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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

プロローグ

 ←相談《求む、失われし言語》 →01 ま、色んな奴がいるってことだろ?

「……もう、わらわの力だけでは、この世界を支えられぬ」

 幼き声が、ぽつりと零した。
 小さな泣き言。小さなあきらめの言葉。
 それがただの幼子の言葉なら、その子を慰めれば済む話であろう。

「崩壊しか待てぬのか……? わらわは、この世界を見捨てねばならんのか?」

 大きな瞳に涙をため、必死でこらえるも泣き言を漏らす声は震えてしまう。
 今まで慈しんできた世界だからこそ。
 今まで愛してきた世界だからこそ。
 これまでずっと、それこそこの世界が生まれた時から見守り、育んできたからこそ、この事実に打ちひしがれるなという方が、少女には難しかった。

「わらわは、この世界の、神なのに……」

 切なかった。苦しかった。どうしようもなく、もどかしかった。
 神と呼ばれる存在なのに、万能の力を所持しているはずなのに、こうして世界がゆっくりと崩壊していく姿を見ているだけの自分が。
 どうしようもなく、歯がゆかった。

「……なぁ、どうして泣いているんだ?」
「誰だ!?」

 この場には、神たる自分しかいないはず。
 自分が干渉を許さない限り、あの世界の人間はここにはこれないはず。ここにいることですら、できないはず。
 それなのに、どうしてここに自分ではない誰かがいるのだろうか?

「お、驚かせちまったか? ごめんな」
「いや……」

 何故が頭の中をぐるぐると渦巻いている。
 異質なもの。自分が知らぬもの。自分が見てきた世界には存在しなかったもの。
 彼という個体が何者か、という答えは依然として不明のままだが、彼がどういった種類の者かという答えははじき出された。
 だが、己の世界に対する……もはや執着と表現してもいいだろうソレに浸ってしまっている少女は、ただ静かに己の世界を見つめていた。

「……綺麗だな」

 彼が静かに隣に立ち、ゆっくりと世界を見下ろした。ぼんやりと本物の世界を小さくしたような球体。
 深い鮮やかな青に、不規則にまとう白い雲。緑色の地が占める免責はとても少ない。いや、この世界が全部見れるように、見つめていられるようにと創ったために、とても小さいのだ。
 小さな世界に凝縮された無秩序。それは不完全なものゆえに出来損ないと言われるもの。だが、そんな不完全なさまでさえ愛おしい。

「そうであろう。わらわの世界は、とても美しい」

 それも、もう崩壊の兆しを見せているのだが……。

「崩壊?」

 小さく呟いたその言葉を拾ったのか、彼は怪訝そうに返してきた。
 彼には関係ない。この世界のものではないのだから。知る必要もない。知る資格もない。
 だが少女は、ぽろりぽろりと大粒の涙をこぼしながら言葉を重ねた。関係ないものだからこそ、言えたのだろう言葉を、この重く塞がさそうな胸の内を、彼にぶつけた。

「わらわの世界は不完全で、脆い。それはほんの小さな影響ですら大きく反映させてしまうほど、不安定なもの。……それすら愛おしかったのに、それのせいでこの世界は徐々に崩壊を始めている」
「崩壊って、どこが? こんなにも綺麗な姿をしていて、かけたところが一つも見当たらないような形をしているのに?」
「……わらわはこの世界の神。だからこそ、見えるのだ」

 ごらん、と彼の頭に未来の形を映してみせた。
 この青と白の混ざり合ったような色をした世界が、茶色と黒に覆われてしまうさまを。

「っ!?」

 雄大に広がっていた青は、切り立った岩肌へと姿を変え、ほんの僅かに存在していた緑は不毛な痩せた砂地へと変わっている。白い雲に覆われていたそれは、黒の煙にも見える瘴気へと変化し、太陽の光ですら地上へと届かせない。

「環境破壊が起こした未来の姿ってのに似てるな……」
「環境破壊? ……あぁ、結果としてはそうなるのかもしれぬ。だが、そんな長き時間をかけて行われるものではない」
「どういうこと?」
「天災的なものなら、まだわらわも対処ができる。だが、これは人の心が引き起こしたもの。……信じられるか? この姿は、そなたが先程見た世界の、百年後の姿なのだと言ったら」
「ひゃく、ねん? そんな早く環境問題が表に出てくるわけが……」

 何やら考え込みだした彼を見て、少女は小さく自嘲を漏らした。

「そなたは学者か? それとも、そなたの世界の学問が浸透している常識なのか?」

 自分の世界とは、考え方や文明が異なりすぎている。これまでのやりとりで、嫌でもそう感じさせられた。

「うーん……、どっちかっていうと、後者かな? だからやっぱ信じられない。本当に、百年であぁなるのか?」
「……これは、間違いないであろうよ。わらわの世界のことは、わらわが一番わかっておる」

 だからこそ、こうして嘆くことしかできないのだ。
 だからこそ、こうして涙を流すことしかできないのだ。

 愛しい世界が崩壊していくのを、ただ、眺めることしかできないなんて、拷問よりも酷い。
 ぎゅう、と胸元を強く握り締めた少女に、彼は不思議そうに首を傾げながら問うた。

「うーん、人の心がどうしてあんな風に世界を変えちまうのかってのがよく分からないんだけどさ。でも、あんた神様なんだろ? あの世界の。だったら」
「わらわは自分の世界に、手出しはできん。他のモノを使って、間接的に干渉することでしか、わらわには許されておらんのだ」
「何それ、神様ルール?」
「そのようなものだな。……神ほど万能で、無能な力を持っているものはいないと思うぞ」

 わらわのようにな、と自嘲を漏らした少女だったが、彼の次の一言で、ぴたりと動きを止めさせられた。


「じゃ、俺が手伝ってやろうか?」


 手伝おうか? その一言の重みを、彼は気づいているのだろうか? 

「……そなた、何を……、何を言っているのか、分かっておるのか……?」

 声が震える。
 だって、そうだ。
 彼なら、問題ない。彼ならどの決まりにも掠らずに現状を変えることができる。
 それでも、なんと無謀で危険な申し出をしているのか、彼は理解しているのだろうか。
 その言葉に、期待しても、いいのだろうか?

「何って、手伝うって言ってるだけだろ?」
「っ! 危険が伴う! それにそなたは“迷い人”この世界には本来ならば全く関係のない人間なのだろうっ!? そなたが知る世界とは何もかも違う! それを……その危険性を、そなたはわかっておるのか!?」

 まくし立てた。
 今ならまだ大丈夫だ。まだ、期待はしていない。
 いや、期待していたとしても、まだショックは少ない。
 だからこそ、ほら、断れ。こんな見ず知らずの世界に、見ず知らずのモノに安易に手を差し伸べるな。
 そなたが手を差し伸べようとしているのは、もしかしたら、悪魔よりも質の悪い存在なのかもしれないのだぞ?

 期待と不安。理性と欲望。
 ぐらぐらと揺れる少女の胸の内など知らず、彼は晴れやかに微笑んだ。

「それでも、あんたは崩壊を止めたいんだろ?」

 だから手伝うって言ったんだ。そしたら、あんただって泣かないだろ?

 彼が続けた言葉に、どうしてこんなにも愚かなんだろうと思い、同時に深い感謝を捧げるしかなかった。
 神がただの人間に感謝など、滑稽だと笑うだろうか。
 いや、感情を持った時点で、人も神も関係あるまい。だからこそ、今度こそ、少女は涙を我慢することはしなかった。せき止めていた苦しみの涙ではない、安堵の涙なのだから。止める理由など、どこにもなかった。

「俺があんたの世界を救うから、あんたは俺を救ってくれ。それくらいは、できるか?」
「あぁ、もちろんだとも。そなたは世界を渡った“迷い人”。望むなら元の世界に戻してやることもできるし、そなたに力を与えることもできる」
「すげー…、神様すげー!」

 瞳を輝かせて喜ぶ彼は、まるで子供のようだ。……見た目はともあれ、生きている年数でははるかに少女の方が年上なのだろうが。

「あんたの世界を救えばいいんだろ。……この歳で勇者やるとか笑えないけど、さ」
「あながち勇者というのは間違っていないだろうな。神に選ばれし勇者が現れた、とでも啓示を出しておこうか?」
「それはさすがにいい。なんか、うん。恥ずかしい」
「謙虚な勇者よ」

 くすくすと笑い声をこぼすと、彼はもう大丈夫だな、と優しく微笑んだ。

「俺が崩壊を全部止められるとは思えないから、俺はひとつだけ、なんとかする。だから、あんたも出来る限り頑張れよ」
「う、うむ……。善処しよう」
「勇者特典のほかの、ご褒美で、一つ終わらせたらお願い叶えるって約束は忘れないように」
「そなた、妙なとこちゃっかりしておるな」

 呆れながらも、彼にほんの少しの力を授けてやると、そうでもしないと俺はすぐにゲームオーバーになりそうなんでね、とおどけて返された。

「この夢から覚めるまで、せいぜい勇者とやらをやってやるよ」
「……夢、か。それでも良い。この世界が泡沫と消えてしまわなければ、わらわは許そう」

 だからどうか、この世界を救っておくれ。
 万能で無能なわらわの代わりに、この愛しき世界を守っておくれ。

 この時少女が下した判断が正しかったのかどうかは、誰もわからない。
 ただ、最初に世界を一つ救う手立てをした彼が、後の勇者のために奔走した結果は、崩壊を始めた世界を立て直し始めるよう作用し始めたことに間違いない。
 こうして、少女と異世界の人間たちによる、いびつな契約の世界救済措置が、動き始めたのだった。

 この物語は、その契約のうちの一つ。
 ……五人の少年少女が交わした契約に焦点を当てた物語である。
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