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「BLUE_LIGHT」
Episode.0 不思議の国のアリス

29 いざ【地下の国】号へ

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 チェシャに抱きかかえてもらったまま、わたしは甲板に出てクイーンさんと合流した。
 甲板の端の方は水しぶきでびちゃびちゃで、霧雨のような水しぶきは飛んでくるけど、まだましな中ほどの場所で下ろしてもらった。もちろん、ふらつきながらチェシャの腕にしがみついて立っている状態だけど。

「マッド、減速だ」
「かしこまりました」

 帽子屋さんがさっと腕を振るうと、それが偽ウミガメに伝わったみたいでゆっくりと速度が落ちる。揺れもそれと同時にそんなに酷くなくなって、さっきみたいに跳ねるなんてことはなくなった。
 ……それでも、まだふらついちゃうからチェシャの腕は放せなかったけど。

「……見えるか?」

 すっとクイーンさんが指し示した方を見ると、穏やかな海にぽつんと小さな影が落ちている。
 朝焼けの空に、黒いインクを落としたようなその船は、わたしが船長室で見せてもらった【地下の国】号だって分かった。細かいところまでは見えないけど、でも黒い戦体に施された白縁に、赤い薔薇装飾のマストだけはハッキリと見える。
 この【不思議の国】号と対照的な船は、朝焼けの空と白と青が入り混じった海に異様なほど浮き出ていた。

「【地下の国】号、ですよね」
「……誘い込むように待っているからな。招待を受けないわけにはいかないだろう?」
「うわ、船長久々にヤル気じゃない? 最悪」
「せいぜい巻き込まれないようにしてろ。お前もだ、アリス」

 ニヤリと挑発的な笑みを浮かべて、面白そうに鼻をならしたクイーンさんに、嫌な予感がしながらわたしは頷いた。
 チェシャが最悪って言うくらいだから、ろくなことにならないのは確定みたい。

「……全力で努力します」
「アリス、あまり無茶はなさらないでくださいね」
「帽子屋さん、それクイーンさんに一番言ってください」
「ふふっ、だそうですよクイーン」
「……言ってろ」

 だからなんだとでも言いたそうなクイーンさんはそれを一蹴した。
 クイーンさんがどれくらいの力を持ってるのかは分からないけど、それでも、わたしが巻き込まれないようにするには、クイーンさんに無茶されないのが一番なんじゃないかと思う。

「……怖気づきでもしたか?」

 異議ありとでも言いたいわたしの視線に、クイーンさんは明らかに見下したような目で馬鹿にしたように言ってくる。全然怖気づいてなんかいないとか言えないんだけど、噛み付くように言い返すのは違うような気がする。
 視線だけは逸らさないでクイーンさんを睨み返していると、ぽそっとチェシャが耳打ちしてきた。
 ……それ言ってもいいの?
 驚いてチェシャを見上げると、チェシャはニヤニヤしながら頷いてくれた。そんなチェシャに後押しされるように、わたしは船長を真っ直ぐ見た。




「船長が、守ってくれるんでしょう?」




 あなたがわたしをこの船のアリスと認めたんだから。
 その意味を込めて言うと、切れ長の碧眼を少し大きく見開いてわたしをまじまじと見つめてきた。
 それから、どこか楽しそうにニヤリと笑った。

「当然だろうが」

 当たり前のことを言わせてくれるなと、クイーンさん……ううん、船長はちゃんと言ってくれた。
 大丈夫だ、なんとかなる。なんとかしてみせる。
 その言葉が嬉しくて、私も船長に向かってニッと笑って見せた。船長みたいなカッコいい笑い方は出来ないけど、それでも自信あるように見えるかな。

「俺の言ったこと、間違ってなかったでしょ?」
「うん。ありがとうチェシャ」

 チェシャがひょいと肩をすくめながらそう言ってくるから、わたしは笑顔を浮かべたままチェシャを見上げた。
 さっきチェシャが言ってくれた言葉。

『俺らはユキを守るためにいるんだからさ。船長にも言ってやりなよ』

 わたしを守ってだなんて、自分で言うのも図々しいと思ったけどね。
 クイーンさんじゃなくて船長って言うのも勇気がいったんだけど、でもそれが船長の望む答えだったらそれでいい。
 守られてるだけの存在になりたくないなんてカッコいいこと言えないけど、それなら自分のできることくらいはやらないと申し訳ないよね。

「それでは、送ります」

 帽子屋さんがさっと腕を振るうと同時に、わたしの視界は光で埋め尽くされた。
 あぁ、【地下の国】号に送られるんだ、だなんて。
 光が消える頃それを理解して、目を開けたときに広がっていたのは……

「……薔薇園?」
「みたいだね」

 少しも驚いた様子がないチェシャに、これは予想済みだったのかと思う。
 チェシャが予想済みでもわたしにとっては予想外だったんだけど。てっきり【地下の国】号の船に送り込まれると思ってた。

「なんで薔薇園?」

 揺れてない地面だからチェシャに捕まっていた手を離して、朝露の降りた薔薇をまじまじと見つめる。
 これ、本物の花だよね?
 むせかえるような強い香りに包まれて、鼻がおかしくなりそう。鮮やかに映る赤い薔薇と緑色のコントラストに、わたしは疑問符を浮かべるばかりだった。

「船長、これからどーすんの?」
「突破するだけに決まってるだろうが」
「だよね。でも、ユキがいるのに強行突破でもするつもり?」
「……ちっ」

 ありがとうチェシャ。本当にありがとう。
 何をするつもりだったのかは知らないけど……分かりたくもないけど、強行突破って嫌な予感しかしなかったから、止めてくれたチェシャには本当に感謝したい。

「あの、これってどういうこと……?」
「……」

 船長が不機嫌そうに眉をひそめた。
 うん、船長は説明するの嫌いなんだってことはもう分かったから、船長に状況説明をしてもらおうだなんて期待してない。

「あいつらの幻術。突破するには壊すか、かけた奴叩くか、地道に出口を見つけるか……だっけ?」
「幻術……つまりここは本当は船なんだけど、薔薇園に見せているってことだよね?」
「……いや」

 わたしなりに噛み砕いて理解しようとしたところを、船長に否定された。
 公爵夫人の館であったような、あれじゃないの?

「この空間だけ切り離されているからな。この薔薇園は幻術じゃない。本物だ」
「えっと、幻術じゃないってことは……どういうこと?」
「【地下の国】号に送られた瞬間、ここに飛ばされたってことじゃないの?」

 至極どうでもよさそうに肩をすくめたチェシャの言葉に、分かったような分からないような……。
 とりあえず、ここは【地下の国】号の領域内なんだけど、【地下の国】号の船ではないみたいな?
 あやふやな状況でよく分からないけど、でも船長もチェシャも全く気にしてないからわたしも気にしない方がいいのかもしれない。そっちの方が楽そうだ。

「それで? どーすんの?」
「あは、どーもしなくていーんじゃないのぉ?」

 ビクリと、肩が震えた。
 わたしは知ってる。この間延びしたような声を、知ってる。
 だってそう。わたしはこの声を公爵夫人の島で聞いた。
 殺されるかと思ってこの声から必死に逃げたんだから。
 ここは【地下の国】号の場所なんだから、居て当然じゃないか。

「そこにいる娘って、島にいた娘だよねぇ?」
「っ!」

 反応するな、馬鹿。
 大丈夫だから。船長だってチェシャだっているから大丈夫。いきなり殺されたりなんかしない。偽者アリスでも、守ってもらえるって言ってくれたから大丈夫。
 そう心の中で何度も呟いて、わたしは緊張しながら間延びした声の主を見た。
 薔薇のアーチの真ん中で、パラパラとトランプを弄っている優しそうな顔した人。跳ねたマロン色の髪がふわりと広がって、少し大きな猫目の瞳が中性的な人に思わせる。胸元にあるチェックの大きなリボンがやけに目に付いた。

「もしかしてぇ、そっちの“アリス”?」
「だったらなんだ?」

 不機嫌そうな声で船長が高慢的に言うと、その人はぱらぱらと弄っていたトランプを一つにまとめて、やる気のなさそうに立ち直った。

「面倒だけどぉ、始末しろって言われてるんだよねぇ」
「へー、できると思う?」

 ニヤニヤと笑ったチェシャが前へ出た。

「試してみよっか。あんたができるかどーか」
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