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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

09 世界を救う手助けをして頂けませんか?

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「今、内線で二年生の二人を呼ぶように伝えたよ。一年生の三人よりは遅れるだろうが、来てくれるだろうとは思う」
「ありがとうございます」

 にこりと、少女は笑った。この学内にいるには年が足りないような、成長途中の少女。制服はもちろん身に着けておらず、白いワンピースの裾が長い黒髪と共にふわりと揺れた。

「しかし、キミも変わり者だね。雪姫様の代わりにこちらの世界の繋ぐものとなるだなんて」
「そうでしょうか? そもそもが、雪姫様自身が動くことではないと思うので、今の形が最善になるのかと」
「まあ、ねえ。あの方は少々、フットワークが軽すぎると言うかなんというか」

 苦笑を浮かべる壮年の男に、強く同意できるとでも言うかのように少女も大きく頷いた。

「ですが、この度は助かりました。貴方がいらっしゃるのであれば話が早い」
「内容的にも、人選的にも、ね。いやはや、もう良き思い出として、自分の中で昇華させたはずだったのだがねぇ」
「そうですね、本来ならば二度と関わることのない事柄。ですが、雪姫様は彼を選べば良いと仰って頂きました。それに従い、他四名もこの学園より選出させて頂きたく」
「まあ、元々気に掛けるべきだと思っている子らは居たから、丁度いいと言えば丁度いいのだけれども」

 彼と少女が選んだ五人を順々に思い浮かべる。少女の選んだ二人は、少女に関わり深い者であったか。表面上の報告では、留意するべきものとして挙げられてはいなかったように思われる。対して、彼が選んだ三人は癖が強く、色々な意味で要留意人物としてよくよく名が挙がる者だった。

 はてさて、彼らの意志とこちらの希望が上手く擦り合わせられるか否か。
 まあ、難しいだろうなあと、少女に気付かれぬように彼は苦笑した。

 やがて、トントン、と扉を叩く音がした。どうぞ、と促せば俯きながら静かに入って来た少年。こちらをちらりと見上げた後、くしゃりと顔をゆがめて戸棚の前で俯き立った。

「どうぞ、座って」
「あ、の……」
「うん? どうかしましたか?」
「……いえ」

 おずおずと上げられた視線は、再び足元へと戻される。ぎゅっと上着を握った手が、小さく震えていた。
 頭の中は何故、でたくさんだろう。

 何故ここに呼ばれたのだろう。
 何故ここに少女がいるのだろう。
 何故ここにこの人がいるのだろう。

 自問自答では答えが出ない問いが、ぐるぐると回る。それを外に出すことができないのが、この魚若友喜と言う少年なのだが。
 少女と目を合わせ、仕方ないねと小さく頷いた。きっと彼は近寄れば近寄る程委縮してしまうのだろう、と過去の経験から予測して。

 少し間を置いて、再び扉が叩かれる。どうぞと答える前に、無造作に扉が開かれた。

「しつれーしまーす」
「政葵、もうちょっとこう、ちゃんとしようよ」
「不満なのが伝われば、オールオッケーじゃねェの?」
「いや、まあ……まあ、いいけどさ。あ、失礼しま……」

 不機嫌そうな表情の眼鏡を掛けた女子生徒と、亜麻色の髪の男子生徒。二人はじゃれるような会話をしながら入室してくるが、中央へと目を向けると息を止めた。

 中央の大テーブルに着席している壮年の男ではない。その傍に立つ、少女。

 吸い込まれるように少女へと視線を向け、ぎゅうと胸元を強く握りしめている。その顔が、信じられないと強張っている。ぐっと息をのむ音が大きく聞こえた。
 少女は困ったように笑った。

「ああ、顔色が悪い。そこで倒れられても困るので、一先ず座ってもらえますか?」
「あの、いや、だって、でも」
「支障があるようなら、彼女を一旦下げましょう」

 ヒュ、と流風が鋭く息をのんだ。彼女から目が離せないのはもちろん、その存在を彼が認め、知っているそぶりで話し掛けているからと言うのもある。
 どくどくと心臓が、再び強くなり始めるのを感じてぎゅうと胸元を強く握った。
 ふらついた流風の背に手を当てて支え、政葵はだんと強く一歩踏み出した。

「アンタ、何考えてやがるッ!! 悪戯にしては悪質にも程が」
「三人共、《座ってほしい》」

 激昂した政葵の言葉を、静かに遮った。その言葉はやけに強く聞こえ、不思議と耳に残る。
 ぐう、と唇を強く噛みしめて、血の気の引いた顔をした流風の腕を引いて乱暴に腰かけた。二人が座ったのを見て、戸棚の前で委縮していた少年も、視線で促されたのを感じ、恐る恐る、対極側へと座る。

 空席は未だある。未だ二人到着してはいないが、先に説明した方がよさそうだ。おそらく、あの二人は経験しているだろう(・・・・・・・・・)から理解が早いと思われる。

 壮年の男……理事長はゆっくりと口を開いた。

「まず、ここにキミたちを呼んだのは、私です。通常の進路指導、生活指導、とは異なります」

 彼らは、何も言わない。不機嫌そうに睨む政葵。動揺しながらも少女から目を離せない流風。俯いたままの友喜。理事長はそれぞれの顔を見渡した。

「魚若友喜さん」

 名を呼ばれ、僅かに顔を上げる。

「戸狩流風さん」

 流風は動かなかった。

「刀修政葵さん」

 政葵はじっと睨みあげてくる。



「世界を救う手助けをして頂けませんか?」



「……は?」

 何言っているんだコイツ、でも言うかのような顔で、政葵はぽかんと口をあけた。友喜が戸惑ったように眉をハの字に下げた。
 下手に質問を挟まれるよりは、簡単に説明してしまった方が早い。自分の時がそうだったと、内心同情しながらも言葉を続ける。

「今、この世界ではない世界。異世界、パラレルワールドと呼ばれる世界でしょうね、その一つが世界の危機に陥っているそうです。その危機に対応できる人物を、再度その世界の神が望んでいます。フォローもアフターケアもしっかりしているので、難しく考える必要はありません。成功報酬として、望む願いがなんでも一つだけ叶えることができ」
「いや、何言ってんだよ。意味わかんねェし!」
「まあ、普通はそう思いますよね」
「分かってんなら」
「そうですね、実例を挙げましょう。丁度彼らも来たようですし」
「はァ?」

 小さく叩かれたノックに、返事もなしに少女が扉を開く。少女の移動に合わせて流風の視線も動くが、少女は気にした様子もない。
 からりと扉を開く。

「おっと、悪……んんー? なんでここに今話題の女の子がいるんだ?」
「あ、これ完全に巻き込まれたパターンだわ」

 楽しそうに笑った暁と、げんなりとした様子で肩を落とした結徒。少女はにっこりと笑って二人を中へと導いた。
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