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「零れ話」
フローレシアたん

五男、クロイド様

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「フローレシア、聞いてくれよ……」

 はいはい、今日はどうなさいましたか。

「あの馬鹿がさ、今度は何したと思うっ!?」

 模擬刀でボコボコにされましたか? それとも、女官の前でひん剥かれましたか? もしくは町での飲みのツケの名義を書き換えられていたとか?
 ふむ、有力なのはこのへんでしょうかね。

「訓練所に、落とし穴をたくさん作りやがったんだ……!」

 落とし穴ですか。そりゃ古典的ですが大変な労力でこさえたんでしょうねぇ。

「ご丁寧に、穴底には細い丸太がいくつも刺してあって……、もしその先が尖っていたらなんて思うと……!」

 やれやれ、またですか。あの人も懲りませんね。
 うわああぁあぁっ!! と取り乱した彼の叫び声に耳が痛いです。これもいつものことなんですけど、目の前で叫ばないで欲しいものですいい加減学習してください。

「俺関係ないのに、むしろ被害者なのに、穴を掘るのに加担したのはお前だろって、師範から明日までに元に戻しておけって言われてさ……」

 もう、俺嫌だ。と涙声で地面に手をついて項垂れる彼。
 それも運命なんですよ。どうしようもない星の巡りにいるとですね、避けられないってものがあるんです。ここはいっそ悟った方が気持ち的に楽に生きられますよ。
 そんな思いを込めて、地面にうなだれた彼の頬に頬をすり寄せてあげました。

「フローレシア……」

 じぃっと間近で彼の顔を見つめてやると、潤んでいた瞳を揺らして、ハの字に眉を下げていた彼はそろっとワタシの方へと手を伸ばしてくる。
 まぁ、これくらいは我慢してあげましょう。

「俺の味方はお前しかいないんだ、きっと」

 逆撫でないでくださいね、優しく優しく。
 不器用な手つきで、そろっと頭を撫でてくる彼。大きくて無骨な固い手の中にすっぽりと収まってもまだ余るくらいですね、ワタシ。
 最初の頃、握りつぶされるんじゃないかってビクビクしましたよ。昔の話ですけどね。

「うん、元気出た。フローレシア、ありがとな」

 いえいえ、ワタシは何もしてませんよ。それでも、活力にでもなれたのならそれで良しとしましょう。
 頑張って、後始末してきて下さいね。

「クロイド様ー! どちらにいらっしゃいますかー!」
「あぁ、こっちだ! 今行く!」

 情けない顔から一転、キリリと気を引き締める彼。
 お仕事モードですね、いってらっしゃい。
 探しに来た騎士さんが、ほっとした様子で駆け寄ってきます。

「屋敷の中とは言え、あまりお一人にならぬようにして下さい」
「大丈夫だって、自衛くらいはできるから」
「クロイド様の実力は分かってますけれど、それでもです。五男とは言え、貴方は公爵子息なのですから」
「はいはい」

 またな、と優しい微笑みを残して、彼は尚も言葉を続ける騎士さんを引き連れて行ってしまいました。なんやかんやで人好かれする人だから、あんまり心配はしてないんですけどね。
 まぁいいか、とくぁあと一つ大あくびをして、ぐっと伸びをする。
 さて、そろそろ場所でも移りましょうかね。ここも陰ってきましたし。

 あぁ、ご紹介が遅れました。
 ワタシ、フローレシア。この大きなお屋敷で、公爵令嬢の愛猫やってます。
 もちろん、ただの猫ではないです。ワタシ、人間だった頃の記憶があります。

 しかも、この世界じゃないものの。

 今からちょうど一年前、ワタシはなんとか伯爵の愛猫ママから生まれて、6匹の兄妹と共に毎日乳争奪戦を繰り返しては眠っていました。えぇ、生まれたての子猫時代です。
 まぁ、目も見えないわ体も自由に動かないわで、焦りましたけどね。そこは乳の匂いをいち早く嗅ぎ当てて必死で這っていくんです。……と言っても、母猫のお腹からあんまり動かないんですけどねー。
 一ヶ月経つとそれなりに動けるようになって、とて、とてと歩いて兄妹たちとじゃれあっていました。飼い主のなんとか伯爵夫妻が、デレッデレな顔ではしゃいでいたのをよく覚えています。
 その頃まではしっかりと猫やってましたよ。言い方に語弊がありますけど、でもそこまでは普通の猫だったんです。ただの猫。
 でもある日兄妹とじゃれて甘噛みしながら遊んでいたら、ガン! と床に強く頭を打ち付けてしまいまして……そのはずみに思い出してしまったようです。

 ワタシの前世が、異世界の人間だったこと。

 焦りましたよ、その時は。なんでそんな記憶が蘇ってくるのか、ワタシは本当は猫じゃないのか、普通じゃないならどこかに実験動物として解剖とかされちゃうのか、とか。
 人間の知識を思い出すと嫌な方向ばかり思いつきました。あぁやだやだ。
 前世は……、それなりの学校に行って、それなりの会社に勤めて、それなりな人生を送っていたんだと思います。それなりと言っても締切やら受験やら就活やらにすごく必死になってましたけれども。でもまぁ、趣味のネット小説漁りの方に時間を費やして、自分のことに無頓着だったりしてたので、30歳手前で心筋梗塞でぽっくり逝ってしまったようです。
 あれ、うっ、と来てから一気に苦しみ来て辛いんですよね。一瞬で終わってくださいよって思い出したとき、痛みまで思い出して苦しかったですけど。
 そんな偏った記憶も知識もあるので、たぶん異世界転生とやらをしたのかなって。
 普通の転生だと、死んだ直後すぐに転生したおかげで記憶があって、赤ちゃんから始まって知識チートとかしちゃうもんだと思うのですよ。
 もしくは、ドラゴンとかフェニックスとかなんか、こう、幻想動物的なものとか希少種的なものとかじゃないんですかね。
 どうして、猫なんでしょうか。猫は貴族の愛玩動物的な立場のものらしいです。高貴な動物的なものらしいですが、珍しいものではありません。

 The 平凡です。

 人の頃の記憶があるので知能は猫なのに人並みにあります。空気も読めちゃう賢い猫ですよ。人語がしゃべれるわけじゃないので、聞き専に近いですけどね。
 そんなこんなで、今までと同じように兄弟と戯れることもしなくなりましたし、飼い主様の顔色伺うこともするようになりました。
 普通の猫、からは一歩引いた形になっているのかもしれません。

 そんなワタシ、公爵令嬢様の十四歳の誕生日プレゼントとして贈られました。

 理由は単純。おとなしいから。
 兄弟たちがやんちゃすぎたからですよ、達観して昼寝してたりしたのがアダになったようです。猫だからごろごろだらだらと過ごしていようとした目論見が外れましたよ。
 そんな高貴な方っていうか、公爵様に関して無礼を働いたらどうするんですか! 無力な猫ですよ、簡単に切り捨てられちゃうんですよ!?
 え? 逆に猫だからこそ許されるですかそうですか。

 そんなこんなで、現世名フローレシア。
 齢一歳(猫の一歳は成猫です)のレディなワタシは、贅沢な生活の中でアニマルセラピー役として気ままに暮らしています。



異世界転生。そんなもの今日び驚くようなことじゃないと思いますけれど。でもですよ? 異世界だったら、転生知識チートができる人間だとか、異世界の浪曼ドラゴンだとか、なんだか希少価値とかついてそうな、そんなプレミア特典はないのですか? ……え? 公爵令嬢さまの“愛猫”って特典あるじゃないかって。そりゃそうですけど、人の姿になれるわけじゃないですし、人語を話せるわけでもないんです。そんなただの猫なんです。……ただの猫なので、すみません。ワタシに人生相談っぽい愚痴を語るのやめてください。

前世異世界人の猫フローレシアと、動物の思念が判る公爵令嬢レティシアを中心に、ゆるっとほのぼのした日常を描いている作品です。頭空っぽにして読める!を目指しているので、陰謀や内政、戦争等小難しくなるものはございません。
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