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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

21 ここで怖気づいたりしねぇよ

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「タクシーかよ」
「お? おお、今日は山本さん休みだし、完全なる私用だからな」

 マンションから変なの付きまとわれるのもアレだから、手っ取り早くタクシーを使った。そう続けた暁だが、内心はとても驚いていた。
 春休みとなった次の日である今日は、午後から卒業式があるくらいで特に在校生で学校に用があるものは限られている。暁はもちろん昨日の話の続きをするために、進路指導室へ向かうと言う明確な目的があって登校をしている。
 だが、昇降口でばったり出くわした結徒が、何故学校に居るのかが分からない。昨日の別れ際の反応からして、あの話を承諾するとは思えないからこそ尚更だ。
 疑問に思いながらも他の用事は思い浮かばなくて、暁は率直に聞くことにした。

「いとも、決めたのか?」

 結徒は暁を一瞥すると、小さく鼻を鳴らして顔をそむけた。

「……ナビ聖女が、次はケーキバイキングだと」
「うん? いとの口からナビさんの名前聞くとは思わなかったけど。オッケー、ケーキバイキングな。……折半だろ?」
「んなわけねぇだろ、アイツのおごり」
「いと、自重できねぇだろうから多少は出せよ。ってそうじゃなくて」
「靴は必要か?」

 はぐらかされていた答えは、最後に婉曲に告げられた。ひねくれていて、自分が弄られるのは良しとしない結徒なりの答え方に、暁は笑みがこぼれるのを抑えられなかった。

「支給されるかもしれねぇけど、一応持ってってもいいかもな。備えあれば憂いなし、ってナビさんもよく言ってたし」
「オレらよりもナビ聖女引き連れた方が、達成確率上がるんじゃねぇかって思うんだけどな……あー、くそ、面倒になって来た」
「ナビさん曰く、ただのゲーム知識が噛み合っただけって言ってたからなー。それに関しちゃ、今回も適任者がいるから安心だぞ?」
「適任者?」
「そ、適任者。俺もこの一年で色んなゲームしたけど、付け刃よりは詳しい奴が……お、いるいる。おーい、刀修ー!」

 上履きに履き替え、進路指導室への道のりを進む途中で、先を進むポニーテールの女子生徒の後姿が見える。暁が迷いなく大声で呼び止めると、黒縁眼鏡の向こうで、政葵は目を細めて首を傾げた。

「……暁先輩と遠野先輩?」
「そうそう、あれ? 見えてない感じ?」
「カラーリングで判断しただけで、ああ、この辺りまでくればなんとか判別できます」

 近付いてくる様子をじいっと見つめていた政葵だったが、その顔に驚きの様子は見えない。暁はともかく結徒も、恐らく行って当然なのだろうと思われていることが分かる。第三者の目から見れば、暁も結徒も同じカテゴリーにされるのだろうと言う事を、結徒は名鰭の言葉以外でまざまざと実感させられた。
 政葵に気負った様子はない。

「敬語、苦手なら取っ払ったっていいぞ? 年も一つしか違わねぇし、言わばこれからは戦友ってやつだし?」
「それでいいのなら、そうさせてもらえると助かるけどよォ……いいのか?」
「勝手にしろ」
「んじゃ、遠慮なく」

 話が早い奴で助かる、と軽い調子で言われ、くるりと背を向けて先立って歩き始める。
 結徒と暁は軽く目を合わせ小さく頷いた。

「セーフだろ?」
「問題なさげだな」

 昨日言葉を交わした時点でも、暁や結徒に対して色目を使ったり、崇拝するような目で見られているようでもなかった。
一歩踏み込ませることを許した今も浮かれる様子はない。その事に二人は安心して、ゆっくりと後を追う。

「刀修……ええと、政葵だったけか? 名前呼びに抵抗は?」
「特にねェよ」
「んじゃ、今後は政葵って呼ぶわ。で、政葵はどんなジョブになると予想してる?」
「んー…、普段使ってんのは物理職系が多いから、その辺りであって欲しい。女だからって理由で聖職者とか笑えないし、絶対嫌だ」
「あー、それナビ聖女も言ってたわ」
「ナ、ナビ聖女って……なんだそのネタ要員的なの」

 結徒がしみじみと頷きながら相槌を打つと、政葵は噴き出した。笑いのツボに入ったのか、肩を震わせながら堪えている。

「前の異世界救った時の仲間な。勇者の俺だろー、賢者のいとだろー、で聖女の女の人でパーティ組んでたんだよ。そいや本人は聖女って呼ばれるの嫌で、ナビゲーターだってずっと言ってたなー」
「他人事なら笑えるけど、確かにオレだったらッて思えば、死にたくなるくらいに嫌だな。ナビゲーターのがまだマシって確かに思えるわ」
「そんなに嫌かー? 聖女呼び」
「むしろ勇者呼びに慣れてるっぽい暁がオカシイ」
「本当にそれな」

 政葵の言葉に深く同意する結徒。暁はそんな二人の言葉に凹むでもなく、楽しそうにカラカラと笑っていた。

「ま、雑談はここまでで。気合い入れて世界救うための交渉しねぇとな」

 気が付けば、進路指導室の手前まで歩みを進めていた。三人が口を閉ざせば、しんと静寂が落ちる廊下に他の者の気配はない。
 暁は楽しそうに笑っていた。
 結徒はゆっくりと息を吐き出した。
 政葵は真っすぐに扉を見つめている。

「最終確認だ。引き返すなら今しかねぇぞ?」
「ここで怖気づいたりしねぇよ」
「いいからさっさと開けって」
「躊躇ねぇなー! 頼もしいぜ!」

 楽しそうに、至極楽しそうに笑った暁の背中をどつき、騒がしくノックをする。
 そして彼らは、扉を開いた。
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