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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

13 そんなの、ただの詭弁じゃないですか!

 ←12 いと。お前は、それでいいのか? →14 ……いい。遺言になるくらいなら、墓まで持ってく

「君は、風華なの……?」

 少女を真っすぐに見つめながら、震えた言葉で流風は問い掛けた。
 射貫かれるような強い視線で見つめられた少女は困ったように首を傾げて、何も言わずに微笑んだ。

「なんで、答えて……話さないの……? 幽霊だから? そんなはずないよね? だって、ここにいる皆に見えている。そんなはずは」
「流風、落ち着け」
「落ち着けるかよっ! だって、確かに、見たんだ! 息をしていないのを、死んでるのを、俺は、確認しているんだ。確認させられたんだ! なのに、なんで、その姿で、今俺の前に居るんだよ!? おかしいだろこんなの! おかしいはずだ! おかしくなければっ」

 興奮したように叫ぶ流風の言葉を聴きながら、少女は小さく肩をすくめて、理事長を見る。理事長が小さく頷いたのを確認すると、困ったように微笑んで、姿を消した。

「風華っ!」
「戸狩さん、《落ち着いて》下さい」
「っう……」

 続けようとした言葉は封じられ、泣きそうに顔を歪めながら少女が消えた場所を見つめる。
 SAN値チェックだな、と呆れたように呟いた政葵の戯言に、軽口を返す余裕ですらなかった。
 どこへ消えたのだろう。どうして消えてしまったのだろう。意識をして深呼吸させられているような状態で、ぎょろりぎょろりと辺りを見渡した。

 友喜が驚いたように顔をあげつつも、どこか引いた様子で自分を見つめているのに気付くと、流風は小さく舌打ちをした。

「……彼女は、選出者。救いを望む神に代わり、この世界の者に話を持ち掛ける代理人。この世界から異界へと連れ出す者。それ以上の情報は与えられません」
「ふーん? 情報規制の為に、言葉を封じてるってことか?」
「そのようなものです」
「でも、それなら何故理事長はあの子の言いたいことが分かるように振舞えるんですか」

 強制的に落ち着かされるのはあまりいい心地ではないが、それでもいない存在に気をやることはない。政葵の言葉を受けて、引き継ぐようにして流風は理事長を見つめる。
 その視線が幾分か穏やかであることに、理事長は胸の内で肩の力を少しだけ抜いた。

「彼女は……彼女も私と同時期に異世界転移をした者ですから、そのよしみでしょう。深くは分かりませんが、この度の選出に私を頼って来た。その際、確定するまでは自分はあまり口出しは出来ないと言っていました。なんとなく察せるのは、経験の差、でしょうかね」
「なら、理事長はあの子の名前を知っていますか?」
「私からはなんとも」

 さらりとはぐらかせられたことに僅かに顔をしかめた流風だったが、再び取り乱すことはなかった。
 じいと、見つめる。その仕草を、表情を。そこに嘘がないか。偽りがないか見極めるように。

「理事長は、一介の生徒の事情なんて知らないでしょうが」
「君たちのことは、ある程度理解しているつもりですよ」
「なら、何故。理解していると言うのなら、何故教えてくれないんですか。それが、どういう影響を与えるのか、理解していると言うのなら分るでしょう!?」
「分かるからこそ、言わない。理解していますが、それでも言えません」
「そんなの、ただの詭弁じゃないですか!」

 声を荒げた流風の肩を押さえ、政葵はじっと流風を見つめた。落ち着け、と手に力を込めれば、ぐっと流風は唇を噛みしめた。

「聞きたきゃ、確認したきゃ、そっちのアホみてェな要求を飲めってことかよ。都合がよすぎる餌デスこと」

 皮肉を吐き捨て、政葵は大きく舌打ちをした。黒縁眼鏡の向こう側にある釣り目がちな瞳を更に鋭く細めて、理事長を睨む。
 理事長はその眼光を受けながらも、怯むこともなく流風と政葵を見つめる。

「一つだけ私から言えるとしたら、彼女が貴方たちを指定した。それが答えだと思いますがね」

 胡散臭い。表情にそう出ているのを隠すこともせず、流風は顔を歪めた。
 乱暴に鞄を掴んだ政葵が立ち上がったのを見て、大きく息をついて後に続く。

「……行くぞ」
「ああ」

 戸惑った様子の友喜のことなど目にとめることもなく、二人は進路指導室を後にする。
 ぽつんと残された友喜は、震える唇を噛みしめてぎゅうと一度胸元を握りしめた。何度か意識して呼吸をしておずおずと理事長を見上げる。
 理事長は、困ったような顔で扉を見つめていた。

「……理事長先生は、何が」

 不思議な人だ、と思う。
 教師らとは異なり、関わることのないような肩書の相手。一般の生徒に埋もれていれば関わる必要もないような人。
 信じがたいような骨董無形な話を真面目にした。それを否定しても声を荒げても、困ったようにそれを受け入れている。
 言葉にはしないが、変な人だと友喜は思った。それと同時に、たくさんの言葉を飲み込んでいるのだとも感じてしまった。同じように、言いたくても言えない言葉がたくさんある人だと、察してしまった。

「何が、したいのか? それとも、何が目的か、でしょうか?」
「……」

 続く言葉を否定もせず肯定もしない友喜に、理事長は優しいまなざしを向けながらゆっくりと続ける。

「体験者だからとも言えますし、教育者だからとも言えますが……私は、貴方たちに変わってほしいのですよ」

 貴方も、このままではいけないとどこかでは分かっているでしょう?
 そうやんわりと続けられたが、友喜には何も言えなかった。
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