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「Hazel amd Gray」
淡褐色と灰色

04 魔女

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「……ありえないわ」

 もっと明確な言葉で表すなら、悪趣味。
 広大な敷地にいくつも構えている豪華な邸宅が立ち並ぶ三番街で、一際異様な雰囲気を放つその建物。いや、建物と言ってもいいのだろうか?

 固い飴細工の柵にビスケットの門。建物まで続く道には金平糖の砂が敷いてある。
 玄関の扉はチョコレートで、その壁はウェハースを積み重ねられて作られている。屋根に使われている瓦は市松模様のクッキーと言う、見ているだけでも胸焼けを起こしそうな“お菓子の家”だった。

「全部偽物っぽいよね、なんかガッカリしない?」
「これが本物なら間違いなく一日も保たないわよ」

 残念だと、金平糖をつまみながらぼやくゼルに、グレイは呆れたように呟き返した。
 普段ならこんな場所に用はない。今だって、関係なかったら視界にも入れないようにしていただろう。
 だが残念ながら関係もあるし、用だってある。

「ここにいる魔女って、どんな人だろうね?」
「本当に頭痛いわ、よりにもよってなんでこんな……」
『嫌なら帰れば? 他人のものに手を出すつもりはないから』
「!?」

 敷地内に踏み込めず、門の前で尻込みしていた二人に、どこからか声が掛けられた。
 慌てて辺りを見渡すも、誰の姿もない。

「魔法、とか?」
『愚問ね。あぁ、疲れるからとっとと帰って』

 どこか投げ遣りに言われると、イラっとする。ここにいるのも本意ではないし、本当に帰ってやろうかとも思う。

 グレイはゼルの腕を引き、別の仕事を探そうと引き返そうとした。
 だが、ゼルは動かない。

「ちょっとゼル」
「僕らはあの人の下にいるつもりはないんだから、雇ってくれないと困るよ。グレイだってそうでしょ?」
「まぁ、確かに義母さんのとこに戻るつもりはないけど……」
『義母さん……!?』

 少し驚いたような魔女の声がした。
 それから、少し悩むように沈黙が落ちたかと思えば、勢いよく門が開き、玄関の扉が開かれた。
 ぎょっとした二人に、魔女の少し疲れたような声が掛けられる。

『帰る気がないなら入りなさい。人手が欲しいのは本当だから』
「一生懸命働く働く! ね、グレイ!」
「主に私が、になりそうだけど」

 妙に嬉しそうな声を上げるゼルとは対称的に、グレイは諦めたように大きくため息をついた。
 そして二人は、魔女が住むお菓子の家へと、足を踏み入れたのだった。

 家の中は拍子抜けするくらいにまともだった。
 外見はお菓子の家だが、室内に入るとどこにでもあるような、外見を疑ってしまうほど普通だった。
 申し訳程度に廊下に絵画が掛けてある。リビングのような部屋を覗いても、レースのテーブルクロスがかかったウッドテーブルや、若葉色のカーテンが調和された、いわゆる落ち着けるような場所。

『階段上がった突き当たりの部屋よ』

 キョロキョロと辺りを見回していた二人が余計なことをしないようにと、再び魔女の声が響いた。
 その階段がどこか分からなかったのだが、勝手に歩き回っていたゼルが発見したらしい。奥まった場所にひっそりとあったそうだ。
 グレイは少し慎重になりながらギシギシと軋む階段を上った。
 そしてどこか緊張したように指示された扉を叩いた。

「開いてるわよ」
「……失礼します」

 少しくぐもった声に促されて、グレイは魔女の部屋へと足を踏み入れて……止まった。

「グレイ、どうし……」

 不思議そうに尋ねるゼルも、室内を見ると少し困惑したように動きを止めた。
 止まってしまうような、姿だった。

 魔女は自嘲するように歪んだ笑みを浮かべて、憐れだとは思わないでよね、とだけ言った。
 誇り高き孤高の存在だと言う魔女は、身体の半分を失っているように見える。いや、実際にないのだ。
 何故こんな姿でも生きているのかと問われれば、それは魔女だからとしか答えようがない。

「呆れるほど美人ってわけじゃないわね、あんた」
「僕の妹は美人じゃなくて可愛い子なんだから、そこ間違えないでよね」
「ゼルは黙ってて」

 下半身どころか胸元から上しかない魔女が唐突に何を言うか。
 そして我が兄ながら能天気にもほどがある。訂正すべきはそこではない。

 紫色の瞳で探るようにじろじろと見る、この魔女の姿がありえないとしか言えない。
 だが、目の前で話をして息をして動いている彼女は、間違いなく現実の人なのだ。

「その、どうして……」
「生きてるかって? 魔女だからよ」
「違うわ。どうして、身体がないの……!?」

 魔女だからと言って、全てが納得できるはずかない。
 ならば何故、偉大なる魔女がそんな姿をしているのか。
 驚きを隠せないグレイに、魔女はどこか淋しそうにぽつりと呟いた。

「これは代償よ」
「代償?」
「優柔不断だったあたしへの罪だわ。あんたたちだって、同じことをするんでしょ?」
「何が言いたいの?」

 魔女に何があったかは知らないが、グレイは誰かをそんな姿にさせるつもりはない。
 ただゼルと共にまともな暮らしをしたいだけだ。

「あんたが言う義母さん、あいつも魔女よ」
「は?」

 しかも相当質の悪い、と続けられるものだからますます意味が分からない。
 だが、何故かゼルはやっぱりねとでも言いたそうな顔をしている。
 確かに林檎をこよなく愛するあの義母は、普通の人間ではないような異常さはあったが……本当に魔女なのだろうか?
 グレイには判断しかねた。

「あいつから解放されたくてあたしのとこに来たんでしょ? 残念だったわね、あたしは今ほとんど役に立たないわ」
「ちょっと待って。違うわ、私たちは仕事をしに来たのよ」
「あ、そうそう。下働き募集してたでしょ、衣食住付きで!」

 紫色の瞳を丸くして、魔女は少しむっとした様子のグレイと、ニコニコと笑うゼルを見つめた。

「……冗談かと思ったわ」

 グレイは何故魔女が下働きを募集していたのか不思議でなかったが、それについては納得したらしい。
 この状態ではやれることは限られているはずだ。人手が欲しくもなる。

「雇ってくれるなら、甘くない紅茶くらいは今作ってくるけど?」
「グレイのストレートティー、僕大好きだよ!」
「ゼルには言ってないわ」
「えー、そんなつれないこと言うなよー」

 魔女にとっては予想外だった展開らしく、しばらくぽかんと二人のやりとりに口を開いていた。
 だが、どこか降参したかのように、不意に笑いだした。

「いいわ、雇ってあげる。だからその愉快な会話、やめなさいよ」

 グレイは少し釈然としないものを感じたが、魔女が笑ってゼルも笑っているものだから、それでいいかとグレイも笑い声をあげた。
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