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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

21 双子とお着換え

 ←20 イカレた者同士 →22 【神子】

 長い廊下にある部屋を一部屋ずつ覗いて、帽子屋さんに言われた人物を捜す。

 ダムとディー。
 それがどんな人かは分からないけど、よく知られている卵形体型の双子のようにそっくりなのかもしれない。
 サカナとカエル以外の人を探せばいいわけだから、きっとすぐに分かると思う。

 でも、その間わたしもヤマネくんも一言も声を出さなかった。声をかけるタイミングが分からなくて、ずっとそのまま。
 逃げ出したのが悪いことのように思えて、わたしはどうしても話しかけられなかった。

「……聞いてもいいですか?」

 沈黙を破ったのは、ヤマネくんだった。

「怪我とか、大丈夫でした?」
「……どうして、敬語なの?」

 質問に答えなくちゃいけないと思って口を開いたのに、答えより先に疑問が口をでた。
 ヤマネくんはもっと気さくで、わたしに対して敬語は使わなかったのにどうして急に余所余所しくなるの?

「……僕は、アリスにだって馴れ馴れしく話してもいいような身分じゃないですから。本当は、こうして手を繋ぐのもいけない」
「離した方がよかった? ゴメン、迷惑だったよね」
「違うんです。そうじゃなくて、僕がアリスに気軽に触れてもいいような身分じゃないので」

 どうして急に身分にこだわりだしたんだろう?
 余所余所しい態度のヤマネくんに胸が痛んだ。
 それから思い浮かんだのは、公爵夫人の言葉。

『お黙り。貴方がわたくしに口をきいていいと許可した覚えはないわ』

 わたしには考えられないけど、ヤマネくんが急に身分がどうとか言い始めたのは公爵夫人にこう言われたからなんじゃないかな?
 身分制度ってものが、この世界にはあるのかもしれない。

「あのね、ヤマネくん」

 ぴたりと立ち止まって、ヤマネくんの手を引いた。

「わたし、この世界のこと知らないの。だからわたしには身分なんて関係ないよ」
「でも、アリスは【娘】で【主人公】ですから。あなたがどう思おうと尊い存在なんです」

 かたくなに首を振って、そっと、ヤマネくんがわたしから手を離した。
 拒絶されたんだと思う。本当はそれで放っておけばよかった。
 どうせわたしはこの後ヤマネくんたちに別れを告げるんだから。

 でも、そんなことできなかった。

「ヤマネくん、わたし言ったよね? 普通に話してくれたほうがいいな、って。そんな余所余所しい話し方は寂しいよ」
「……」
「手、つないでくれる?」

 エメラルド色した瞳を揺らしていたヤマネくんに、手を差し出す。
 男の子と手をつなぐのなんて幼稚園以来かもしれないけど、それでも不思議と恥ずかしいとは思わなかった。
 だって、今のヤマネくん迷子になった子どもみたいなんだもの。

 少しためらった後、ヤマネくんはオズオズとわたしの手をつかんでくれた。
 ぎゅっと握って、離れないようにヤマネくんの隣に並んだら、少し慌てたようにヤマネくんは歩き出した。

「ヤマネくん、歩くのちょっと早いよ……!?」
「ご、ごめん」

 少し落ち着かない様子のヤマネくんは、でも今のはアリスが悪いよとか、不意打ちなんて卑怯だとかなんとか言ってたけど、わたしが何をしたって言うんだろう?
 手をつなぐ以外に特別なことはしてないけど。

 それでも、ヤマネくんは余所余所しい態度をやめてくれたから、わたしの気持ちは伝わったんだと思う。

「えっと、じゃあ改めて聞くけど、怪我とかしてない? 大丈夫だった?」
「大丈夫。逃げたりして、ごめんなさい」
「君を守れたなら、僕はそれだけで嬉しいから」

 それに、ちゃんと逃げのびてくれててよかったよって、えくぼがくっきりと浮かぶ可愛い笑顔を向けてくれた。
 男の子に可愛いって形容詞使うのもちょっと複雑だけど、やっぱり可愛い。

「あの船の中で、僕が一番弱いから……悔しいけど、アリスには逃げてもらわないと守りきれないんだ」

 大見得切ったのに情けないよね、と言うヤマネくんに小さく首をふって答える以外に返す言葉はなかった。
 だって、ヤマネくんは慰めの言葉も気休めの言葉もいらないって言っているみたいで、余計なことは言わないほうがいいと思ったから。

 少し進んで次の部屋の部屋を開ける。
 でも、そこには誰もいない。

「またハズレだね」
「おかしいな……どこにいるんだろう、あの二人なら絶対衣裳部屋にいると思ったんだけど」
「あれ? ヤマネくんは知ってるの?」
「うん、あんまり好きじゃないけど。一応僕らの……」

 僕らの?
 急に口を閉ざしたヤマネくんは、口元に指を当ててわたしにも静かにするようにジェスチャーで伝えてきた。

 言われたとおりに静かにしていると、どこからか泣き声が聞こえてくるような気がする。
 それが妙に不気味で、ぞわりと鳥肌が立った。
 泣き声は、この部屋の続き部屋から聞こえてきているみたいで、布が挟まって半開きの扉からもれてきている。
 そろそろと警戒するように扉に近づくヤマネくんの後に続こうか悩んで、少し距離を開けて後を追うことにした。
 本当はすぐに逃げ出せるように入り口で待機してようかと思ったけど、思い出したんだ。

 ここが公爵夫人の館だってこと。
 いや、無理だから!
 あの奇妙なサカナとか気持ち悪いカエルとかが後ろに立っていたら、今度こそ絶対悲鳴をあげる変な自信がある!
 そっと、ヤマネくんが中の様子を窺った……かと思えば、今までの慎重さの欠片もなく堂々と扉を開けた。

「ダム、ディー! いつまで泣いているつもりなんですか!?」
「うあああああ、誰かと思えばうあああああん!!」
「ふえええええ、ヤマネじゃないかええええん!!」

 ヤマネくんを追って続き部屋に入ると、細身の男女が声をあげて号泣していた。
 ……訂正。おそらく細身の男女が鼻水たらして号泣していた。

「こんなの泣きたくもなるようあああああん!!」
「泣かないわけにはいかないじゃないかふえええええん!!」
「いったい何があったんです? あなた方らしくないじゃないですか」

 あきれたようにヤマネくんが言うけど、大人の、少なくとも帽子屋さんと同い年くらいの人が二人大声で泣いているって、相当のことじゃないかな?

 部屋に散らばった布を抱きかかえた多分男の人と、トルソー(服を着せ飾るマネキンみたいなもの)を抱きしめたきっと女の人は、ダークブラウンの髪を一つにくくって、似たような中世的な顔立ちをしていた。
 違うのは、男の人だと思われる方は眼鏡をかけていて、女の人は羨ましいほどの巨乳だったってこと。

「もっていかれたんだ、奪われたんだよおおおおっ!!」
「大切にしていた、アリス服をおおおおおおおおっ!!」
「アリス服を?」

 思わずと言った感じで、わたしとヤマネくんは顔を見合わせた。
 【地下の国】のアリスが着ていた服は、彼らから奪ったものなの?
 ヤマネくんはどこか半信半疑だったけど、わたしはどこか確信めいたものを感じてまだ泣き喚いている二人に聞いた。

「ねぇ、アリス服って、水色のエプロンドレスのこと?」
「そうなん……君は誰?」
「どうしてアリス服のことを知っているんだい?」

 ぴたりと泣くのをやめて、四つの深緑の瞳がわたしを映した。

「わたしは、【不思議の国】号の偽者アリス。さっき【地下の国】号のアリスに会ったから知ってたのよ」
「盗人に会っただって!?」
「それに、君はあの【不思議の国】号のアリスだって!?」
「待ちなよディー。彼女は自分で偽者って言ったよ」
「そりゃそうさ。本物のアリスなんかいないんだから」

 どうやら、巨乳の方がダムで眼鏡を掛けた方がディーみたい。
 交互に話して勝手に自己完結をした彼らに目を白黒させていると、ヤマネくんがわたしを軽く引っ張って自分の後ろに隠すように立ち位置を変わった。

「それでも、彼女は僕らのアリスですから。無礼な真似はやめてくださいよ」
「分かってるさ。それよりも悔しいじゃないか!!」
「あぁ、僕らのとっておきのアリス服を奪っていくなんて!!」
「報復だね、彼らに、盗人には報復を!」
「僕らの服を着こなせない人には制裁を!」

 鳴いたカラスが何とやら、って言うべきか、彼らは急に勇み燃え始めた。
 いやちょっと、意味が分からないんだけど。
 ヤマネくんが小さくため息をついた。

「アリス、紹介するよ。彼らはトゥイートル・ダムとトゥイートル・ディー。公爵夫人お抱えの仕立て屋だよ」
「私がダム。サイズの採寸とデザインは任せてください」
「僕がディー。パターンを起こして仕立てるのは任せください」

 二人が左右対称になるように華麗に礼をしてきたのは、間違いなく営業使用なんだと思う。さっきまで号泣していたり、報復だ制裁だとか言ってた人には思えない。

「それで、どんな御用だい?」
「公爵夫人にお目通りになったんだろう?」
「新しい服のご所要だったら」
「今すぐ採寸を」
「違います。僕らを【神子の間】に連れてってください」
「「えぇっ!?」」

 大きく目を見開いて、少し大げさにのけぞって驚いてみせた二人だったけど、気をとりなおしてぼそぼそと二人で相談し始めた。
 時々わたしの方をちらちらと見て、なんだか感じ悪いんだけど。

「いいよ。案内する」
「でもただじゃいやだな」
「対応にはそれ相応の対価がないと」
「僕らに見返りがないと」
「……何が望みですか?」

 ヤマネくんがさも嫌そうに言うと、ダムとディーはにんまりと満面の笑みを浮かべてわたしを指差した。

「「偽者アリスのお着替え」」

 ……それはちょっと予想外の答えだった。

 なんでわたし? それ以前にお着替えって、何?
 混乱するわたしを庇うようにヤマネくんが噛み付くようにダムさんとディーさんに向かって抗議しているけど、二人は涼しげな顔をしている。

「どうしてアリスをあなたたちのお遊びに付き合わせなくちゃならないんですか!?」
「どうしてもこうしてもないよ」
「僕らがそうしたいからさ」
「嫌なら嫌でもいいよ?」
「案内しないだけだから」

 にっこりと、意地の悪い笑顔を浮かべる二人にぐっとたじろぐヤマネくん。
 帽子屋さんからの指示に従わなくちゃだもんね。
 わたしたちだけじゃきっとその【神子の間】とか言う場所にいけないだろうから、二人の協力が必要だし……。

「それに、どうだい彼女の格好」
「土だらけで汚れてボロボロだ」
「普通の女の子なら」
「着替えたいと思うんじゃないかい?」

 そう言われて、自分の格好を見下ろして……たしかに、制服が汚いことになってる。
 クリーニングに出さなくちゃならないかも、とか思うと今までそんなに気にしなかった茶色くなった部分とかが無性に気になってくる。

「……えぇと、ヤマネくん」
「ダメだよアリス。絶対ダメ!」
「どうして? 着替えるだけでしょ? 少なくとも二人がそう望んでいるなら、わたしたちに拒否権はないはずよ」
「違うんだ! 二人が言っているのは」
「「交渉成立でよろしいですねお嬢様!」」

 どん、とヤマネくんを突き飛ばしながら、ダムさんとディーさんはわたしの手を握ってきた。
 お嬢様って……完全に営業仕様に変わってるんだけど。

「ちょっ、待って」
「男性はご遠慮願いますね!」
「さぁお嬢様お着替えをいたしましょうか!」

 満面の笑みでヤマネくんを部屋の外に追い出して、芝居がかったような仕草でたくさんの布やドレスが埋まった部屋の奥に引っ張られる。

 どうしよう、嫌な予感しかしないんだけど。

 それでも、引き返すにも断るにしても許されないような、妙な迫力を感じて何も言えない。
 目が爛々と光って、獲物を捕らえた肉食獣みたいな二人に捕らえられたまま、少し開けた空間に連れてこられた。

「さぁお嬢様、採寸をいたしましょうか!」
「は?」
「はーい身体を楽にしてくださいませね!」
「え? や、ちょっと」

 メジャーを持って怖いほどの笑顔で近寄ってくるダムさんと、様々な布のサンプルを持って眼鏡を輝かせたディーさん。
 何故か頬を高潮させて息が荒い二人に、逃げ出したくなった。

「大丈夫です、ちょっとあちらこちらの寸法を測るだけですから!」
「あぁ、髪が長いのでまとめさせていただきますね!」
「あぁ、お嬢様そんな怖がらなくてもいいんですよー?」
「それにしても綺麗な黒髪。手入れもちゃんとされているようですね」
「あの、いや、け、結構ですから。そんな採寸とか、ね?」

 本能的に身の危険を感じたわたしは、ダムさんとディーさんから少しでも離れようとそろそろと後ずさった。
 きょとんとした二人は、互いの顔を見合わせて……それからとってもいい笑顔を浮かべて……

「「逃がしませんよ?」」
「ひっ!?」

 がっしりとわたしの肩をつかんできた。
 つぅと、嫌な汗が背中を伝う。

「ディー、確保!」
「了解だよダム!」
「なっ!? って、ちょ、何!? やだやむぐっ!?」
「シャツいらないな……。邪魔だから脱がせますね!」
「あ、大声はあげないでくださいね!」
「むぐぅい――――っ!!」

 ディーさんに後ろからがっしりと動けないように羽交い絞めされたあげく、猿轡まで噛まされた。
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