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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

14 自称イカレ帽子屋さん

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「ねぇ、大した人数じゃないって、この船には何人乗ってるの?」
「んー? 五人?」
「ごっ、五人!? 五人だけ!?」
「そ。何? そんなに驚くようなこと?」

 不思議そうに首を傾げられた。
 いやいやいやいや、もっとこう、こんなに大きな船ならもっと普通人いるものでしょ?
 漁船じゃあるまいし、たった五人で上手く機能するものな……んだろうね。

 もう、異世界だって思うと、なんでもありだとか思えてきちゃう。

「船長に、帽子屋。あとネズミとウサギと俺。あぁ、あんたを加えれば六人だった」
「へ、へぇー…」

 【不思議の国】号の船員は、みんな不思議の国の住人の名前が付いているみたい。
 と、すると、チェシャ猫が言うウサギはどっち?

「時計ウサギ? 三月ウサギ?」
「何が?」
「その、ウサギってひわっ!?」

 ぴたりと、チェシャ猫が急に立ち止まったから後ろを歩いていたわたしは思いっきり背中にぶつかった。
 い、痛い。

「ねぇ、あんた何者?」
「は?」
「何でそんなことが分かるの? それに、さっきちゃんと話すって言われてそのままなんだけど?」

 そう言えば、そんなことも言ったような気がする。
 振り返ったチェシャ猫を見上げた。

「気になるの?」
「そりゃあもう。久々の退屈しのぎにはなりそうだし」
「そうですか。いつもは暇だと、そう言うことでしょうか?」
「……帽子屋、なんであんたがここにいんの?」

 嫌そうに、首だけ動かしてチェシャ猫が振り返った。
 そこには相変わらず優美な笑顔を浮かべた、自称……っていうか、暦とした【不思議の国】号のイカレ帽子屋さんがいた。

「我らがクイーンが、きっとあなたに命令を下すだろうと。それくらい予想はできます」
「あっそ。じゃ、そこどいて。あんたの大好きな船長からの命令だし」
「お好きにどうぞ。ですが……」

 すっと、クイーンさんと同じ碧い瞳が細く光ったように見えた。

「《仮》とは言えアリス。丁重に扱いなさい、チェシャ」
「余計なことは知らなくていいってこと? はいはい。偽者アリスだったら感情移入はするな」
「チェシャ」

 鋭く抑えた声が、チェシャ猫の言葉を遮った。

「これも言うなって? ついうっかり口が滑ったことにしといてよ」

 やれやれとでも言うように、チェシャ猫はひょいと肩をすくめてイカレ帽子屋さんの脇を通り抜けた。

 後に続いたほうがいいのかな?
 ちょっと悩んだわたしが動けずにいると、ふっと、表情を優しくしたイカレ帽子屋さんがわたしを見た。

「アリス」
「……一応、《仮》ですけど」
「では、《仮》アリス」

 すっと、右手を優しく持ち上げられた。

「私はイカレ帽子屋。マッドとも帽子屋とも、お好きにお呼び下さい」
「紅茶狂いってわけでもないみたいなので、帽子屋さん、でも?」
「お好きにどうぞ。ただ、私が紅茶には目がないというのは本当ですよ?」

 冗談っぽく言うものだから、小さく笑ってしまった。
 そこはちゃんと忠実なんだって、ちょっと嬉しいとか思ったり。

 優しい雰囲気の帽子屋さんは、ふと、眉根を下げた。

「あの、何か?」
「……先ほどの非礼、申し訳ありませんでした」
「へ?」
「感情に身を任せて、貴女を怯えさせてしまいました。非礼を申し上げるには少々遅いことかと思いましたが、それでも」
「い、いえ気にしてませんから! そうお気になさらないで下さい」

 何の事を言っているのかはさっぱりわからないけど、とりあえずそんなに申し訳なさそうにされても困る。
 むしろこっちが悪いことをしたように思えてくるのですが。

 自由な左手でぶんぶんと否定すると、ふわりと、微笑を浮かべられた。
 見とれるような、綺麗な微笑。



「アリスの寛大な心に、最大級の感謝を」

「!?」



 手の甲に、お姫様にするようなキスを落とされた。

 なっ、なにこれっ!?
 手へのキスはもう挨拶代わりですか!?
 わたし生粋の日本生まれで日本育ちなので、慣れてないのですがっ!?

 妙に慌てだしたわたしは、オロオロと、視線を彷徨わせた。
 どっ、どうすればいいのかなっ、こういう時はっ!

「ねぇ、もういい?」

 妙に冷めたチェシャ猫の声に、苦笑してようやく手を離してくれた帽子屋さんから逃げるようにわたしはチェシャ猫の後ろに隠れた。

 わっ、わっ、わああああっ!
 ビックリしたビックリした!
 また熱くなった顔を押さえて、自分を落ち着かせようと深く息を吸った。

「おや、猫に懐かれていらっしゃるのですか?」
「さぁ? あんたよりましだって思われたんじゃない?」

「……ご気分を害したのでしたら、改めて謝罪を」
「いっ、いえっ! 大丈夫です!」

 え? もしかしてへこんだ?
 心なしか沈んだ声が聞こえたから、わたしは慌てて声をあげた。
 まぁ、相変わらずチェシャ猫の後ろで、だけど。

「……ねぇ、俺あんたの壁じゃないんだけど?」
「むっ、無理やだ今見られたくない」
「はぁ? 何言ってんの?」

 意味が分からないとでも言いたいようで、チェシャ猫はわたしを押しのけて先に進もうとする。

「待っ」

 絶対今顔赤いんだから、少しくらい察してくれてもいいのにっ!
 必死で顔を隠して、でも、小さく帽子屋さんに頭を下げて、わたしはチェシャ猫の後を追いかけた。
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