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「ARUTOYU_MA」
第一章 白き乙女

25 良き旅になりますように

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「うん? 何かあったか?」
「超個人的なこと。便所でも済ませて待ってろ」
「お、お前口悪いな……」
「いと、お前も大概だからな? ……席外した方が良いか?」
「離れてればそれでいいわ。流風、とアンタもこっちだ」

 気を利かせて指導室の端っこへと身を寄せた三人は、暁を中心にして何やら別の話題にしているらしい。話し声をあまり耳にしないようにしてくれているのだろう。その配慮をありがたく思いつつ、強張った表情の流風の腕を引き、少女と三人で顔を寄せ合う。

「先に流風のもやもやを解消しようと思ってな。さくっと話してくれるか?」
「どういうこと?」

 流風が訝し気に政葵を見るが、政葵は少女へ視線を促すだけで答えない。
 少女が困ったように微笑みながら、先ほど政葵へと伝えた言葉を繰り返す。

「私は選出者着任にあたり、禊を致しました。貴方の仰る方と姿は似ているでしょうが、生前の記憶はほとんど所持しておりません」
「……えっ」

 小さく息をのんだ流風に、ちゃんと話を聞けと政葵が小突く。戸惑いを隠せない様子の流風だが、顔を突き合わせて話しているものだから、そむけることもできない。眉を下げて困り果てた様子でも、少女の声を大人しく聞いていた。

「私の記憶は、トゥリアへと転移したところが一番古い記憶です。トゥリアの危機を救った望みで選出者となることを望んだこと。血縁の者が後悔していたら、救う手立てとして選出しても良いか、神にお伺いをたてていたこと。大まかにその辺りのことをぼんやりと覚えているくらいです」
「ぼんやりと、でも覚えてるの? 俺が君の血縁者だってこと」
「いいえ、世界の事象記録を読み取ったので判ると言った程度です」

 あからさまに肩を落とす流風の様子を見て、政葵は大きくため息をついた。

「なあ、流風。この子はやっぱり別人なんだよ。姿はそっくりだけど、オレらが知ってる風華ちゃんはいないんだ」
「……そんな」
「願いも死者蘇生は駄目だって言ってた。……そろそろ蹴りを付けろよ、流風。付けられなくたって、ふん切れ。いい加減女々しいぞ」

 まるで捨てないでって縋るヒモ野郎みたいだ。
 政葵はあえてキツい言葉を選んで流風に投げつけた。一番近くでトラウマ刺激に振り回されているのは政葵だ。それを迷惑だとは、幼馴染だと言うのも含めてそこまで感じてはない。
 ただ、いつまで経っても流風が風華に囚われているような気がして、このままではいけないのではないかと思っているのだ。どうすればいいのかは分からない。
 少女から……風華の姿をしている彼女から直接言ってもらえば、多少は聞き入れてくれるのではないか。多少は克服できるのではないか。
 そう言った思いもあって、少女へと望みをかけた視線を向けてしまう。
 その思いを理解しているのかしていないのか、少女は尚も困った表情で首を傾げた。

「トゥリアで、私の足跡を辿ってみてはいかがでしょう?」
「え?」
「私、と言うと語弊がありますね。彼女、と称します。おそらく、彼女が選出者になると決めたのは異世界での出来事があったからでしょう。年数はそんなに経っていないはず。まだ足取りをたどることは可能でしょう」

 突き放した言い方をした政葵も、流風同様何を言っているのだろうと、目を丸くして顔を見合わせた。
 少女の言い方からすれば、世界を救うがてら風華の旅路を辿れと言っているように思える。踏ん切りは、今無理やりつけなくてもいいのではと、そう言っているように聞こえた。

「彼女に固執するのであれば、世界を救う傍らで、彼女の想いを探す旅をすればよいのではないでしょうか?」
「ははァ、サブクエだな」
「政葵」
「似たようなモンだろ」

 流風が窘めるように名前を呼んだが、政葵はしれっと聞き流した。視線を逸らした政葵は気付かないが、そのやりとりを見守っていた少女は、流風の思いつめたような表情が和らいだのが分かった。
 大丈夫か、と窺うように流風を見ると、少女と似た困ったような微笑みを返された。

「俺だって、後悔するのは、もうごめんなんだ」

 だから、後悔しないように動きたい。
 小さく囁かれたそれは、政葵と少女にしか聞こえなかったけれど、それだけで十分だった。
 政葵は小さく苦笑した後、大きく伸びをしながら距離を置いてくれていた三人へと聞こえるように声を出した。

「終わり終わり。ダメだこーゆーの、オレの柄じゃねェわ」
「お、そっちの会議は終わったかー?」
「会議でもなんでもねェよ」
「ちょっ、政葵。相手は一応先輩なんだから」
「大丈夫だ問題ない、とっくに許可済みだし」
「え?」
「そうそう、ついでにこっちで全員ファーストネーム呼び捨て統一にしようって決めたぞ?」
「敬語も抜きで頼むぜ? いやーオレにすりゃあ滅茶苦茶気楽になって超助かるわー」
「政葵の順応早すぎて超ウケるわー」

 すっかり暁と馴染んでいる政葵の様子に、流風は面食らって結徒へと視線を向ける。黙って首を横に振られた。もう手遅れらしい。
 思わず天を仰いでしまいかけたが、ふわりと、重力を感じさせない軽やかさで、少女が流風たちから距離を取った。暁たち三人と流風ら二人から三角形を作るような位置で、それぞれを見つめる。

「暁、流風、友喜、結徒、政葵」

 少女はゆっくりと五人の顔を見渡した。

「あなた方五人は、異世界へと行くことに異論はありませんね?」

 意思のある瞳を真っすぐに向けられ、軽く頷かれる。五人全員の意志が確認できると、少女は静かに頷き返した。

「これより、転移を始めます」

 中央に集まり寄ってくれと言われ、暁を中心に少しずつ距離を詰めて固まる。
 少女はゆっくりと深呼吸をして、緩やかに腕を上げる。掌を上に、胸元の高さで軽く開き、このまま指揮でも振るのだろうかと思えるくらいの力の抜き具合で。

【レウン=リィ=カーシ ティータ=セルア】

 少女の手中に光が集まり始める。
 言葉の呪に似たような不思議な響きであり、それでありながら異なる鈴のような響きを持って空間に染みわたる。

【アン=グイス ウォン=ジェイラ】

 手中の光が溢れ、床へと伝い落ちる。それは意思を持つかのように床へと一定の規則性を持って滑り這う。その軌跡は大きな魔法陣となり、五人の足元を青白い光で照らしだした。驚いたような、戸惑ったような声があがる。
 そんな様子を少女は微笑ましそうに見つめ、にこりと笑った。

【トゥ=リア】

 行ってらっしゃい。
 そんな響きが含まれていたように感じて、五人分の視線が少女の方へと集まった。
 次の瞬間。

「っえ?」

 ぱかり、と足場が消えた。

「う、うわああああああああああ!?」

 訪れる浮遊感。風を切る感触。まきあがる長い髪が頬を叩き、捕まる場所を求めて伸ばした手は宙を掴む。
 肺の中が空っぽになるくらいに叫んだ声は上へと吸い込まれ、少女が穏やかに微笑みながら手を振っているのが小さく見えた。

「良き旅になりますように」

 その言葉はもう届きはしないだろうけれど。
 小さな願いを込めた言葉を最後に、少女はふわりと姿を消した。同時に、ぽっかりと開いていた穴が消える。進路指導室に、再びの静寂が訪れた、

 こうして、彼らは異世界へと向かったのだった。

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