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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

18 そんな、軽くでいいのかよ

 ←17 なんでアイツ、しれっと仲良くなってんだよ →19 できないことなんかないじゃない

「政葵、携帯が鳴ってるぞ」
「あ? ほっといてー、どうせアプリの通知だろうし」
「それにしては長いから、電話かと思ったのだが……まあ、いい」

 逃げられなかった。今日の流風の様子を見て、戸狩家に避難することは出来なかった。
 父親は今日帰ってこないと言っていたから、それは気にしなくてもいい。それでも、この兄と同じ屋根の下にいるのはどうも息苦しくてたまらない。

 理想の妹になるように言い聞かせてくる、このドがつくシスコンの兄は、政葵の行動やることなすこと全てに口を出してくる。やれ女の子がはしたない、もっとちゃんとした言葉を話せ、男に近寄るな、丁寧な所作をしろ。
 歳がだいぶ離れた妹が気になって仕方がないのは分かる。離婚家庭で母親がいない分気にかけてくれているのは分かる。だが、過剰に行動制限をされているようで、息が詰まって仕方ない。
 適当に流して、徹底的に視線を合わせないようにはしているが、相手が構ってくるのだからストレスが溜まって仕方ないのだ。そんな兄に反抗的に、今の政葵の性格が出来上がったと言っても過言ではないだろうと、流風の母親からも苦笑しながら言われたのは間違いではないと政葵自身も思ってはいるのだ。

「ん? 電話?」

 そう言えば、理事長に電話してくれるように頼んだような気がする。時刻は九時を回っているが、遅すぎるわけではない。むしろうっかり忘れてた政葵は、慌てて充電器に刺していた携帯を持ち上げた。
 デフォルトのままの着信音を鳴らし続けているこれは、確かに通知音ではない。電話だ。画面を見れば、非通知と書いてある。
 普段は警戒して放置をするが、今日に限ってはそうして掛けてくるような相手に心当たりがある。
 切れないようにと願いながら、政葵は自室へと駆けこんだ。

「も、もしもし?」
『……あっれ? 理事長じゃなくて、えっと、誰だ?』

 電話の向こうで、驚いたような暁の声が聞こえた。予想通りの相手だったことに安堵すると同時に、扉を閉めてもそこで聞き耳を立てているであろう兄を思えば、自然と声を潜めた。

「あー、理事長にはオレが電話してもらうように頼んだんです。オレ、刀修です。放課後一緒だった」
『あー…、ああ、分かった指導室で一緒だった刀修な。あの後、流風は大丈夫だったか』
「まあ、一応無事家には帰しましたよ。てかすみません、ちょっと事情があって同級生の友達って体で話してもいいですかね?」
『ん? おう、まあこんな時間だもんな。いいぜ、同級生の女子的な? アタシ頑張るわ政葵ちゃん、的な?』
「いや、そっちは別にしなくていーから」

 ずばりと切り返すと、暁は楽しそうに笑った。
 理事長と話している時も感じたが、あまり気にせず接してくれる気楽な態度が、個々のパーソナルスペースにするりと入り込ませるんだよな、なんて思った。それが不快ではないからきっと、あんなにも人気者になれるのだろう。
 着飾らずに話せることで、声を潜める必要がなくなった政葵は、気持ちも少し緩んだのか薄らと笑った。

「で、経験者に聞いてみたくてさ。前の世界(とこ)はどんなだった?」
『どんなだった、って言われてもなー。王道、的な?』
「ゲーム解釈してもらえるとめちゃくちゃ分かりやすいんだけど、そゆの分かるか?」
『あー、そういう感じだと……。召喚されて、おお、そなたが勇者だ、って試練の祠に突っ込まされて、武器集めて、四天王倒して、魔王倒した王道シナリオ。突発イベント王家の裏切りがあって……あとなんだろ? ジョブチェンジはできなかったから、ずっと職業魔法戦士やってたわ』

 シナリオ的には面白みがないなと思いつつ、魔法戦士のジョブは凄いと素直に感心した。魔法戦士は戦士と魔法使いを極めてから解放される二次職業。多くのゲームで初回で選べない職業であり、その難易度は上級者向けであると聞いた。尖っているわけでもないパラメーターは、極振りしている職種と比べると火力がやや陥る。多彩なスキルを使用することができるも、器用貧乏職と侮られることが多い職種だ。
 器用に何でもこなせる奴にはぴったりな職業だな、と思いつつ、もし自分がその職種を選ぶかと言ったら否だ。不適合職(ビルドエラー)にもほどがある。

「ふぅん、二人ともジョブは最初に固定された感じ?」
『適応職業に勝手につかされてた感じだな。……あ、何? 今回もそんな感じ? そっかー、後衛職もやってみたかったんだけどなー、残念!』
「……なあ、誰と話しているんだ?」
『あ? これ言って平気か? オッケー? オッケー出たから言えるわ、あの白ワンピの女の子。俺行くの決まったようなもんだから情報解禁だって』

 電話の向こう側で、しれっとこのとんでも話を交わしている。それが、あの場にいた風華だと言う事実にも驚いたが、それ以上に。暁は今、行くのが決まったようなもの、と言ってはいなかっただろうか?

「し、んじるのかよ」
『そりゃ、まあ一回経験してればそう言うのもありだなって思うわけだ。実際に、現れたり消えたりする能力も見たし、それこそゲーム的に言えば、俺幸運度Sクラスだし?』
「自分で言うかそれ」
『言えちゃうんだな、これがまた』

 確かに、と頷けてしまうのが暁と言う人間の恐ろしい所である。

「でもあれだろ、雑魚狩りして経験値貯めるとか、ないんだろ? 死に戻りはあるにしても、痛みだってあるんだろ?」
『そりゃそうだ。ファンタジーな異世界転移って言っても、そこに生きる人にとってはそれが現実だしな。チート能力貰ったとしても、そこまでなくすことはできないだろ。実際、前回は死に戻りなんてもんはなかったしな。死に戻れたかも分からないから、生きるのに必死だったし』
「……」

 ぽんと重い話を当てられて、政葵は思わず言葉をつぐんだ。
 そんなに重い話になるとは思わなかったと言えば嘘になる。漠然とそうなんだなと思っていただけで、それは遠い世界の話のように思っていて。
 よくあるラノベのデスゲーム的な? 自己解釈が軽くなるのはいつものこととは言え、ゲームに置き換えて、気軽に思っていた自分は間違っていたと言うのか。
 さらりと触れられても、そんなもんかと流してしまってもいいないようじゃないのは分かる。電話の向こうの相手は、それが死活問題になったと言うのだから。知らない自分が勝手に同情して、大変だったんだなと他人事のように憐憫するのは間違っている。
 口をつぐんだ政葵の雰囲気を察してか、暁はさらりと流す。

『まあでも、今回の話に関しては至れり尽くせりなわけだし。深く考えなくてもいんじゃね?』

 そして、さも何でもないように、明日の雨降るんじゃね? とでも言うかのように軽い口調で言われて、頭が理解するのを止めてしまった。

『叶えたい願いがあるから行く。自分が変わりたいから行く。今この場所に居たくないから行く。気になるから行く。そんな自分本位なもんで全然いんじゃねぇの?』
「そんな、軽くでいいのかよ」
『別にいんじゃね? こうして選択肢を与えられてるって時点で破格な条件だ。前任者が居たって部分でも、信頼できる点が一つ増えてるわけだし』

 どうしてそんなに、何ともないことのように言い切れるのだろう。
 見ているものが違うのだろうか。考えているものが違うのだろうか。

 ああ、これは確かに、住む世界が違う。
 こんなにも、違う。電話越しの声は近いのに、とても、遠い。

『お? ちょっと乗り気?』
「そういうわけじゃねェけど」
『あいてっ! お前は軽すぎーって怒られてる俺だけどさ』

 暁は、笑う。
 カラカラと、楽しそうに、軽やかに。

『いんだよ、それで。それくらい軽くないと、最初の一歩なんて踏み出せない』

 そんなものなのだろうか。そんな程度でいいのだろうか。それは暁だからそう感じるのではないのか。それとも、本当に?
 そうして迷ってる時点で、気持ちが傾いていることに気付いて、政葵は深く息をついた。

「参考になったような、ならなかったような……」
『ま、経験の差だろうなー。っかしいよなー、これでも一つしか違わないのになー』
「異世界経験値の累積な。裏ステみたいなもんだろ」
『違いない。ちょっとレベリング頑張りすぎたわ』

 かと思えば、流風相手とも違う新鮮な返しをされる。本当に、よく分からない。
 暁がよく分からない存在なのは、今更だ。そういった存在なんだと、関りを持たないまでも噂で聞いていた。
 だが今はそれ以上に、自分がよく分からない。

「ま、ちょっとクールダウンがてら考えてみるわ」
『おう。かるーい気持ちでな。考えすぎ、よくないぞ?』
「迷宮攻略よりは軽くみておくわ」
『ラビリンスはマッピングが面倒でなー…、もちょっと、こう、二面ボスマップくらいの気楽さで』
「却って分かりにくいっての。夜に悪かったな、サンキュー」

 いいってことよ、と最後まで軽い様子で返してきた暁との通話を切る。
 軽くと言われた。軽くなら、もっと自分本位に考えてもいいのなら。自分のことだけ考えて、他の何も考えなくていいのなら。

 考え込み始めた思考を遮るように、扉がノックされた。鍵は……大丈夫だ、ちゃんと内鍵は掛かってる。

「政葵、今の電話の相手は」
「ゲーム仲間。聞き耳たててんなよ、キモイ」
「だがな、ゲーム仲間とは言え」
「あー、はいはいはいはい」
「政葵」

 煩い、煩い、煩い、煩い!
 探りを入れてくる兄の存在にいら立ちが募る。さっさと消えろと念じるようにして、枕を扉へと投げつけた。
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