FC2ブログ

「Hazel amd Gray」
紫色の娘

06 再来

 ←05 恋煩い →07 夢中

 机に向かっても作業はできなくて……。
 保存庫を開いても食べたいと思えなくて……。

 私はおかしくなってしまったのかしら……?

 何もやる気が起きなくて、立ち上がると自然と足は窓辺に向かうの。
 外の世界と繋がっている唯一の場所。魔女のお母さまと、あの方と繋がれる、ただ一つの場所。

 窓辺に座って、ゆっくりと髪を梳かす。
 魔女のお母さまと同じ色の髪が、さらさらと櫛からこぼれた。

 これも、嘘。
 魔女のお母さまと同じ色ではないの。似ているけど、魔女のお母さまの髪はもっと綺麗なお日さま色。
 私のは、くすんだ麦色。
 少しでも魔女のお母さまと同じでいたくて、魔女のお母さまの娘でありたくて、同じ色と嘘を吐いた。

「こんなところで何をやっている?」
「!?」

 きゅうと、胸が締め付けられるように悲鳴を上げた。

 魔女のお母さまと同じ言葉を、魔女のお母さまとは違う声で仰るのは……
 王子さまの格好をした、赤い髪で金色の瞳の……貴方。

「おい、何で逃げるんだよ」

 ドキドキとうるさい胸を押さえて、もう一度会いたいと、二度と会いたくないと願った貴方から精一杯逃げ出してしまった。
 ドキドキがとまらなくて、まともに貴方の姿さえ見れないわ。

 逃げても私のお部屋じゃ逃げ場所が見つからないし、貴方の声は嫌でも胸を締め付けてくるの。

「……そう言うことするなら俺は帰るぞ? 俺だって暇じゃない」
「!」

 お帰りになられてしまうの?
 せっかくいらして下さったのに、この場所に、私のもとを訪れて下さったのに?

 悲しくて、ドキドキとうるさかった胸が痛んだ。

 言葉通りに窓枠に足を掛けた貴方の姿を見て、慌てて駆け寄った。
 お帰りになってほしくない一心で伸ばした右手で、ぎゅうとせめて裾でもいいから掴んでお止めしたかった。
 まだここにいてくださいと、そう伝えたくて。

「お前は本当に馬鹿だ」

 伸ばした右手は貴方の大きな手に捕まれて、私ごと引き寄せられた。
 貴方に、ぎゅうと抱き締められる。

「始めから素直になればいいものを。わざわざ窓辺ここで髪を梳かしていたのも、俺を待っていたからだろう?」

 違うか? と間近で問われて、どうしてこの人に分かってしまうんだろうって、恥ずかしくて俯いた。
 顔が熱くて、触れている部分がどこもかしこも熱くて、今すぐ離れてしまいたい。

 でも、離れたく、ない。

「答えろ」

 ぐいと顔を上げさせられる。
 真っすぐにぶつかった貴方の金色の瞳に溶けてしまいそうで、溶けてしまいたくて……。
 近くにある貴方のお顔に、この前のことを思い出してしまって、今すぐ溶けて消えてしまいたいと思った。

「その顔、誘ってるのか?」

 ニヤリと笑って、ぐっと顔を近寄せられる。
 吐息が頬をくすぐって、恥ずかしくて目を伏せた。

「俺の質問に答えたら、だ。答えろ、俺を待っていたんだろ?」

 ぎゅっと目を瞑って、貴方の大きな手とその熱いほどの熱を感じながら、私は小さく頷いた。

 かたかたと震えてしまうのはどうして?
 怖いから?
 ううん、怖くはないわ。
 ……なら、どうして?

「上等」

 くっくっと喉で笑った貴方の吐息は熱くて、それに負けないような熱を帯びたものが、私の唇を覆った。

 忘れようとしても何度も思い出される感触に、あらがうことすらできなくて……貴方の口付けを何度も受けとめた。
 熱くて嬉しくて恥ずかしくて、おさまったはずのドキドキが身体中を駆け巡った。

「お前は俺だけを想ってればいい。他の何も考えるな」

 そんなの、今更だわ。
 貴方がいらしてから、ずっと貴方のことで頭がいっぱいで、お仕事にも手がつかなかったんですもの。

 ぐうぅ―…

「!」

 ……それこそ、食べることも。
関連記事
スポンサーサイト





総もくじ 3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ 3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ 3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ 3kaku_s_L.png 零れ話
総もくじ  3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ  3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ  3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ  3kaku_s_L.png 零れ話
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言
  • 【05 恋煩い】へ
  • 【07 夢中】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【05 恋煩い】へ
  • 【07 夢中】へ