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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

23 彼は、来るでしょうか?

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 さて、彼らは来るだろうか。
 少女は人気のない進路指導室に舞い降りた。何時とは指定しなかった。昨日の様子では、きっと五人全員揃う事は難しいだろう。偽装工作の記憶操作を施して、新たな選出者を探さなければならない。やらなければいけないことはたくさんある。
 理事長である彼は、今日は来ないらしい。トラウマを刺激されそうでね、と苦笑をしていた。気持ちは分からなくもないが、今は少女がそれをする立場なのだ。一人だけ逃げるのはズルいと思ってしまう。

 ふと、廊下で人の話し声が聞こえた。
 今日は午後から卒業式があると言っていたので、その準備に来るものも少なからずいるらしい。目的の人以外もここを訪れる可能性があると聞いて、少女は扉の外には出ないつもりだ。
 とんとん、と軽く叩かれる扉。返事を返す前に、それは勢いよく開かれた。

「よっ、おはようさん!」
「せめて返事を待ってから開けた方が良いと思うのですが?」

 先陣を切って入って来た暁に、苦笑しながら言葉を返すと、その後ろに続いていた結徒と政葵が驚いたように目を丸くしていた。

「うわ、マヂで喋ってる」
「もう情報解禁ってことで、構わねェんだよな?」
「ま、入り口塞ぐのもアレだし中入ろうぜ? 構わねぇよなっ?」

 それぞれが好きなことを話す様子に目を白黒させていた少女だが、暁の言葉にはこくりと頷いた。誰一人として思いつめた様子もなく、かと言って気負った様子もない。
 変わらぬ足取りでそれぞれが落ち着く場所で足を止めると、その個性が出る在り方に少女はくすりと笑った。
 暁は中央の大きなテーブルに手をついて、少女に一番近い位置を陣取っている。結徒はカウンターに寄りかかっており、政葵は個人面接練習用のソファの背に浅く腰掛けていた。

「三人は意思があると認識していいのでしょうか?」
「扉の前で最終確認したけど、間違いないってことで大丈夫だぞ?」

 確認の意味も含めて結徒と政葵の方へ視線を向けると、当たり前のような顔して頷かれた。そのことに少し驚きつつも、小首を傾げて政葵の方へと向き直った。

「彼は、来るでしょうか?」
「八割方来ねェな。校内には居るけど、目的が違ってたし」
「……そうですか」

 面白くなさそうに鼻を鳴らした政葵の言葉に、少女は視線を落とした。それもほんのわずかの間の出来事で、ゆるゆると頭を振って再び扉を見つめた。

「二割に賭けて待ちの姿勢ってか?」
「いいえ、もう一人の彼はどうでしょうか? 彼の可能性も少ないのであれば、皆さまのみを転移させます」
「うーん……昨日の感じだと、五割を超えてる感じだな。悲観的現象が起きなければ、たぶん来ると思うけど……魚若の家庭内事情はちょーっと俺もよく分かんねぇしなぁ」
「ちょっと、待て」
「うん?」

 それなら待ちましょうか、と少女が言葉を続けるよりも先に、結徒がこめかみを押さえながら制止を掛けた。手のひらを暁に向け、眉間に深い皺を刻んだ結徒の様子に、暁は己の発言を振り返る。何かおかしなことを言ったつもりはないのだが、と不思議そうに首を傾げた。

「魚若と接触したのか、昨日」
「仕事上の付き合いで偶然一緒になったからな。あ、でもいとが言ってたから、流風には手を出してねぇぞ?」
「……つまり、それ以外には既に手を付けたってことか? ああ!?」
「人聞きの悪い言い方やめろって! スムーズに事が進むように、根回しするのは基本中の基本だろー?」
「んな基本聞いたこともねぇっつーの!」

 厄介事に首を突っ込んでいく暁に、振り回される結徒の苦労が垣間見える会話に、政葵は思わず噴き出した。

「不倫した夫を問い詰めてる妻的な会話だよな、アレ」
「ふふっ、そう聞こえてきますね」

 女性二人の笑い声に気まずくなったのか、結徒はけっと吐き捨てて顔をそむけた。
 困った奴だとでも言いたそうに笑う暁はひょいと肩を軽くすくめ、くるりと少女の方へと向き直った。

「なあ、時間があるならちょっと聞いても良いか?」
「答えられる範囲であれば、どうぞ」

 その言葉に興味をひかれたのか、結徒と政葵が身じろぎしたのが分かる。
 掴みは上々とでも言うかのように、暁は緩やかに笑みを浮かべながら少女を見つめる。アイコンタクトを受けた少女は、困ったように微笑んだ。
「交渉事は神さま? に直接した方がいいんだろ?」
「ええ。私は選出者であって、ただの中継ぎでしかありません。希望があれば、これより転移させた先にいる神に直接お申し付けください」
「条件提示して選択の余地を与えてくれてる時点で、それなりに話が通じる神さんだと思ってもいいんだよな?」
「神さん……。まあ、話は通じる方であると思います」

 お前、軽すぎといつの間にか近付いていた結徒が暁をどつく。大袈裟に痛いと笑う暁を雑に扱う様子に、きょとんと眼を丸くした少女を静かに見下ろす。

「願いをなんでも一つだけ、ってやつ。あれ嘘じゃねぇよな?」
「世界征服や億万長者と言ったものは事象介入になるので難しいですが、大概のことは叶えて下さいます。達成報酬となりますので、それまでに内容を一つ決めて頂ければと」
「本当だろうな?」
「私の回を含め、過去数回に渡って転移させています。その度に各々の願いは確実に叶えられてきました。約束を違えることはありません」
「確約されてるなら、それでいい」

 結徒が知りたかったのはその一点だけだ。その一点だけが確実であれば、非現実に再び身を投じる覚悟が出来る。達成できないことはないと、背中押されているのだから、あとはつかみ取るだけだ。
 背後でニヤニヤと笑みを浮かべている暁は、腹が立ったので報復することにした。

 ヘッドロックを掛ける結徒を横目に流し、政葵は頬杖をついて少女を見つめた。
 記憶にある流風の妹の面影をそのままに、白いワンピースをふわりと揺らして暁と結徒のじゃれ合いを困ったように見つめる少女。どこか浮世離れした存在感に、堅苦しい言葉遣い。
 ちぐはぐな印象を受ける少女に、率直に尋ねてみる。今度は、話してくれるだろうか。

「なーんか、風華ちゃんじゃねェっぽいよな……他人行儀な話し方されてるっつーのもあるとは思うけどさ」
「選出者着任にあたり禊を致しましたので、恐らく貴方がご存じの方とは既に異なる存在と思って頂いて構いません」
「ふーん。これ、流風に伝えてもいい内容?」
「御随意に」

 どこかでやっぱり、と思う自分がいたことに安心する。流風程ではないが気にはなっていたのだ。
 少女がどういった存在なのか。自分はどう接すればいいのか。
 少なくとも、風華ではない。それが分かれば政葵にとっては十分だった。

「ま、戻ってからの話になるか」

 アイツ来ねェだろうし。そう呟いたそんな時だった。
 前触れもなく、がらりと扉が開く。
 驚きのあまり動きが止まった四対の瞳が入口へと向かう。

「……流風?」

 堪えたような顔をした流風が、扉を開けていた。
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