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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

04 小さいことは《気にするな》っ!

 ←03 まるで住む世界が違うみたいな人たちだよな、あの人たちって →05 「        」

「なぁいと……」
「んー?」
「あいつらって、付き合ってたのか?」
「はぁっ?」

 脈絡のない話題を振られ、思わず結徒は素っ頓狂な声をあげてしまった。

「待て暁。何がどうしてそうなった?」
「何がって……いや、普通の流れじゃね?」
「お前に普通とか言われると違和感しかねぇよ」

 この、存在自体が特殊人間め、とけなしていうのか褒めているのかよくわからない言葉を吐き捨て、結徒はこれみよがしに深くため息をついた。

「で? 今度はどんな面倒ごとに首突っ込もうとしてるんだ?」
「面倒ごとって、そんなつもりはねぇんだけどな」
「いいかー、てめぇは面倒事に首を突っ込むプロだ。自覚しろ、振り回されるオレの身にもなれ」
「まぁそうこう言いながら付き合いのいい結徒くんが俺は大好きデスヨ?」
「うわー、キモい愛をドウモアリガトウ」
「言ってろ」

 気がつけばいつものくだらないやり取りに笑っている自分に苦笑するしかない結徒。
 やれやれ、と肩を落としてなんの話題だったっけ? と首を傾げた。

「あいつらが付き合ってるか、だっけか?」
「あ? あぁ、そうそう。幼馴染なんだか、恋人なんだか俺には分かんねぇ……お、村岡ナイスッ!」

 不思議そうな顔をしていたのも一瞬で、コートに向けられていた視線はとある女子生徒のファインプレーをしっかりと見ていたらしい。
 余計なことに首を突っ込むのに関しては笑って流しているようだが、自分が目立つことに関しては自覚しているようだ。
声をかけられた女子生徒が頬を赤く染めながら「任せといて!」と気張る様子が微笑ましい。……それも周りの絶叫ともとれる黄色い悲鳴のやかましささえなければ、の話だが。

 だからこそ、暁は気にするのだろう。彼らとの関係を壊さないように。彼らと関係の間に、亀裂を入れないように。
 お前は天皇陛下か。とでも突っ込んでしまいたくなるフェミニスト精神に、結徒はほとほと呆れ返ってはいるのだが……それでも、こうしてつるんでいる辺り、自分も相当暁の考え方に慣れさせられているんだと感じさせられる。

「……違うんじゃね?」

 ゆっくりと視線を、流風がいるであろう方向へと向ける。
 亜麻色に近い茶色の髪は、自分たちほどではないが、よく目立った。
 歳は一つ下のはず。それでも細身の体型の流風は、やや大きめな猫目だというのも相まって、まだ少年と言っても違和感はないだろう。その髪の色も染めたような不自然さはなく、笑った時の雰囲気を更に柔らかくするような色合いだった。ふわふわとした笑みを見せる割には、暁いわく、あいつは毒舌だぞ、らしい。

 隣の政葵は、対照的にしっかりとあちこちに筋肉がついており、少女というよりは少年のようにも見える。元より、そのさばさばとした男気あふれる性格と、凛とした雰囲気がそうみせているのかもしれない。それでも、発育がいいのか、出るところは出てひっこむところは引っ込んでいる。太い黒フレームのメガネに、長い黒髪をひとつにまとめ、やや釣り目のソレを向けられると、お前は武士か、とでも言ってしまいたくなる凛々しさを感じさせられる。一部でお姉さまとでも言われていそうな見かけだった。……あくまでも見かけだけだが。

 馬鹿じゃねぇのお前、本当のバカはどっちだろうね? などとくだらないやりとりを交わしながら笑うその光景は、不本意にも自分たちと似ているような気がした。

「そうなのか?」
「おいおい、そこで恋愛初心者みたいな反応すんのやめろよキモい」
「えー、他はともかく、こういうのだとたまに外すから、慎重にもなるだろ普通」
「だから、てめぇに普通を問われたくねぇ!」

 だめだ、こいつと会話してると疲れる。他はともかくってなんだよ。
 疲れて頭を抱える結徒を不思議そうに見つめていた暁だったが、軽く小首を傾げながらとんとん、と己の唇を親指で叩く。何かを考えている時の癖だが、妙に色っぽい印象を受けさせるのはなぜだろうか。

「んー。それなら別に気を使う必要もねぇよな? いつもと同じように抑えておけば、特に問題ねぇみたいな?」
「本当に、お前便利な力持ってるよな……何? リアル乙ゲー主人公でもやるつもり?」
「まさか。んなわけねぇだろ、それ回避したいからこそ抑えてるんだろうが」
「だよな、良かった。オレまでてめぇのハーレム要員に巻き込まれてたらどうしようかと……」
「おいちょっと待て。それはない!」
「知ってる。本気で慌ててんなばーか、目立つぞ」

 主にそう言う趣向を好む一部の女子に。
 結徒は知っている。それは偶然目にしただけなのだが、自分と暁を主役においた、薄い本が出回っていることを。
 結徒は知っている。そういう見方をする一部女子から見れば、こうして二人がくだらないやりとりで、本音ではない言葉を交わすだけで、いかがわしい妄想を掻き立てられることを。
 ……一応、精神的な面を除いて実害がないため、放置しているが、今の発言は明らかに彼女たちを喜ばせる要素であったに違いない。

 本当にどうしようもねぇ奴、とため息をついた結徒は、ふと視線を目前のバレーコートへと向いた。

「あ、暁」
「ん? なんだよ?」
「前見ろ、前」
「ま、えっ!?」

 ばちかんっ! と派手な音を立てて、バレーボールが暁の顔面に直撃した。
 たん、たん、とボールが床を転がる音が大きく聞こえるくらいに、辺りに一瞬、静寂が訪れる。
 ……数秒後。

「い、いやああああああっ!」
「きゃあああああああ! 暁いいいいっ!?」
「暁大丈夫っ!?」
「ほ、保健委員っ! いや、ここはあたしがっ!」
「抜けがけは禁止だって協定結んでいるでしょっ!?」
「暁が保健室に!? ここは結徒さまに優しくエスコートされていたらなんたるご褒美!」
「ていうか、誰!? 狙ったようにぶつけたのはっ!」
「ちょ、鼻血出てないかっ!? むしろ、出せっ! イケメン崩せ!」
「バカ野郎っ! 顔が良ければ、何やっても似合うんだよ! 顔面崩壊しやがれっ!」
「ある意味美味しいな、暁。死んでも代わりたいなんて思わねぇけど」
「はっはっはっ。いやぁ、今日も元気ですねぇ、我が校の生徒たちは」
「理事長! 笑い事じゃないですからねッ!?」

 爆発するかのように押し寄せる音の波。絶叫? いや、そんな生易しいものではない。そこにあるのはただの騒乱だった。
 ある者は心配して駆け寄り集い、ある者は下心満載であわよくばを狙うものを妨害し、ある者はことが大きくなりすぎていることに青ざめ、またある者は妬み、傍観している。

「……だから前見ろって言っただろーが」

 もっと早くに言え、と顔を抑えながら痛みを堪えていた暁だったが、やがてぱっと手を離し、顔をあげる。
 まだ赤み残ってはいるものの、ニコッと微笑み腕を高く挙げて人目を意識して集める。くるりと輝く緑掛かった黒い瞳に力(・)を込めて、暁は腹から声を出した。

「ハプニングがあってのイベントだろっ!? さぁ、《続けよう》ぜっ!」

 ぱちん、とどこかで何かが弾けたような音が聞こえた気がした。

「小さいことは《気にするな》っ! 頑張れよっ!」

 騒いでいた各々が、ゆっくりと動き出す。
 暁がそう言うのなら、まぁ仕方ないか、と口にしながら。
 すぐに試合再開の笛の音が鳴り響き、何事もなかったかのように試合が続行される。

「……実はまだ痛いだろ」
「……かなり」

 ぽそ、と呟かれた結徒の言葉に、笑顔を絶やさないまま暁は答えた。
 赤くなった鼻先から、幸いにも鼻血が流れてはいないが、間近で見ると涙目が隠しきれていない。

 余計に力(・)使ってまでのフォローにフォローかよ。スバラシイフェミニスト精神だな、本当に。

 こいつ本当にどうにかならないのか、と考えるだけ無駄だと悟ってはいるものの、どうしてか暁に一矢報いたくて、結徒は深くため息をついた。

「暁」
「んあ?」
「ばぁか」

 ぺし、と赤くなっている額めがけて指弾を放つ。

「いっ!?」

 声をあげかけた暁だったが、ここで「痛い」と言ってしまったら、せっかく今無理矢理場を収めたのが無意味なことになってしまう。

「っ、きなり、なにすんだ! バカいとっ!」

 顔に手を当てないようにして必死に耐える姿を見て、ざまぁ。とニヤリと結徒は笑った。
 そうして結徒が暁で遊んでいる間に、試合終了の笛の音が鳴り響いた。

「お? 終わったみてぇだぞ」
「やべっ!? どっちが勝った?」
「見てなかったのかよ、ざまぁねぇな」
「誰のせいだ誰の」
「自業自得だろーが。オレのせいにするんじゃねぇ」
「ひでぇなー、いつものことだけど、さっ」

 軽口を叩きながら立ち上がる暁。
 目の前のコートに集まり、勝ったーっ! と歓声をあげる女子の輪が出来ていた。ちらりちらりと、さりげなさを装って視線を向けてきている。反応を欲しがっているのだろう、あからさまではないが、分かりやすい。

「おら、行ってこいよ」
「あれ? いとは行かねぇの?」
「なんでオレが行かなきゃならねぇんだよ。犠牲者はてめぇだけでいーだろーが」
「ひっで! その言い方二重の意味でひでぇっ!」

 いとがひでぇ! と大げさで嘆いてみるも、周りからはいつものことか、と軽く流される。
 誰も相手にしてくれないのなら、とさくっと意識を切り替え、暁はやれやれと小さく息をついた。

「んじゃ、これは貸しってことで」
「はぁっ!?」
「放課後、一曲弾いてくれたら、貸し借りなしでいいぞ?」
「おいてめぇふざけんなっ!」
「ふざけてねぇよ、大真面目だ!」

 ケタケタと笑う暁に、結徒はまたあいつのペースに乗せられたまま逃げられた、と深く、深くため息をついた。

 放課後逃げきれなかったら、今度キングパフェ三杯分奢らせよう。
 そう、ひっそりと心の中で誓いながら。
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