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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

16 彼女の独白

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 彼女は手元にある羊皮紙をじっと見つめていた。
 何度も何度も、そこに書かれた文字を追う。

「……期待するのに、疲れたのよ」

 重いため息と共に吐き出された言葉は、静かに空気に溶けていった。疲れたように腕を下ろした彼女は、そっとその手紙を机に置く。

 今度こそ、本物のアリスが訪れるかもしれない。

 そう書かれた内容に、何度期待し、何度疑っただろう。
 そして実際にその女と会って、何度失望したことか。
 今度こそ、今度こそと、期待しては失望させられるこの繰り返しに、彼女は疲れていた。

「……本物のアリスは、もうどこにもいないの」

 あなたも分かっているでしょう?

 アリスの面影を追い続けている彼に向かって、彼女はそう呟いた。
 彼にだけではない。
 同じように、本当にアリスが現れるのではないかと期待してしまう自分に向けても、そう言っているのだ。

 彼女と彼らが知っているアリスは、もうどこにもいない。
 それこそ、彼らがその目でしかと見たのだから、確かな事実としてそこに存在している。

「それでも、帰って来てほしい」

 そう願ってしまうのは、自分が不思議の国の狂った住人の肩書きを持っているからなのか。

「アリス」

 そう呟くことで、自分の罪の重さを実感するなんて。
 また、何も知らない少女に当たることで、このどうしようもない気持ちをなくそうとするなんて。


 無邪気な少女。

 何も知らない女の子。

 彼女は不思議の国に迷い込んでしまった、小さな子ども。

 狂った帽子屋と、絶対的権力を持つ赤の女王にもひるむことなく立ち向かった子。

 そこに、癇癪もちの公爵夫人も加わるの。
 それでもあなたは、きっと不思議そうに冒険を続けるのでしょうね。

 そういった存在なのだ。

 アリスといわれる人物は。

 そこらへんにいる女の子とは違う、誰かに守られることを望む少女ではないのだ。

 自分で切り開くことを望む少女なのだ。



 そんな愛すべき愚かな存在なのが、アリス。



「ゴ主人様、ゴ来客のようですギョ」

 そっと、引き出しの中に羊皮紙を滑り込ませると、召使の声に応えた。

「誰かしら?」
「見たことのない船ですギョ」
「そう、招待はしていない無礼者なの」

 また、彼女の持つ宝を狙ってやってきた愚かな船が来ているということか。

 琥珀色の瞳を静かに座らせて、彼女は告げた。

「沈めてしまいなさい」

 この宝は、本物のアリスに渡すべきものなのだから。
 他の誰にも渡すつもりはない。

 だから、早く現れてちょうだい、アリス。

 もう会うことのできないアリスに向かって、彼女はそう呟いた。
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