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「Hazel amd Gray」
淡褐色と灰色

02 兄妹

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 時は少し遡る。
 まだ太陽が頭上にサンサンと照り渡り、人々が活発に活動をする正午。

 人の出入りが激しい五番街は、商店や屋台が多く立ち並ぶ場所である。人が生活する場と言うよりは、生活必需品を買い集める場所と言った方が正しいのかもしれない。
 人の混雑に比例するように、活気付いた屋台が大通りの両側で客寄せをしている。
 石畳を踏む足音に、反響し合う呼び声や買い物を楽しむ人々の笑い声。さまざまな人の声が重なり合って、活気を練り上げているようだ。

 そんな大通りに面したカフェテリアで、優雅に午後のティータイムを楽しんでいる男女が一組。
 ライトブラウンの少し跳ねた短髪の青年と、同じ色だが肩元で緩く結んだまだ少女とも言えるだろう二人。顔立ちが似ているが、二人が放つ雰囲気は異なっていた。

「……それで、いつまでついてくる気なの?」
「グレイ~、せっかく二人で出かけられたのにそんな冷たいこと言うなよー」
「遊びに来たわけじゃないの。ゼルはさっさと家に帰れば?」
「またまたぁ、僕がいないと淋しいくせに」

 グレイと呼ばれた少女は、灰色の瞳を細めてゼルと呼んだ青年を冷たく見据えた。

「寝言は自分のベッドの中で言ってなさいよ」
「もしかして、寝呆けてグレイのベッド使ったこと、まだ根にもってた? あのときは本当にゴメンってば」
「私が言いたいのはそういうことじゃないわ」

 グレイの冷たい視線も静かな怒りもへらへらと笑って流すゼルは、長い足を組みなおして優雅に紅茶を飲んだ。
 グレイが睨んでいることも気にしてはいない。彼にとってはほんの些細なことなのであろう。

「いい? 私は自立するために家を出たの。これ以上義母さんに負担は掛けられないわ」
「だーかーら、僕も一緒に来たんじゃないか。お兄ちゃんに黙って行くなんて、水臭いぞ?」
「あのね、私は遊びで言ってるわけでもやってるわけじゃないの。分かるでしょ?」

 仕事を見つけるために、今後も生き延びられるように家を出た。グレイが定職を手にするには、このゼルが邪魔だった。
 暗に、お前は家に帰れと言いたいらしい。

「分かるよ? 僕を誰だと思ってるの、可愛い君のお兄ちゃんなんだから」

 だからなんだと、特に気にもしない様子でゼルはティーカップをソーサーへと戻した。

「それに、女の子一人じゃ危ないでしょ? 男がいるといないとじゃ、どこ行っても待遇は全然違うと思うよー?」
「……そ、うだけど」
「ね? 僕がグレイと一緒にいるのに、問題はないでしょ?」
「だからと言って、それとこれとは話が違うわ」
「違わない違わない。僕は可愛い妹が心配だからね」

 そう笑顔で言い切るゼルに、グレイは頭を抱えたくなった。
 いや、これもいつものことなのだが、どうしても、いつになってもこの兄には勝てないのだ。
 ニコニコと何も考えていなさそうな笑顔の前では、何を言っても適わない。この男と兄妹をやっていて、経験論として思い知らされていた。

「あのね、ゼルが考えているようなお気楽なものじゃないのよ?」
「僕は別にお気楽なことを考えてるつもりはないよ?」
「そう、じゃあ例えばどんな真面目なことを考えてるのかしら?」
「……今日の夕飯はどうしようか、とか」
「……論外だわ」

 真面目な顔して言うものだから、グレイは頭を抱える他なかった。
 この馬鹿兄一人じゃ生きていくことさえ不安になる。
 もっと真面目に、現実的に考えれる頭はないのかと、自分の兄ながら情けなく思う。

 グレイは現実主義者であった。

 年頃の女の子のように理想や空想に想いを馳せるのではなく、いつでも真っすぐに現実を見据えていた。
 それがどれだけ厳しく、過酷な現実だろうと、目を背けるわけにはいかない。
 目を背けたとしても事態が良くなるわけではないし、それならば、しっかりと見つめて打開策を探した方がいいと考えている。

 それ故に、グレイは家を出たのだ。

 それが最善の策だと思い、置き手紙を残して太陽が頭上に上がりきる前に五番街へと辿り着いた。
 この五番街なら、ただの小娘でも職を手にできるのではと考えて。
 ある意味無謀な賭けだったかもしれないと思っていたのだが、それ以上の誤算が目の前にいる。

 結局、ゼルの分まで稼がなくちゃならなくなるんでしょうけど。
 そう考えると、グレイは深くため息をついた。

「とりあえず、泊まり込みで働ける場所。衣食住が安定しているまっとうな仕事なら問題はないわよね」
「衣食住ねぇ。それって、働かないとダメなの?」
「当たり前でしょ? 働かないでタダ飯出してくれる場所なんか、それこそ刑務所くらいよ」

 何を馬鹿なことを言っているのかとでも言いたい様子のグレイに、ゼルは尚も笑顔のまま爆弾発言をした。

「大丈夫、綺麗なお姉さんに僕を買わない? って言えば、働かないで安定した衣食住を手に入れられるからさ」

 ほら、いい考えでしょと言うゼルを、テーブルの下で思い切り蹴ってやった。
 これのどこがいい考えだと言うのだろうか?
 グレイはその灰色の双眸を細めて、自分より大きくて年上のはずの兄を睨み付けた。

「私は、“まっとうな”ってちゃんと言ったはずだけど?」
「でも、衣食住……」
「自分の身体売るのはまっとうな仕事なのかしら?」
「でも、グレイに仕事……」
「本当に身売りなんかしたら絶交。口もきかないし、兄妹の縁も切るわよ?」

 言い訳がましいゼルに、最近の子どもでも言わなさそうな幼稚なセリフを吐く。
 グレイとしては、こんなガキっぽい言葉を吐いてどうする、と言いたくなるのだが、いかんせんこれが一番効果的なのだ。

 この、シスコンな兄ゼルに対しては。

「グレイィイ!! そんなっ、やだっ、僕が悪かったからもう言わないから!! だから絶交だとか口きかないとか悲しいこと言うなよぉお!!」
「冗談だから。やめてよみっともない」
「でも、グレイと縁切られたら生きてけない。お兄ちゃん悲しくて泣いちゃうからな」
「既に半泣きで何言ってるの? だから、身売りしないでくれれば問題ないでしょ」

 大の男が半泣きになって情けないとは思いつつも、そんな弟のようなゼルの涙を拭ってやる。
 グレイだって心配して、気に掛けているのだ。それさえ伝わってくれれば問題はない。

 だが、少々目立ちすぎたようだ。
 ゼルの情けない姿に何事かと視線が集まっているのを感じる。
 間違ってはいないが、グレイがゼルを泣かせたように見られているのではないか?
 居心地の悪さを感じて、グレイは伝票を片手に立ち上がった。

「ゼル、わたし行くから」
「まっ、待ってグレイ。行くって、何処に?」
「そんなの決まってるじゃない」

 ゼルが追い付くのを待って、何を当然のことを聞くのかとグレイは首を傾げた。

「職業斡旋所よ」

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