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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

19 できないことなんかないじゃない

 ←18 そんな、軽くでいいのかよ →20 んなもん、知るかよ

 ぱちりと、目が覚めた。
 寝起きは低血圧気味で覚醒するまでが長い方だと自覚しているのだが、不思議と意識は覚醒していて、このまま二度寝するのは難しいだろうなと思えるくらいには、しっかりと目覚めてしまった。
 ゆっくりと時計を見る。時刻は午前六時。いつもより少し早い。

 わしゃわしゃと無造作に髪を掻き回し、踏まないようにしてゆっくりと身体を起こす。静まり返った部屋の冷気が、布団から出た体を容赦なく冷やしていく。三月末でも未だ朝方は寒い。

『いと。お前は、それでいいのか?』

 暁の言葉が、いつまでも離れない。いつもそうだ。いつだってアイツは、するりと人の内側に入ってきて知ったような顔で答えを求めてくる。干渉してくるなと言っても、気が付けば騒動の中心にいる。そこに巻き込まれる。一人で解決できるような力があるから殊更に質が悪い。
 それでも、不思議とその言葉も存在も、無視できないのだ。与えられた《力》のせいではない。龍神暁と言う強烈な個が、嫌でも惹きつけさせるのだ。良くも悪くも。

 気が付けば、奏芽の次に付き合いが長くなっている暁には、結徒も一定の信頼を置いている。共に異世界転移して還って来たなんて稀有な体験をしたのもあるが、それだけではない。

 日本人離れした外見。一般人とは比較するのも烏滸がましいほど特出した才。周囲の関係は慎重すぎるほど慎重に選ばなければいけない立場。環境は異なれど、類似した立ち位置で暁は結徒以上にうまく立ち回っていた。
 嫌だとは思う。他人の思い通りに動かされることが。それでも自然と目覚めが早くなってしまうくらいには、あの言葉を意識している。

 深く深く息をついて、結徒は携帯に手を伸ばした。
 この時間なら、まだ出勤前だろう。忙しい時間帯だとは思うが、仕事中でなければ出てくれるだろうか。
 暁でも奏芽でもない、結徒が家族以外で一定の信頼を置いている唯一の大人へと電話を掛けた。数回のコール音。やはり出ないだろうか、と画面を見たその時、コール音が途切れる。

『はい、名鰭(なひれ)です』
「オレ。仕事中?」
『えー…オレと言う知り合いは居ませんがー…』
「すっとぼけんなよ、ナビ聖女」
『やめて! アラサーに足突っ込んだ私にその肩書は痛すぎる! ……て、賢者くんかー。うわ、お疲れ様会以来? 本当に電話してくるなんて思わなかったから、何と言うか珍しいね、どうしたの?』

 以前共に異世界を旅した、年上の女性だ。互いに、ナビ聖女、賢者くんと本名で呼び合う事がなかった為、フルネームは知らない。それでも彼女は、結徒にとっても、おそらく暁にとっても、普通の一般女性と言う稀有な立場でありながら、信頼が置ける相手だと認識している。

「……もし」
『うん?』
「もう一回異世界行って世界救えって言われたら、どうする?」
『突拍子もないね』

 早朝から電話越しにされる会話としては、確かに突拍子もないのだろう。それにも関わらず、苦笑はしても一蹴して切られない辺り、彼女も大概付き合いがよい。

『うーん、一人じゃ行かないな。あと前みたいに力があるなら考える』
「考えるのかよ」
『まあねー、一応社会人ですし? 無断欠勤とかシャレにならないし? 大人になると色々考えることもあるのデスよ。考えたくもないけど』

 で、どうしたの? と重ねて問われて、結徒はためらいながらも口にした。

「も一回、別の世界救えって。救ったら、なんでも一つ、願いを叶えるとかあほなこと言われてる。暁は行くらしい」
『うん、それで?』
「……それでって」
『賢者くんはどうしたいの? ……違うか、どうして欲しい……じゃなくて、どう言って欲しいの? これかな。私に何て言って欲しいの?』

 ただ聞いて欲しいだけじゃないのでしょう?
 そう続けられて、結徒ははたと動きを止めた。暁の言う通りになるのが嫌で、どうすればいいのか相談したくて、第三者の視点での意見が聞きたくて電話したのだ。その、つもりだった。だが彼女の口ぶりでは、違うと言っているに等しい。

「信じられるか、この話?」
『常識的に考えれば、信じられないね』
「やっぱそうだよな、くだらないこと聞い」
『でも、勇者くんは信じた。だから賢者くんは信じていいものか悩んでるって辺りでしょう?』
「……」

 まさにその通りで、結徒は口を閉ざした。

『動かなければ、手を伸ばさなければ、幸運の女神の前髪はつかめない。……なにか受け売りだけどさ。悩むくらいなら、動きなよ。悩んでいる時点で、答えは決まっているようなものだよ』
「……んなこと言ったってな、オレはあの超人ばかつきとは違うっつーの」
『いや、同じだよ? 一般人枠じゃないからね、賢者くんも。あの勇者くんと一緒に行動できるくらいには、賢者くんも凄いんだから。一年前なんて、私本当に、ナビゲーターでしかなかったくらいには、二人で世界救えたじゃない』

 彼女は繰り返した。悩むなら、動けと。動ける力が結徒には十分あるのだからと。
 自信を持って強く繰り返される言葉に、ぽつりと問いかけた。

「出来ると思うか、ナビ聖女」
『賢者くんと勇者くん揃えば無敵。できないことなんかないじゃない』

 はっきりと断言されて、結徒はそうかよ、と呆れたような笑い声を漏らした。電話の向こうでもそれは聞き取れたようで、彼女は明るい声で笑う。

『お土産話期待しているね。今度はケーキバイキングある場所で、お疲れ様会しよう?』
「ナビ聖女が、オレらを慰労する会、かよ。経費はそっちもちな」
『ぐっ、薄給会社員にたかる……⁉ っと、ごめんそろそろ出なきゃ』
「おう。……ありがとな」
『ナビだからねー、目的地に辿り着けたようでなによりだよ』

 またね、と通話を終了した彼女は、ぶっきらぼうな礼をも軽く笑って流した。滅多に言わねぇんだぞ、と電源ボタンを押して小さく笑う。

「結局、誰かにやれと言われたかっただけかよ、ガキかオレは」

 暁から選択しを与えられるのは嫌で、自分で決めるのも嫌で、でも願いは叶えたくて。結局大人である第三者の彼女にやれと言わせてしまった。その事に気付けば自嘲したくもなる。
 それでも、そこまでしないと踏ん切りはつかなかった。

 直接病院に行くことは出来ない。まだ、それができるほどの決心はついていない。
 暁は自分の願いを優先した。いつ頃から知り合っていたのかは知らないが、隠していた奏芽の現状を伝え、最悪を回避する手段を提示している。
 そこまでお膳立てされて、行かないでどうする? 

「ノせられてる感が否めねぇつーのが、アレだけど……」

 それでも、決めたのは自分だ。
 はあ、と大きく息をつき、結徒は制服へと手を伸ばした。
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