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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

11 歓迎しよう、未来の【主人公】

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 再びあの暗い船内の長い廊下を真っ直ぐに進む。
 あんなに恐いと思っていた船内も、落ち着いた二回目ともなればそうでもないかも。

 ちゃんと見てみれば、白い壁にはちゃんと灯りが灯っているし、所々高級さを醸し出す装丁がされていた。
 海賊船っていうよりは、もう少し明るければ豪華客船って言ってもいいんじゃないかなとか思える。

「珍しいですか?」
「あ、はい。じゃない、いいえ!」
「いえ、正直に仰ってくださって構いませんよ」

 きょろきょろとしていたわたしは、慌てて返した言葉に赤面した。
 何言ってんだろ、って自分でも思う。

「えっと、豪華客船みたいだなぁと」
「海賊船には見えませんか?」
「船内だけだったら、見えないです」

 さすがに、海賊旗みたからなんとも言えないけれど。
 そうぽつりと付け足した言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか分からないけど、自称イカレ帽子屋さんがくすくすと笑っていた。

「それは、光栄な感想です」

 豪華客船みたいと言われて光栄だって言ったのか、わたしの呟きに対して言ったのかは分からない。
 この人は何を考えているんだろうって、思った。

 こちらですよ、とさっきは見えなかった扉の前で足を止めた。

「クイーン、私です。お連れいたしました」

 軽くノックをして、ちらりと私のほうを見た。
 さっきとは違うけど、それでもどこか探るような視線。
 さりげなく、胸ポケットを押さえた。

「入れ」
「失礼致します。さぁ、どうぞ」

 キィと、音を立てて開いた扉を押さえた自称イカレ帽子屋さんは、やっぱりわたしに先に入るよう促してくる。
 すっと息を吸って、できるだけ真っ直ぐ前を見て、わたしはゆっくり船室へと足を踏み入れた。

 さっきと全く変わらない部屋。
 同じ場所で、クイーンはキセルを片手に煙を吐き出していた。

「……面構えが変わったな」
「少しは、落ち着いたので。さっきは、取り乱したりしてすみませんでした」
「……構わない」

 カタンと、キセルを灰皿みたいな場所に置いて、真っ直ぐ射抜くような視線を向けてくる。
 びくりとすくみあがるような視線だけど、向けられた視線を真っ直ぐに受け止めた。

 ……ん?

「あれ?」

 じっと見ていて、ふと思った。

 扉を閉めていた自称イカレ帽子屋さんを見る。
 それから、ゆっくりクイーンさんを見る。
 また、自称イカレ帽子屋さんを見る。

 ……そっくり?

「あぁ、兄弟なんです。私とクイーンは」
「兄弟ですか!?」
「それがどうした?」
「いや、妙に似ているなって思っていたので、ちょっとビックリしました」

 何が言いたいのか汲み取ってくれた自称イカレ帽子屋さんは、優しく微笑んでいる。
 対照的に、眉間に皺を寄せたままのクイーンさんは不機嫌そうだ。

 それでも、髪の長さと歳による顔の造形の変化を除けばそっくり。
 自称イカレ帽子屋さんの髪を短くした未来想像図がクイーンさんで、クイーンさんの髪を長くして若返らせたら自称イカレ帽子屋さん。

 雰囲気はやっぱり違うけど、それくらいそっくりだった。

「そんなことはどうでもいい。話を戻すぞ」
「す、みません」

 イライラとしたように頬杖をついたクイーンさんは、ちょっと恐かった。

「それで、お前はどこから来た?」

 さっきと、同じ質問。
 胸ポケットにある指輪の存在を確認しながら、わたしはゆっくりと答えた。

「わたしは、別の世界から来たようです」

 片眉をぴんとはねて、切れ長の瞳をさらに細くしながらクイーンさんはどういうことだ? と低い声で問いかけてきた。
 わたしもよく分かってないから、うまく説明できる自信なんか無いけど。
 それでも、言った。

「確証はないですけど、頭おかしいんじゃないかと思われるかもしれないですけど、さっき見せてもらった地図はわたしが知っている地図とは違います」
「別の地図だと言うことか?」
「はい、いや、たぶん違う……かもしれません。だって、見たことない地形をしているんです」

 日本どころか、ユーラシア大陸とかアメリカ大陸とか、そんなものですらなかった。

 自分を納得させるためにも、ゆっくりと。
 理論的じゃなくてもいいから、違うと思ったことを全部言おう。
 そう思った。

「それから、わたしがいた場所に海賊なんかいません。海賊は、昔いたか、他の国にいるのかもしれないとしか、聞いたことないです」
「……続けろ」
「あとは、こんなに流暢に会話なんか普通はできないはず、です」

 自称イカレ帽子屋さんもクイーンさんも、外人さんっぽいのに普通に日本語が通じるんだもん。
 ひたすら勉強したって言ったらそこまでだけど、これこそファンタジーだって言える原因の一つなんじゃないかなって、思う。

「それは、どういう意味ですか?」
「えっと、わたしはわたしの母国語、日本語を話しているつもりなんです。お二人とも、日本語、知らないですよね?」
「何を言っているのか、分かりません。私もあなたも、共通言語を話しているだけでしょう?」
「共通言語って、何ですか?」

 英語みたいなものなのかな?
 広く知られている、通じる可能性が高い言葉みたいな。

 聞き返したわたしに、自称イカレ帽子屋さんは絶句したようで唖然としている。

 そんなおかしいこと言ったつもりは……言ったみたいです、スミマセン。
 異世界甘く見てました。

「あの……」
「馬鹿にしているのか?」
「だから、頭おかしいんじゃないかって思われるかもって、前置きしたじゃないですか」
「あぁ、今の内容だけだと、ただのイカレた女で終わりだろうな」

 だが、違うのだろう?
 と、そう聞かれたような気がした。

 ぎゅっと指輪を握るように、胸ポケットを押さえた。

「お前はどうして空を落ちていた?」
「今までの話、信じているんですか?」
「答えはノーだ。だが、お前が落ちていたと言うのは事実らしい」

 それは……それが一番言いにくいんだけど。

「……穴に」
「穴?」

 ぴくり、と。
 クイーンさんが肩を震わせた。

「大きな桜の木の、根元にあった大きな穴に、落ちて……それから」

 がたんと、クイーンさんが乱暴に立ち上がった。
 な、何?

「な、んですか?」
「何をっ」
「っ!?」

 びっくりして一歩後ずさったら、がしっと自称イカレ帽子屋さんに肩をつかまれた。
 さっきまでの優雅さとか、フェミニスト精神とか、そんなのが全部ふっとんだくらい。

 恐いって、思った。
 碧眼の瞳が、恐かった。

「何を、追いかけたのですか?」
「何って……」

 どうして追いかけたって分かるの?

 クイーンさんに助けを求めようとしたけど、それも無意味だった。
 クイーンさんも、同じ目で、同じ色でわたしを見ていた。

「ゆ、びわ……」
「ゆび、わ? ウサギではなくて?」

 一体何を言っているんだろう。
 どうしてわたしがウサギを追いかけなくちゃいけないの?

 これじゃあまるで……

「アリスだと、思ったの……?」
「!?」
「時計ウサギを、追いかけたと、そう、思ったの……?」
「あ、なたは……っ」

 目を丸くして、わたしを凝視した。
 碧い瞳にハの字に眉を下げたわたしが映っているのが見える。

 こんなに近くに居るのに、わたしは振り払うことすらできない。
 ぎゅっと、肩を強くつかまれて痛さに顔をしかめた。

「貴女は、何者なのです?」

 それはわたしの言葉だ。

 わたしは、一体誰?
 どうしてここにいるの?

「……マッド。離せ」
「……しかし」
「離してやれ。聞こえなかったか?」
「……申し訳ありません」

 強張った指をぎこちなくわたしの肩から外した。

 痛い。
 肩が軋むように、痛い。
 制服の上からそっと肩を撫でた。

「……おい、女」

 低い声に呼ばれて、そっと顔を上げる。
 疲れたように椅子に座り込んだクイーンさんが大きくため息をつく。

「……来い」

 少し悩んだ後、ゆっくりとクイーンさんの下へ近付いた。
 大きな執務机越しに止まる。

「指輪を追った、と言ったな」

 こくりと、頷く。

「見せてみろ」
「……見るだけですよね?」
「……分かった、奪ったりしない。かのルイス・キャロルに誓おう」

 軽く両手を挙げて、変な誓われ方された。
 大切に大切にしていた指輪を胸ポケットから取り出して、軽く指にはめるようにして目の前に掲げた。
 不思議の国のアリスをモチーフにした、不思議な不思議な指輪。

 じいっと指輪を凝視していたクイーンは、逆側もだ、と一周を見せるよう促してくる。

「アリス、チェシャ猫、帽子屋、三月ウサギ、ヤマネ、ハートの女王、時計ウサギで一周、か」
「『不思議の国のアリス』をモチーフにされた指輪みたいなんです」
「どこで見つけた?」

 何か考え込むようにしていたクイーンは、尚も指輪を見たままそう言った。

「……たまたま開いてた、シルバーアクセの露店で」
「何故、そんなところに……」
「でも、これ。まだお金支払ってないので」
「その必要はない」
「は?」

 何を言っているんだろうこの人は。
 どこの世界も、代価を支払わないと品物が手に入らない仕組みは同じなんじゃないかな。

 海賊の船長だから、そんなことは関係ないとでもいいたいの?

「……それは盗難品だ」
「はぁっ!?」

 言ってる意味が分からないのですが!?
 だって、それはわたしがもといた世界にあったもので、それを盗難品だとか、こっちの世界の人が言えるべきことじゃないんじゃないの?

 混乱したわたしをよそに、クイーンは唖然とした様子の自称イカレ帽子屋さんに声をかけた。

「マッド」
「っ、はい」
「六時のお茶会の準備だ」
「かしこまりました」

 どういうこと?

 目を丸くして、この状況についていけないわたしに、クイーンは綺麗な弧を口元に浮かべた。

「歓迎しよう、未来の【主人公】
 【不思議の国】号へようこそ」



わたしはだぁれ?
(名前は幸?)
(それとも、アリス?)
(応えてくれる声は、ない)

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