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「Hazel amd Gray」
紫色の娘

11 声

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 誰かが怒鳴るような声が聞こえた気がして、そっと目をあけた。
 ちょっとだけ熱くて、重い目蓋。それから、風邪をひいたときみたいに怠い身体。

「最善策と言ってちょうだい。だったら、あんたならこの子をどうするって言うのよ?」

 魔女のお母さまの声が聞こえた。
 泣いている私を慰めてくださっていた魔女のお母さまは、私が寝てしまってからもいてくださったみたい。

 お忙しい魔女のお母さまには申し訳ないけれど、ちょっとだけ嬉しかった。

「連れて帰るに決まっている。こいつは俺のものだ」

 それから聞こえた低い声に、びくりと肩が震えた。

 貴方は、またいらしてくださった! 無事でいらっしゃられた!
 背を向けているから貴方のお姿までは見れないけれど、でも貴方の声が聞こえただけで、じわじわと胸に暖かい何かが広がっていくの。

 重い頭を持ち上げて、力の入らない腕を支えに私はゆっくりと起き上がった。
 貴方の姿が、お顔が見たいの。

「あんたとはオハナシにならないわ」
「同感だな。あんたが何と言おうと、俺はこいつを連れて帰るだけだ」
「それはさせられないと言ってんのよ!」

 大好きな貴方と、魔女のお母さまの姿が映る。

 あぁでもどうして?
 どうして貴方も魔女のお母さまも、そんなに怖いお顔をなさっているの……?

 ゆっくりと持ち上げられた魔女のお母さまの腕は、これから何をしようとしているのか分かって……。
 貴方が握った光あふれる拳からは、魔女のお母さまの指先と同じ気配がして……。

「――――!?」

 また貴方を失ってしまうような気がして。
 魔女のお母さままで消えてしまいそうな気がして。
 貴方が外の世界へと消えてしまった瞬間を思い出してしまって。

 瞬き一つでもしたら、私の大好きなお二人が消えてしまうような気がして―…!!

 ぱちんと、魔女のお母さまが指を鳴らす音と、貴方から放たれる光が視界を埋めつくしたとき、


 私はただ夢中で、

 産まれて初めて、

 “声”を叫びだした。


「あああああああああああぁあぁ―…っ!!」


 言葉にはならないただの叫びだった。
 何が言いたかったのかは分からないけれど、誰も失いたくなくて消えてほしくなくて叫び声として喉から飛び出した。

 魔女のお母さまとの約束も忘れて、私は息が続く限り叫び続けた。

 それは音の振動となって、ビリビリと私のお部屋を、私の世界を揺らした。

 ガタガタと、私の世界が揺れる。
 がしゃんと、何かが壊れる音がした。
 がらがらと、何かが崩れ落ちる音がした。

 私の足は床についているの?
 どうしてこんなに風が吹き付けてくるの?
 どうしてこんなに私の体は頼りなく何にも触れないの?

 魔女のお母さまは……、貴方は無事でいらっしゃるの?

 私には何も見えないの!!
 私には何も分からないの!!
 何も……、何も……!!

「ラプンツェル!!」

 ぎゅっと閉じた瞳では何も見えないけれど、私の名前を呼ぶ貴方の声は確かに聞こえた。
 貴方の胸に、力強く抱き締められる。

「ああ…あぁ……っ!!」
「もういい、話すな!」

 荒々しく貴方の暖かな胸に抱き寄せられて、私の擦れた声を閉じ込めるように貴方は私の唇を塞いだ。

 伝わる貴方の温度はやっぱり熱くて、叫びだしていた声は貴方に吸い込まれているようで……。

 貴方の存在を全身で感じながら、貴方に強くしがみついた。
 離れないように、消えてしまわないように。

 とても近くで、真っ白な光が強く輝いたような気がした。

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