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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

28 出撃準備

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 船に乗って分かったこと。
 波が大きいときに横にならない方が良いってこと。
 上下どころか左右にも揺れて、更に言えば大きい揺れで身体が跳ねて寝てるどころじゃない。
 何、この今までにない揺れは。

「はぐぅっ!?」

 がくん、と跳ねた揺れに危なく舌噛むとこだった。
 外で朝日が昇ってくるのが見える。そっか、もう朝になったのか……。
 わたしは水しぶきがあがる丸い窓から射し込む朝日に、目を細めた。
 結局一睡もしてない。
 揺れが酷くてまともに立ってなんかいられないから、着替えだってお風呂にだって入れてない。 何一つまともにできないくらい、速度を増して進む船の揺れは酷かった。
 ……今この時点で船酔いしてないのが奇跡だと思う。

「亀って、もっとゆっくりしてる、イメージなかったっけ……?」

 ぽんぽんと……揺れるというよりは跳ねるって言ったほうが正しいのかもしれないけど、そんな船に乗ることになるとか、半日前のわたしには考えられなかったな。
 だって、普通はこんなこと起こるはずないから。
 いつもと同じように家に帰って、いつもと同じように学校行って、怒ったり笑ったり頭抱えたり……変わらない日常が続くはずだったのに。
 それが今、海賊船と言われる【不思議の国】号に乗って、これから強奪行為をしようとしてるとか昨日のわたしに予想できたと思う?

「ふおっ!?」

 急にぐんと後ろに重心を持っていかれることもあるから、海がしけてるときとか注意しないとだよ、うん。
 まさか船と同じ大きさの偽ウミガメに引っ張られるだけで、跳ねるほどの揺れが起こるスピードで進む体験なんか、誰もしないと思うけど。
 激しい揺れに四苦八苦してると、トントン、と扉を叩く音がした。
 しぶきをあげるくぐもった波の音しか聞こえないこの部屋でも、ノックの音はちゃんと聞こえるんだなって、眠くて仕方ない頭ではどうでもいいことを思って返事が遅れた。

「……寝てんの?」
「あ、どうぞっ」

 控えめに掛けられた声に、慌てて返事をした。
 まともに立つことすらできないから、扉を開けることが出来ないなんて、情けないとは思うけど。

「なんだ、やっぱりおーあたり」

 扉を開けたのはニヤニヤと笑うチェシャだった。
 いや、いきなり大当たりとか何?

「とりあえず、おはよユキ。寝てないでしょ?」
「え」
「図星? やっぱ分かりやすいよね、あんた」

 思わず頬を押さえたわたしだったけど、カマかけられたって言うか、ただの当てずっぽうで言われただけだったんだ。
 そんなに隈目立つかな、って不安に思っちゃうじゃないか。
 こんなとき、自分の鞄があればよかったなって思う。
 元凶である指輪を見つけた露天で、荷物が多くて足元に置いてたから本当に何もないんだ。せめて携帯かポーチの一つでもあれば、って思うのは仕方ないよね。

「揺れ酷いから、寝れるはずないって分かってたけど」
「船に乗ったのだって初めてなんだから、仕方ない、でしょ」
「……その跳ねるの、見てる分には楽しいかも」
「わたしは全っ然、楽しくなんかないんだけど」

 入り口に寄りかかっているチェシャは、わたしが揺れに苦戦しているのをニヤニヤ笑って見ている。
 ニヤニヤ笑ってるのはいつものことなんだろうけど、馬鹿にされているみたいでイラっとする。イラッとって言うか、ムカつく。

「まぁ、ユキが面白いのは別に良いけど、さ」

 三白眼になりながらチェシャを睨みつけてたけど、チェシャは気にしてる様子なんかない。
 それどころか、わたしが座るだけでも四苦八苦している揺れに、チェシャはなんてことないようにすいすい歩いてくる。

「な、何?」
「どーせ寝られないんなら、一緒に来る?」
「は?」
「それとも、一人で対策練ってたかった?」

 わたしが一人で余計なこと考えていないように、気を使ってくれてるってこと? この、チェシャが?
 目の前でわたしをニヤニヤと見下ろしてくるチェシャを、ビックリして見返していると、ずいっと顔を近づけてくる。

「どっち?」
「……い、行く」

 近さにぎょっと身を引きながらの答えだったけど、それでもチェシャは満足そうに笑った。

 なんて。
 ごめん、数分前のわたしを恨んでもいいよね。
 何で勢い任せで頷いたんだ。もっと深く考えてから物事を判断しようか、って言いたくなる本当に。

「ねぇチェシャ。本当に、お願いだからおろして」
「だーめ」
「自分で歩くから、本当に全力でお願いするから下ろしてよねぇ!」

 子どものように駄々をこねながら、わたしはチェシャから精一杯離れようとあがいていた。
 それでもチェシャは離してくれないし、面白そうに喉で笑ってるし……。

 簡単に今の状況を説明すると、わたしはチェシャに、その、抱きかかえられている。
 世に言う“お姫様抱っこ”ってやつ。
 どれもこれも、すごい揺れでまともに立ってられないわたしが、行くとか言っちゃったことが悪いんだけど。

「大丈夫、覚悟してたよりは重くないし」
「ちょっと!」
「プティング食べても平気なんじゃない?」
「っ!?」

 だから、その、ただでさえ近い距離なのに、さらに顔近づけてくるのやめてほしいんだけど……! しかも、昨日の食堂でのこと引っ張ってくるし!
 精一杯チェシャから離れようとしても抱きかかえられている身としては全然離れられないし、チェシャは相変わらずニヤニヤ笑ってるしで……。わたしは赤い顔になっているのを自覚しながらただ睨み返すことしかできなかった。

「何それ? 抵抗のつもり?」
「……今できる些細な反抗」
「そ。俺全然なんともないんだけど」

 ニヤニヤと見下ろされる。
 アーモンド型の金色の瞳に、わたしの赤い顔が映ってるのが見える。

 何も言い返せない。
 本当は今すぐにでもその顔一発叩いてやりたいくらいなんだけど、このわたし一人じゃ立ってられない揺れで下ろされたくないから我慢。それに、広がらない仕様のスカートとは言え、裾がだんだん下がってくるからそっち抑えるのに必死だし。

「おや、これは丁度いいところに」

 とんと耳に響いたのは、帽子屋さんの心地良い声。
 こんなとこ見られるのも恥ずかしいんだけど……。
 わたしは思わず俯いた。

「アリスをお迎えに使わされたところでした」
「何、敵?」

 右に左に傾いているけれど、チェシャも帽子屋さんもなんてことのないように立ってるのはすごいな。揺れる方向が分かってるみたい。
 チェシャの腕に抱かれながらも、わたしの髪は右に左に揺れて跳ね返ってきているから、相変わらず自分では立てそうにないんだけど。

「えぇ。幸か不幸か、あちらからお迎えして頂けたようなので」
「うわ、嬉しくない出迎え」
「すぐに出撃準備をお願いします。先手を打ってしまいたいと、クイーンは仰ってますから」

 恥ずかしいとかそんなの関係なくなった。
 出撃だ。
 予想より早く【地下の国】号に追いついた。追いついた、と言うよりは待ち迎えられたのかもしれない。
 うまくできるかどうかなんか分からないけど、それでもやらなくちゃいけないんだ。
 あの子の涙を止めてあげるために。
 止めてあげたいから、わたしはやるんだ。

「行ける?」
「……行くよ。大丈夫、やる」
「ならいいけど」

 チェシャの声に、しっかりと返した。
 わたしは偽者のアリス。でも、あっちだって偽者のアリスだと公爵夫人は言っていた。
 本物にはなれなくても、この【不思議の国】号のアリスとして負けたくなんかない。負けられない。

 海賊だからなんだ。
 強奪だからなんだ。
 異世界だからなんだ。

 分からなくったっていい。
 戦わないで逃げたっていい。

 それであの子の涙が止まるなら。

 それがわたしを認めてくれた【不思議の国】号のためになるのなら。

「行こう」

 チェシャの目をしっかり見て、わたしは自分の意思で言い切った。
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