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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

14 ……いい。遺言になるくらいなら、墓まで持ってく

 ←13 そんなの、ただの詭弁じゃないですか! →15 ああ、本当に、嫌だな……

「はあ!? 何その格好!? 王子様!? 王子様コス!?」
「この後記念パーティに呼ばれてて、着替えてる暇なくてなー。俺の正装ー、撮影は禁止ですー」
「はああ!? そんなイケメン見させておいてそんなこと言う普通!? ちょっと興奮しすぎて不整脈になった代金で撮らせなさいよ! で、看護師さんたちに売る!!」
「肖像権を主張しまーす。つーか、個室とは言えここ病室だからな。落ち着け?」
「誰が落ち着かせないでいると思ってるのよ……全くこの、人間ビックリ箱め」
「あれ、さりげなくディスられてる俺?」

 あー、叫び疲れたー、とベッドに横たわる病室着を着た少女。その細い腕には幾つもの点滴痕が残っており、病院儀の隙間からいくつも管が伸ばされているのが分かる。
 コートを脱いで、無菌室になるように覆われた透明なカーテンの向こう側に立っただけで、だいぶ興奮させてしまった。まあ、そうなるだろうな、とは思っていたが、時間が押しているのだから仕方ない。
 上品な白地のフロックコートを身に着けた暁は、まさに理想の王子様像であった。上着にコートを羽織ってはいたものの、しっかりと髪までセットした姿で歩けば、誰もが振り返っていた。

「うん、でもなんかこう、ちょっと安心した」
「うん?」
「忙しいのは分かってたけど、無理言っても明日はもう誰にも会いたくなかったし。三度目とは言え、やっぱ怖いものは怖いしねー」

 ははは、と少女は笑った。ニット帽をかぶって、短くなった髪を隠して、もう家族にしか会うことはないだろうと思っていた矢先にふらりと現れた暁と関わって。夢を見て。現実を知らされて。
 ああ、人生上手くいかないことばっかりだ。

「ちょこっとだけ、弱音吐いて良い?」
「怖いってもう言ってるぞー、それは弱音にならないのか?」
「それは本音だから別ですー」

 ただ、あまりにも彼が茶化すから。お道化た様子で話すから。普通の学生同士のように話すから。家族にも看護師にも言えなかった、心の中の不安を、ほんの少しだけ、伝えてもいいだろうか。少しだけ、寄りかかってもいいだろうか。
 アタシと言う存在を、残してもいいだろうか。

 暁が仕方ないなぁとでも言うかのように穏やかに微笑みながら促す空気を発するものだから、震える唇で細く息を零した。そこに混ぜ隠すようにして、言葉を乗せる。

「このまま、ね。家族だけにしかアタシって存在が知られないまま死んじゃうのかなって、思ったの。もう、学校行ってた時の友達は来ないんだよ。知らせてないから当たり前だし、こんな姿見られたくないから、当然と言えば当然なんだけどさ」
「俺に見られるのはいいのかー?」
「だって、最初から闘病中の姿見られてるし、元の姿知らないじゃん」

 だからいいの。暁は、いいの。
 どこで知ったのかは知らないけれど、それでも定期的に着て、アイツの様子を教えてくれるから、いいの。
 そんな存在に縋ってしまう自分が、期待を抱いてしまう自分が嫌になってしまうけれど。

「アイツも来ないし、来るかもしれないって期待している自分が本当に女々しくて嫌」

 なにより。

「最後に会えないって、思ってしまう、自分が一番嫌」

 困ったな、泣きそうだ。こんなに零すつもりはなかったのに。少しだけのはずなのに。暁が静かに聞いてくれるものだから、ぽろぽろ言葉が溢れて止まらなかった。
 ぎゅうと目元を強く覆った。こんなに骨ばった手で、管を気にしながら生活しないといけない環境で、どうして、まだアイツのことを気にしてしまうんだろう。気になってしまうんだろう。

「本当に、すげぇよなぁ。よくそこまで想ってられるもんだって、つくづく感心するわ」
「煩いなぁ。拗らせてるのは分かってるけど、そこは乙女心察して」

 湿っぽい雰囲気を払うかのように、暁がからからと笑いながら揶揄うものだから、にじみ出た涙を拭って頬を膨らませた。
 もっとアタシに優しくしてくれてもいいんだよ? とむくれながら言えば、その役目は俺じゃないと揶揄われながらも返される。いつもの緩いやりとり。この場所じゃ、願っても得られなかった、普通の学生のやり取り。それがどんなにありがたいことか。
 膝を抱えて、王子様の恰好をした暁を見る。悔しいくらいに似合っていたのが、余計に腹が立つ。

「王子は、大丈夫だって。無事に終わるよって言わないのね」
「あいにく、俺が手を出せないことで無責任な言葉は言えない性分なんでね。んでもって、俺は王子じゃないぞー」
「その姿で王子じゃないって言われても外見詐欺としか思えないからね?」
「おい、真顔で言うなよ。照れるじゃねぇか」

 吹き出しながら笑った暁だが、チラリと腕時計を見るとゆっくりと立ち上がる。時間が押していると言っていたのは分かっていたが、もうそんな時間か、と急に寂しくなる。
 暁は上着を羽織りながら、いつもの言葉を口にした。

「なんか、伝えることあるか?」
「……いい。遺言になるくらいなら、墓まで持ってく」
「拗らせてるなぁ」
「うるさいっ」

 いつものようには返せなくて、ポツリと零した言葉は苦笑された。暁にとっては他人事かもしれない。それでもこっちは、繋がりがないこちらとしては必死なのだ。

「結徒には何も言わないで」

 もう遅い。暁は心の中で冷めた目をしながら返したが、表面には出さなかった。
 その必死な表情を見て、泣きそうな顔をしながらもそれだけはと縋る彼女を見て、ゆっくりと息をつく。意識をしながら緩やかに笑った。

「……仕方ねぇなぁ。貸し一な」
「返せるか分からないから永遠に付けといて」

 なんだそれ、と暁はカラカラと笑った。

「ありがと、最後の友達。これ以上は、なんかフラグになりそうだからあえて言わないでおくわ」
「いやいやいや。永遠にツケって辺り、完全にフラグだっただろ」
「あっ、まあ、そうだけど! そこはスルーしてよ! もー、締まらないじゃん! もー、いいからいけっ! 時間押してるならもう、さっさといけ!」

 布団をばんばんと叩きながら追い出そうとする彼女の様子に、暁はカラカラと笑いながらじゃあな、と病室を後にした。

 ……困った。彼女はもう、生を諦めている。
 成功率は低い。無事に終わっても再転移の可能性が高い。それでも手術に踏み込んだのは、奇跡を信じてか。
 それでも、奇跡が起きたとしてもリハビリに耐えられるか、その後の経過はどうか。不安は耐えないだろう。今も恐らく、暁と話すためにあげたテンションの反動で、ぐったりと横たわっているだろう。下手すればその不安を口にしたことで、涙しているかもしれない。

 小柳奏芽(おやなぎかなめ)。中学校に進学する直前に癌が発覚し、以来ずっと闘病生活を続けている。抗生剤、放射線治療を中心に、摘出手術は二回行った。リンパ管からの転移ではなく、早期発見による治療で一度目の摘出手術は滞りなく終了した。それなのに、その後二度、他の部位に悪性腫瘍が出現し、彼女は闘病生活から抜けることができない。体はどんどん衰弱していく。抜ける髪の毛、落ちる筋肉。自信の身体の衰えに引き摺られるようにして、はつらつとした明るい少女の面影が失われていった。
 奏芽がまだ元気だった頃、結徒の母が運営しているピアノ教室に通っていた。その頃から、結徒との言い争いは絶えなかったが、互いを想うが故の微笑ましい喧嘩だったと結徒の母は言っていた。
 突然の病気発覚。おかれる距離。思春期を迎えた結徒と奏芽は、互いのことを気にしながらもその後会うことはなかった。

「ったく、二人して未練たらたらなら、さっさと顔合わせちまえば早いのにな。ま、馬に蹴られたくないからあんまし言わねぇけどさ」

 駐車場で待たせていた車に乗り込み、暁は病院を後にした。後部座席の曇りガラスにこつりと額を当て、深く息をついた。
なあいと。失ってしまったものは戻らないんだ。だから、失った者には何も言えない。でも、失った立場だからこそ、まだそこに在るのに何故何もしないと、強く言いたいんだぞ。分かるか馬鹿野郎。

「あーあ、やっぱり上手くいかねぇなぁ」

 人の感情は思うようにならない。そりゃそうだ、本人でなければ分からない。本人ですらわからないものを、理解できるなんて烏滸がましい。
 それでも、どうしてこうもすれ違ってしまうのか。どうにもできない感情を持て余しながら、暁は静かに目を閉じた。
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