FC2ブログ

「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

12 いと。お前は、それでいいのか?

 ←11 ……僕も、変われる、の? →13 そんなの、ただの詭弁じゃないですか!

「おーい、いとー! ちょっと待てって!」
「……」
「激おこ? 激おこいとくーん、遠野ー、結徒くーん」
「うるせぇよっ!」

 おっと、ガチギレだとお道化た暁だが、勢いよく止まった結徒に追いついた。ギリギリと強く歯を噛みしめた結徒だったが、堪えるように息を止め、小さく吐き出した。
 追いついた暁の肩を強く押して、関係ない、とでも言うかのように、下足箱へと向かう。無言で靴を履き替える。
 暁は静かに、その背中に言葉を投げかけた。

「いと、俺は請けるべきだと思う。これはきっと分岐点だ」
「あん?」
「願いが一つ、叶うんだ。なんでも。一つだけ。あの時とは違う。あの時の経験が今にあるんだって言うなら、きっと今だ」
「しつけーな」
「いいか、いと。一回しか言わねぇぞ」

 普段のおちゃらけた雰囲気はどこにもなく、静かな声に半身を返す。思った以上に真面目な顔をされて、訝し気に鞄を担ぎなおした。
 暁は平坦な声で、淡々と紡ぐ。

「三日後に手術だ。三度目の、成功率が極めて低い手術」

 頭が真っ白になった気がした。何を言われたか、理解するのを拒んだかのように、思考が止まる。
 何のとは、言わなかった。
 三度目の、手術。成功率が、極めて低いと言われている。そりゃそうだ、だって、彼女は二回目の時だって成功率は半々だと言われていた。体力が持つかと言われていた。そう、聞いていた。
 はくりと、息が漏れる。唇が震えた。

「……なんでお前がそれ知ってんだよ」
「誰のか、って聞かねぇんだな」
「っ」

 絞り出した言葉は、思った以上に弱弱しくて。暁の続けられた言葉に、誰のことかを指しているのか肯定されたようで。
 ごっそりと気力を抜き取られた気がした。
 果たして自分は今、ちゃんと立てているだろうか。進路指導室に入ってから今まで、ずっと夢見ていたんじゃないか。
 思わず逃避しそうな思考に、追い打ちをかけるように暁は続ける。

「いとが前の旅の中でぽろっと零しただろ、それで還ってから直ぐに探した。余計なお世話だって言われてもいい。でも、いとは未だ行ってないんだろ」
「なんでてめぇっ、勝手なことしてやがる!」
「俺が首突っ込みたがりなのは、いとの方がよーく知ってるだろ」

 お前が言うなと、分かっているならやめろと、いつものように返せなかった。

「……行かねぇのか?」
「……」
「ちなみに俺はこれから行くぞー、絶対に今日来てくれって、明日以降は来るなって言われてるしな。時間がだいぶ押してるから、本当に顔だけ出しにだけど」

 なんでそうやって、軽々しく踏みにじる。
 そうやって、他人事だからと踏み込んでくる。
 触れられたくない場所に、知らぬ間に入られている。

 罵詈雑言にもならない言葉は出てこなくて、感情のままに、だんっ、と暁の真横の壁を叩いた。身長差があって見上げる形になるが、それでも、怒りの感情は伝わるだろうか。

「酷いこと言うけど、俺が成功を願う義理はない。ここ数ヶ月だけの、顔見知りみたいな間柄だ。それに、俺は俺で叶えたい願いがある。だから、俺は願わない。頑張りを祈るだけ」

 淡々と、暁は続ける。他人事だからと、静かな瞳で見返してくる。
 畜生。どうしてそんなに踏みつけて、突き付けてくる。どうしてそんなに絡んでくる。
 放っておいてくれ。放っておけよと溢れてくる思いは伝えられないまま、結徒はふるふると壁に付いた腕を震わせた。

「三日後以降の結果は、ありのまま受け入れるだけ」

 だから、なあ。

「いと。お前は、それでいいのか?」

 結徒は、何も答えなかった。
関連記事
スポンサーサイト





総もくじ 3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ 3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ 3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ 3kaku_s_L.png 零れ話
総もくじ  3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ  3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ  3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ  3kaku_s_L.png 零れ話
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言
  • 【11 ……僕も、変われる、の?】へ
  • 【13 そんなの、ただの詭弁じゃないですか!】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【11 ……僕も、変われる、の?】へ
  • 【13 そんなの、ただの詭弁じゃないですか!】へ