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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

07 ようこそ【不思議の国】号へ

 ←06 海賊たちの配役 →08 わたしはだぁれ?

「さて、お嬢さん。これから我らがクイーンの下へとお連れ致しますが、くれぐれも粗相のないよう、お願いいたしますね?」
「は、はい」

 暗い船内の長い廊下を真っ直ぐに進む。
 所々に明かりはあるけど、足元もちゃんと見えるけど、恐いな。
 ぶるりと、身震いした身体をぎゅっと抱き締めた。

 左手に握ったままの指輪を胸元に寄せて、どうかこれは悪い夢でありますように、と祈る。
 不思議の国のアリスみたいに、夢オチで、目が覚めたら桜の木の根元にいた、みたいなそんなことを願った。

 指輪を追いかけたら穴に落ちて、穴の終わりには海が広がって、不思議な力で海賊船に救われて………。
 これだけでも、ありえないの連続。これ以上は勘弁して欲しい。

 ふと、前を歩いていた自称イカレ帽子屋さんが止まった。

「クイーン、私です。よろしいでしょうか?」

 軽くノックをして、わたしをちらりと見る。
 冷たく見下すような碧眼。
 その目が恐くてびくりとしたわたしに、また笑いかける。

「入れ」
「失礼致します。さぁ、どうぞ」

 キィと、音を立てて開いた扉を押さえた自称イカレ帽子屋さんは、わたしに先に入るよう促してくる。
 こんなレディファースト、あんまり嬉しくはないんだけど……。
 一つ大きく息を吸って、わたしはゆっくり船室へと足を踏み入れた。

 床に敷かれた絨毯は重厚な赤。薔薇の花が刻まれたアンティーク家具の数々。扉の真正面に置かれた大きな机とソファー。
 その奥に、クイーンと呼ばれたその人は居た。

「えっ?」
「何だ、女」

 立派な執務机に大きな座り心地がよさそうな椅子。
 そこに座る人がクイーンこと船長さんのはず……なんだけど。

 自称イカレ帽子屋さんと同じ薄い金髪で、肩口で切りそろえられた毛先が緩くウェーブしている。すっと通った鼻筋に、切れ長の青い瞳。背はきっと高い方だと思う。歳はそう、三十代から四十代くらい?
 そんなクイーンさんは、どこからどうみても……

「お、とこのひと?」
「……悪いか」

 眉間に深い皺を刻んで、低い声で呟く。こんな低い声、女の人には絶対出せない。
 でも、クイーンって、女の人の、女王様につける名前じゃないの?

 不思議に思って自称イカレ帽子屋さんを振り返る。
 自称イカレ帽子屋さんはただ薄っすらと笑うだけだった。
 聞いちゃダメなことって、ことかな?

「大体のことはヤマネから聞いた。で、女」
「は、はい」
「お前はどこから来た?」

 頬杖をついて、気だるそうに聞いてくるクイーンさん。
 それでも、その目は痛いくらいに鋭くわたしを射抜いてくる。

 嘘なんかつけない。
 でも、本当のことは絶対信じてくれない。
 どうしよう……。

「えっと、空から、落ちてました」
「何故?」
「な、何故って……その……」
「お前の住処は空なのか?」

 ご、誤魔化せないです、痛いですその視線。あと、厳しいくらいに突っ込んでくる問いかけが。
 ひるんだわたしは、恐る恐るクイーンさんを見上げた。

「あの、住んでる場所は、日本、です」
「ニホン?」
「は、はい。あの、アジアの小さな島国です……。それで、ここってどの辺りなのでしょうか?」

 怪訝そうに片眉が上がったクイーンさんに、勇気を振り絞って聞いてみた。

「マッド」

 その一言だけで、何が言いたいのかわかっているようで、自称イカレ帽子屋さんは大きな机に大きな紙を広げた。

 地図、なのかな?
 少し紙が黄ばんでて、厚めだけど。

「ニホンとは、アジアとはどこを指しているのでしょうか?」
「どこって……」

 何を当たり前の事聞いてくるんだろうって。
 見れば分かるじゃんって、不思議そうに自称イカレ帽子屋さんを見て、地図を見て……。

「何、これ……」
「見て分かりませんか? 地図ですよ」
「……こんな地図、知らない」

 見慣れた世界地図じゃない。
 アジアだけじゃない、ヨーロッパもアメリカもアフリカも、どこも、何も、全然知らない見覚えもない、そんな地形が地図に描かれていた。

「日本も、アメリカも、中国も、どこも、ない……!?」

 つぅと、嫌な汗が頬を伝った。

 知らない場所、知らない地図。
 お願い誰か教えて。
 どうすればこの夢から目覚められるの?

「言いたいことはそれだけか、女」

 機械的に顔を向けた。
 きっと今のわたしの顔には、絶望って書いてあるんだと思う。

 どうしよう、どうすればいいんだろう。

「……ここは、どこ?」

 意識を失えるようなか弱い精神じゃないのが残念でならない。
 もしここで意識を失えれば、目が覚めたらベッドの中で、またいつも通り学校に行って、くだらない話して、何事もなくただの夢だったって笑い飛ばせるのに!

 願っても願っても、クイーンさんも、自称イカレ帽子屋さんも消えてくれやしない。
 感情が吹っ飛びすぎて、涙さえ流れない。

「お嬢さん?」

 心にぽっかり穴が開いたような、身体を支配するのは虚無感。
 虚ろな瞳に映る自称イカレ帽子屋さんが、どんな顔をしているのかさえ見えなかった。

「マッド、入れ置け。見張りは……チェシャ猫で構わないだろう」
「……ご随意に。お嬢さん、歩けますか?」
「……ここは、どこ?」

 ぼんやりと、口にできたのは、自称イカレ帽子屋さんの問い掛けに関する答えじゃなかった。
 ただただ、ここはどこなのか、そればかりが頭の中に残っていた。

「……一つだけ、答えてやろう」

 ゆっくりと、振り返る。
 低い声で、頬杖を外したクイーンさんはわたしを真っ直ぐ見射る。

「ここは、この船は【不思議の国】号。何も知らない子どもが乗るような船じゃない」
「不思議の国……」



 アリスは言葉を話す奇妙なうさぎを追いかけて、穴の中へと飛び込みました。

 ウサギ穴の底には扉があって、その扉を開いた先は、



 【不思議の国】だったのです。



「【不思議の国】号。立派な海賊船だ」

 あぁ、神様。
 どうか教えて。

 アリスはどうしてあんなにも無邪気に不思議の国に行けたのでしょうか……!



ようこそ【不思議の国】号へ
(わたしがたどり着いたのは)
(不思議の国と言う名の)
(海賊船だったなんて)

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