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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

20 んなもん、知るかよ

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 昨日は色々ありすぎた。感情が溢れて、柄にもなく取り乱していたような気がする。今日は卒業式が行われるため、数少ない部活が休みの日である。
 それにも関わらず、昨日持ち帰り忘れた体操着を取りに行くためだけにわざわざ登校しなければならない。昨日はそれなりに汗をかいた。そのまま放置しておけば間違いなく、臭う。
 母の無言の促しもあり、流風は制服に着替えて家を出る。丁度家の前を通り過ぎようとしていた政葵の姿があった。

「政葵、おはよ」
「おう、珍しいな。流風は今日部活休みだったろ?」
「昨日体操着忘れたから、取り行くんだよ……」
「あー、放置しとくとクッソ汗臭いもんなあれ」

 そういう政葵は、と聞き返そうとして、口を閉ざした。
 剣道部も今日は休みだ。補習もない。それなのにわざわざ、外に出るくらいならゲームやるスタンスの政葵が、学校へ行く理由なんて一つしかないじゃないか。

「行くの?」
「……まァな」

 軽く頷かれて、動揺で歩みが止まった。

「まじで?」
「まァな」
「本気で?」
「しつけーぞ」
「だって、そんなの」
「普通じゃねェってか。それこそ今更だろーがよ」

 迷いなく進む足取りに、慌てて後を追う。追いつくのを待っていたかのように、政葵は流風が隣で歩調を合わせると呆れたように息をついた。

「あのなァ、流風。お前、普通普通言ってるけど、流風にとっての普通ってなんだよ」
「そんなの、皆と同じように差しさわりのない日常と、平均的で、平凡な、誰もが大体同じ経験をしているようなことが、普通だろ……」
「そんじゃ、明らかに普通じゃないオレとつるんでるのはなんでだよ?」
「政葵は幼馴染だろ、家が隣だから昔からなんとなく気が合うってだけの、普通の幼馴染だ」
「ど阿呆。オレはお前と違って、特殊なんだよ。全然普通なんかじゃねェ。言葉使いはこんなだし、兄貴はあんなだし、協調性は最低限しかねェ。好きなもんはゲーム、どっちかってーと脳筋プレイのが好きだし、視力だって相当落ちてる。なァ、流風。これのどこが、普通の女子高生だって言えるんだ?」

 否定はしない。否定はできない。それは分かっている。分かっていた。

「……それでも、政葵は、政葵だ」
「普通の奴は、そんな簡単に考えられねェんだよ。魚若見りゃわかんだろ」

 人は、異質を拒む。己と異なる普通じゃない者に対する態度はあからさまだ。それが好意的に見えるのならば、暁のように特別なものとして扱われ、嫌悪されてしまえば、友喜のようにその輪から外されてしまう。

 政葵には流風がいた。流風には政葵がいた。二人がそれなりに付き合えることを、互いが互いに証明してきたからこそ、そこまで(・・・・)異質ではないと見られたのだろう。
 政葵は流風ほど積極的に女子としての付き合いをしてこなかった。むしろ一歩引いて最低ラインを見極めようと観察するようにして、クラスに溶け込んでいた。だからこそ、異質な存在であるという意識が向けられていることには、とっくに気付いていた。

「普通じゃない奴から言われたけど、軽くでいいんだとよ」
「は?」
「難しく考えるんじゃなくて、もっとシンプルに。簡単に考えればいい。スライム倒すのにコマンドは十個もニ十個もいらねェだろ。それと同じだろ?」
「ごめん、俺、政葵が何を言いたいのか全然わかんない」
「まァ、理解してもらおうと思って言ってるわけじゃねェしな」

 オレの中でそれでいいと思えたら、それでいいんだ。言葉にしたかっただけ。そう続けられたら、流風は何も言えなかった。
 二人の間にしばらく無言が落ちた。気まずい空気の中、昇降口まで進む。靴を履き替え、廊下をゆっくりと進む。まっすぐ進めば体育館の区域、右手の通路を進めば指導室へと続く道のりだ。

「オレ、思ったんだけど」

 戸惑ったように政葵は首筋をかきながら、ゆっくりと視線をあげる。

「多分さ、風華ちゃんも同じ選択したんだと思う」
「風華、も?」
「言っちまえば、今ある中で一番いい逃避方法じゃねェかよ。そうだろ? そっち行っちまえば、誰も追って来れねェ」

 それこそ、同じ場所に行かない限り。
 ドキリと、心臓が大きく跳ねた。

「政葵も、いなくなるって言うのかよ」
「さァな? どうなるのかは分からねェけど」

 軽く肩をすくめて笑う。

「でも、息はしやすいだろうよ。それだけは間違いない」

 いつでも監視されているかのように干渉されるよりは、全然いい。
 現状を知っている流風は、その被害を多少なりとも受けているから分かる。理解はできるのだが、それでも。それでもだ。
 そんなに簡単に兄を切り捨てるのだろうか。それがどうしてか、風華とダブって見えた。
 言いたいことは言い切ったとでも言うかのように、政葵は足早に先に進む。

「真兄さんにも、同じ思いさせるつもりかよ」

 政葵の歩みが止まる。小さく顔だけ振り返った。


「んなもん、知るかよ」


 へっと笑い捨てた政葵の顔は、どこか清々しい雰囲気を発していて。もしも風華も同じ思いを抱いていたのだろうか。そう思わずにはいられなかった。政葵と真、流風と風華の兄妹は、それぞれ違うはずなのに。
それほどまでに重荷になるのだろうか、と流風はなんだか泣きたくなった。
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