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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

05 「        」

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 球技大会が終わる。
 それは、短いながらも長期休暇と呼ばれる冬休みへとの突入を告げることと変わりない。
 大会の成績発表は終業式と共に行われるらしく、わらわらとあちこちに散らばっていた生徒たちが第一体育館へと集まり始める。
 節目の式であるため、制服に着替えて集まってくる生徒たちは、小さな集まりをあちこちで作り始め、寒い寒いと白い息を吐き出しながら携帯カイロを握りしめていた。
 深い濃紺の学ランに、胸元には金の刺繍で校章が縫い込まれている。長ズボンの男子はいいよねーと羨みながらも、丈が短い筒スカートを身につける女子たち。
 やがて代表教師がマイクを通し表彰式の開式を告げると、ざわめきは小さくなり、やがて消えていった。

「今回の球技大会では……」

 前置きはいいから、早く結果を。さも興味なさそうに下を向くか、結果を期待する視線を向けるあからさまな生徒たちの反応に、司会進行役の教師は苦笑を浮かべながらも続ける。
 さすがに理事長が壇上に上がると、どこか空気が張り詰めるのが分かった。
 いい緊張感に包まれた中、結果を告げていく。
 女子のバレー競技では、バレー部が集まった三年のとあるクラスが優勝をしていた。
 どこかやっぱりね、とでも言うような空気が体育館内に流れつつも、優勝クラスは歓声をあげる。次々に読まれていく結果に、健闘したクラスは沸き、結果を残せなかったクラスは早く終わってくれと、冷めた空気を醸し出していた。

「では、次に男子の部、バスケット競技の結果を発表します」
「優勝はぁ~?」
「2年B組ーっ!」
「こら、フライングするんじゃない!」

 浮かれた男子が教師の言葉を先取りすると、どっと笑い声が沸いた。
 その反応の様子に苦笑しながらも、教師は繰り返す。2年B組の代表者は壇上に進みなさいと促すと、B組の列からもみくちゃにされながら、暁が進み出てきた。
 大きく手を振って壇上からお辞儀をすると、黄色い歓声があがる。
 暁の人気者っぷりをこれでもかと見せつけてから、理事長の前へと進んだ。理事長は、仕方がない子だね、とでも言うかのように苦笑をしつつも、おめでとうと表彰状を手渡した。

「ありがとうございますっ!」

 声は大きく元気よく、それでいて綺麗な礼をしながら表彰状を受け取ると、暁は静かに理事長を見上げた。深緑色の瞳が、真っすぐに向けられる。声なき声で、何かを問われた気がした。
 それが何かと気付く前に、生徒列から飛んだ黄色い歓声が視線を逸らされた。

「きゃあああっ!」
「アカツキイイイ!」
「さすがだぜ色男っ!」
「イケメンは爆発しろーっ!」

 様々な言葉が飛ぶ歓声の方へくるりと振り返り、大きく表彰状を掲げて見せる。歓声がより一層大きくなった。そして大きく手を振り、満面の笑みを浮かべてみせると黄色い声と笑い声が幾重にも響き渡る。

 お前はどこのアイドルだ、と結徒に突っ込まれそうだな。

 そんなことを思いながら、ゆっくりと壇上から降りる。教師たちはいつもの光景に仕方がないなぁと苦笑しながら見守っているだけで、暁の行動を咎めようとする声は聞こえない。笑みをそっと苦笑に変えて、小さく息をついた。
 目を輝かせてクラスの列に戻ってくる暁を待ち構えている生徒たち。暁がゆっくりと座っていた場所に近付いていた、そんな時だった。


 ふわりと、少女が壇上に舞い降りた。


 何の前触れもなく、唐突に。何処からともなく現れた、長い黒髪に白いワンピースを身にまとった華奢な少女。
 体育館に集まっている生徒たちよりも幼い顔立ちをした少女は、茫然と見つめる理事長に背を向け、生徒たちを見渡した。

「え?」
「誰、あれ?」
「誰だ、こんな手の込んだドッキリ仕掛けたの」

 静かに現れた少女の存在に、疑問の声が上がる。場がざわつく。
 その中で響いた、驚愕の声。

「風華っ!?」

 それは、叫び声にも近かった。
 目を大きく見開いて、思わずと言うかのように立ち上がり掛けた茶色の髪。流風はわなわなと唇を震わせて、唐突に現れた少女を凝視していた。

「おい、流風……」
「なんだよ、知り合いかよ?」
「どういうこと?」

 たしなめるように流風の腕を引く政葵の言葉は、突発的状況による動揺と、野次馬の好奇心からによる周りの言葉でかき消された。
 でも、どうして、なんで。そんな言葉を繰り返し呟く流風の耳に、それらは何一つとして届かない。

 少女は、ゆっくりと視線を動かした。

 ざわざわと疑問の雑音が広がる中、中途半端に振り返った暁と目が合った。
 大きく目を見開き震える流風と目が合った。
 周りの声に耳を塞いで、じっと俯いている友喜を見つけた。
 動揺の波が広がる中、我関せずとあくびを一つした結徒を見つけた。
 探るような鋭い視線を向けてくる政葵の視線を受け止めた。

 そしてゆっくりと瞳を閉じて、緩慢な動作で小首を傾げる。薄らと、口元に笑みを浮かべた。



「        」



 動く唇。声にならない声が、言葉を伝える。
 ぴくり、と誰か(・・)が反応した。
 その反応をまるで見ていたかのように、少女は満足そうに頷いた。次の瞬間、軽やかに床を蹴り、ふわりと宙へ舞う。
 ぽかんと口を開けて見上げる生徒たちの頭上を通り、弧を描くようにして彼の元へ。
 白いワンピースがはためく。視線が自然と、少女に集まる。

 次は何をするのだろう。いつ、また姿を消してしまうのだろう。
 これは、一体、なんのイベントなのだろう。
 この非現実的光景は、一体何なのだろう。

 様々な疑問を含んだ視線を一身に受けながらも、少女はそれを気にも留めずに彼の前で止まった。ふわりと、スカートの裾を揺らしながら。決して地面に足を付けない状態で。彼の頭上にそっと屈みこむ。

「えっ?」
「      」

 少女が尚も声にならない言葉で伝えたのは、怯えたように肩をすくめた、あの、友喜だった。

 なんで。どうしてアイツが。やらせか。

 そんな声が聞こえる。ざわめきが大きくなる。
 少女を突き抜けて、注目の的になっているのが友喜だと分かれば、軽蔑の視線が混ざり始める。
 ざわりざわりと声が大きくなる。

 ふいに少女が体を起こした。伝えることはすべて伝えきったとでも言うかのように、周りには一瞥もくべず、さらりと髪を揺らしながら。
 小さく頭を軽く振って、そして。
 現れた時と同じように、何の前触れもなく、消えた。

「え?」
「は? ちょ、これ本当になんなの?」
「意味わかんねぇ」
「せ、静粛にっ! 静粛に!」

 ざわめきが一瞬だけ途切れ、そして再び押し寄せる。
 まるで止まっていた時が動き出したかのように、教師の声が響き、正しい、本来のあるべき状況に戻そうとしていた。
 生徒たちの疑問も混乱も晴れることはなく、ざわめきが収まらないままに、終業式は終了した。
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