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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

03 まるで住む世界が違うみたいな人たちだよな、あの人たちって

 ←02 友達、多そうだったな…… →04 小さいことは《気にするな》っ!

「あー…、やっと終わったー…」

 ボロ負けをし、泣いている女子生徒もいるのにも関わらず、彼女は晴れ晴れとした顔で伸びをしつつ、ゆっくりとコートから出て行った。

「おつかれ、政葵クン」
「馬鹿か、クンじゃねェよ。政葵チャンだっつーの」

 にこやかな笑顔と一緒に手渡されたタオルを受け取りつつも、唇を尖らせて訂正する政葵。

「んで、流風の方はどうだったんだ?」
「そりゃ、もちろん惨敗だったけどさ」

 当然だろ。なんてったって、相手はあの二年B組だし。
 肩をすくめつつも軽い苦笑付きで答えた流風を、政葵は鼻で笑った。

「ま、そうだろうなとは思ってたけどな」
「うわー、ひどい言われよう」
「ったり前だろ? どうせ二桁ですらいかない点数だったろうし」
「……なんでそこまで言い当てちゃうかな」
「そりゃ、相手に」
「よっ! さっきの試合はなんだったんだぁ?」

 政葵のニヤニヤと笑いながら解説されかけていた言葉を遮り、かつ流風を後ろからどついたのは……

「暁先輩!」

 ニッと笑う龍神(りゅうじん)暁(あかつき)だった。クォーターらしく、髪は淡い金髪。瞳は黒だが、光に当たると緑にも見えるような、不思議な光彩の持ち主である。持ち前の明るさと親しみやすさから人好かれしやすいタイプだが、その日本人離れした整った容姿に熱をあげる女子の数は星の数だと思わされる。

「流風はバスケ部だろーが。次はもっとバンバンシュート決めに攻めろよな、ディフェンダーじゃなかっただろ?」
「いや、まぁそうなんですけど。先輩相手はさすがに厳……あいたたたたっ! ちょ、痛いですってばっ!」

 がっちりと首を固定して、ぐりぐりぐりとこめかみを圧迫してやると、ギブギブ! と流風は早々に音を上げた。それでいて、やめてはくれないのが、暁なのだろうが。

「はっはっはっ! 言い訳は男らしくねぇぞ? 甘んじて俺の愛を受け取っておけっ」
「こんな痛い愛はいらないですっ!」
「遠慮しなくても、いいんだぜっ」
「ちょ、まじで! ギブギブギブギブ!」

 じゃれあっているのか、本気でやっているのかの判断に迷い始めたので、そろそろ止めてやろうか、とした政葵を逆にす、と腕を出して止められた。

「あ?」
「ほっとけほっとけ。下手に手ぇ出すと、お前も絡まれるぞ」
「あァ、それならやめとくわ」
「賢明だな。……しっかし、弄り方がなってねぇな」

 あれ? この人いいひとなんじゃね? と思ったのは一瞬で、最後の余計な一言で良い人印象は粉々に砕けて消えてしまった。
 悪魔のしっぽがうごめいて見えるんだが、幻覚……だよな?
 思わず黒縁メガネを外して確認してしまったほどに、暁が流風をいじっている様子を楽しんでいるように見えて仕方ない。

「おぉ、おせぇよいと……って、お?」

 楽しげに流風を弄っていた暁の興味が、政葵へと移る。視線が合い、やばい、と思いはしたものの、ニコッと爽やかに微笑まれたものだから、つられて笑みを返してしまった。

「なぁ戸狩、彼女は?」

 紹介頼むわ、とこめかみを抑えて痛みをほぐそうとしている流風にケロリと尋ねる。
 本当にあれ、じゃれてるだけかよ。しかも、本人前にしてわざわざそっちに聞くか普通、等と政葵が思っていたなど、微塵にも伝わってはいないだろう。

「え? あ、あぁ。彼女は俺の幼馴染の刀修政葵(とうしゅうまさき)。乱暴口調とかですけど、これでも一応女で」
「オレは歴とした女だっつーのっ!」

 思わず腹に向かって拳を突き出した政葵だが、じっと暁ともう一人に見られていることに気付き、寸止めに終わらせた。
 やべー、などと思いながらそろりと振り返る。

「あ、あー…そのー」

 恐る恐るといった様子の政葵に、ぷっと、暁は吹き出した。

「いいんじゃねぇの? そういうのでも。女の子だってのは見りゃわかるし」
「ま、どの女も強いのは、もはや常識みたいな感じだしな」

 しみじみと呟かれた言葉に、流風はそろりと顔を背けて小さく自嘲をもらした。
 まぁいいや、と暁は政葵の方へと向き直る。

「よろしくな、刀修。俺は龍神暁。暁でいいぞ。んでもってこっちが」
「遠野結徒」
「はぁ。名前だけはよく聞いてマス」

 政葵も女子の中では背の高い方だが、それでも暁や結徒は見上げるほどの高さである。イケメンが長身なのはもはやデフォなんだろうか、と思わされるのはなぜだろうか。

「まぁ、無駄に目立つもんな、俺ら」
「自覚あったのかよ。つか、ほぼお前のせいだからなそれ。オレは巻き込まれてるだけだっつーの」
「いや、いとだって十分すぎるくらい目立ってると思うぜ?」
「てめぇほど悪目立ちはしてねぇよ。オレが目立つのは見てくれだろーが。なんてったって、オレは美人顔だからな」

 けっと、吐き捨てるように言われた言葉に、確かにきれいな髪をしているよな、と政葵は思う。
 細くて軽いように見えるサラサラの銀色の髪を、腰辺りまで伸ばしている結徒。同じようにクセのない黒髪をひとつにまとめ、背中に流してはいても、政葵の黒ではどっしりと重いように感じられる。
 暁の淡金髪もそうだ。流風のような茶髪よりも軽く、輝いて見える。天使の輪とも呼ばれるキューティクルがハッキリと目視できるくらいなのだから、いっそ腹立たしくなるくらいに目を惹かれる。

 ……まぁ、目を惹かれるのは髪だけではないけれど。

 その容姿に言動、性格を含めて。いろんな意味で目立ってしまう二人なのは、こうして言葉を交わす前から知っている。

「つか、暁お前、試合見に来たんじゃねーのか?」
「おっと、やっべぇ。忘れてた! どこだっ? 何コート?」
「三年B組なら、Cコートで……もうそろそろ終わりそうですよ?」
「何っ!? マジか! やっべ急がなきゃ! 刀修、ありがとな! 流風、強くなれよ。また部活の方に顔出すから! んじゃ、いと行くぞ! 二人ともじゃーなぁーっ!」
「っ、おい! 暁てめぇまたかよ!? 待てって言ってんだろさっきからっ!」

 慌ただしく二人がCコートに向かうと、辺りが一気に静かになったように感じた。

「噂には聞いてたけど……スゲェ人たちだな」

 ほっと緊張の息を吐きだした政葵が、ぽつりと、そう零した。

「あぁ。学校内でも特に目立つ二人だしなぁ……」
「なんか、暁先輩のあの瞳が、まだ頭から離れねェや。なんつーか、すごい力強い感じがあるというか、逸らしちゃいけないというか……」
「いや、俺はあの遠野先輩の外見と性格の差に裏切られた気がする」
「それは敢えて言うな」

 どっちにしろ、流風と政葵に忘れようにも忘れられない、強烈な印象を残していったことには間違いないのだ。
 ふ、と政葵が白い息を吐く。

「まるで住む世界が違うみたいな人たちだよな、あの人たちって」

 ……住む世界が、違う?

 流風はそっと視線を落とした。
 政葵の言葉は正しいようで違う。暁と結徒と、正しい意味での住んでいる世界は同じだ。住む世界が違うのは、もっと別の……。
 それこそ、この赤いマニキュアの……。

「流風?」
「っ!?」

 はっと、我に返る。

「っ、あ。悪い。何……?」

 動揺を押し隠すように顔を上げると、ぽん、と政葵に頭を叩かれた。視線が、流風の赤い爪となっている薬指に向けられている。

「……風華ちゃんのこと、考えてただろ?」
「……まぁ、ね」
「大切な妹だったもんな」

 あぁ……。大切な、俺の妹……だったよ。
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