を続ける白の魔女とキース。
 苛立たし気に放たれる攻撃を避けるグレイも、ようやくアンバーの意図が分かった。
 白の魔女の攻撃も、自分の攻撃も、緑の騎士の攻撃も、どれも決定打に欠ける。唯一ダメージが大きく入っていそうな元王太子の攻撃も、なかなか当たらない。
 それならばどうするか。

 当たるような大きさと、状況に持っていけばいい。

 彼女は学習する。おぼろげながらも、美しい物以外に向ける脳を持っている。幸い、グレイがアンバーを変化させる場面を見て学習していたようで、アンバーの言葉の誘導に従い、その姿を強靭な体を持つドラゴンから、その下のトカゲの亜種のようなものに姿を変化させていた。
 今度は執拗に、カエルやら猫やらを繰り返している。
 あくまで強気な言い方。それでいて、分かりやすい誘導を繰り返す。知恵はあっても、人の姿から変化した彼女は、そこまで賢いわけではないようで。
 苛立たし気に体に傷を負っている彼女が、次に姿を変えるその時が、恐らくアンバーがずっと待っていた瞬間である。

「ナラバッ! ナラバッ! オ前ラガ苦手ナモノニ、変エテヤロウ! コレデッ」
「グレイ!」

 そう、今だ。
 グレイは姿を変え始めた彼女に近付くべく、強く宙を蹴った。ぱちんと指を鳴らして、急降下。ただ真っすぐに、一直線に突き進む。
 何に姿を変えるかは分からない。それでも口にしたのだ。従うと。魔女は嘘がつけないのだから、何になろうとも、アンバーが近付けと言ったのだから。
 とん、と肩を蹴られた。二本足が先に光へと突撃していく。

「捕らえた!」

 だん! と強く地面に叩きつけられる音。音だけで、姿は巻き上げられる雪にさえぎられて、何も見えない。
 ぐっと高度をとって距離を置いて、再びアンバーの元へと近付こうと思い、踏み留まる。
 彼が呼ぶのは、呼んでいるのはグレイじゃない。

「殿下っ!」

 唯一のダメージを与えていた、元王太子キースだ。

「せああああああ!!」

 キースが声の方向へと駆け出した。
 同時に、中心部に掛けて激しくなる吹雪を白の魔女が魔法で相殺させた。緑色の騎士が大粒の礫を無理やり軌道をそらせ、真っすぐに進む道を開かせた。
 鳴らそうとした指は、止まる。構えたまま、その先をじっと見据える。
 キースが剣を振りかぶった。赤い炎が剣先から噴き出して、その刃にまとわりつく。

「終わりだっ!」

 ゆっくりと見えたのは錯覚か、すぱんと鋭く振り下ろされた剣先は、猫の姿のアンバーと、爪を立てて取り押さえられたネズミへと吸い込まれていった。

「アン」
「ギャアアアアアアアアアアア!!」

 思わず叫びかけた言葉は、彼女の断末魔にかき消された。
 決着を自分でつける?
 そんなことはどうだっていい。
 だって、そんなことよりも。アンバーが!
 一緒に切り付けられただなんてそんなこと、信じない。信じられない!
 ただただ叫び声をあげてネズミの小ささから姿を再びドラゴンの大きさへと姿を変えている彼女の元へと、グレイは一直線に飛んだ。

「ワタシノ……、美シイ……モノハ……」

 彼女が言葉を発するたびに、喉元に深々と突き刺さった剣から血が噴き出る。ぐう、と奥歯を噛みしめながら、更に深く深く切り口を広げようとキースは剣を握る手に力を込める。

「誰ニモ……何一ツト、シテ……」

 げひゅう、と牙の合間から血がしたたり落ちて、地面を赤黒く染めていく。ボロボロになった翼や、鱗がボロボロに剝がされた体躯に力を込めて、伏せていた状態から首をもたげ、ゆっくりと身を起こす。
喉元の剣にも、傷口を広げようとしているキースにも、警戒して距離をとっている白の魔女や緑の騎士にも。何一つ気に留めることなく、真っ赤な瞳を大きく開いて、彼女は咆哮した。

「渡ス、モノカ……ッ!」

 最後の力を振り絞るかのような咆哮。執着の言葉。
 彼女が咆哮したと同時に、その巨大な体躯から光が放たれる。
 カッと視界を白くしたそれは、じりじりと身を焦がすかのような熱量を持っており、その中心地にいる彼女が何をしようとしているのか、嫌でも察せられた。

「自爆するつもりかっ!」

 緑の騎士が叫ぶ声が聞こえた。
 そんなの分かってる。この場から逃げるべきなのも、分かっている。

 でも、ここで自分が逃げたらどうなる?
 塔の中に捕らえられている馬鹿兄は、本当に巻き込まれないだろうか。
 姿が見当たらないアンバーは?
 ヴァイオレットの忘れ形見の想い人は?
 魅力的に思えた未来は?
 何度も決心しようとした自分の心は?

 一瞬のうちに目まぐるしく切り替わっていく思考と疑問に、グレイはぎゅっと、右手を握った。
 それからすぐに、中指と親指を合わせる。

『あなたにマッチの幻が、必要とならないように』

 一瞬、どこかで見たことのある少女と、ゼルによく似た青年が、グレイの右手に触れたような気がした。
 胸の奥に置かれた蝋燭に、ぽっと火が灯されたような、安心する力が湧いてくる。まるで暖炉の傍に座ってアンバーを撫でながら、ゼルとたわいのない話をしている時のような、そんな心地よさ。
 そんな遠くない未来のために、グレイは灰色の瞳を光の中心へと見据えた。

「さよならよ、義母さん」

 ぱちん、と指を鳴らした。
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