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「Hazel amd Gray」
淡褐色と灰色

06 知恵

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「勝手に使わせてもらったけど……って、ゼルは?」

 湯気を注ぎ口から立ち上らせながら芳しい香りを放つポットと、数少ないティーカップをトレンチに乗せてきたグレイは、部屋の中にゼルがいないことに驚いていた。
 それでもその場で紅茶を注ぎ、丁寧な手つきで魔女に手渡す辺り、そんなには驚いてはいないらしい。
 魔女は暖かなカップを片方しかない手で受け取り、味見でもするかのように一口飲んでからぽつりと呟いた。

「連れ戻されたわよ」
「は?」
「魔女……あんたの、義母に」

 あら、意外とイケるじゃない。
 そう好評を得られたのは嬉しいが、魔女は今なんと言ったのか。

 ゼルが義母さんに連れ戻された?

 どうして……いや、魔女と言うならば魔法で、だろう。
 正しく言えば、何故ゼルが? だ。

「何でゼルが連れ戻されるの?」
「綺麗だからでしょ、あの瞳が。自分の物なら取り戻すのが普通だし」
「あなたは、それをただ目の前で見てただけだったの? 何もしないで……!?」

 動揺からか、グレイの声が大きくなった。
 トレンチを机に置いたのは幸いだったかもしれない。仮に持っていたら、床に落として悲惨な状態にしていただろう。

「あたしに止める義務はないわ。それにあいつだって助けてとは言ってない。まぁ、あんたを守ってほしいとは頼まれたけど」

 あの、馬鹿兄ゼル!!

 グレイは心の中で叫んだ。
 そうだ、魔女を責めたってどうしようもない。彼女には何も関係ないのだから、助ける義務なんかない。
 だからと言って、グレイを守ってほしいと我が身を犠牲にするゼルは何を考えていると言うのか。
 ニコニコ笑ってここまで連れて来たと言うのも、ゼルには全て分かってたとでも言うのだろうか。

「ほら、やっぱり納得しないじゃない」
「当然よ。ゼルばっかに迷惑かけてられないわ」

 五番街に来たときだって、口には出さずとも伝えたではないか。
 グレイだってゼルのことを心配し、気に掛けているのだと。
 兄が妹を心配するように、妹だって兄を心配していることを分かってほしかった。

「……で、あんたはどうしたいの?」
「ゼルを、助けたいわ……。お願い、力を……知恵を貸して」

 ただの義母なら、時間が掛かっても一人でなんとかしようとしただろう。
 だが魔女と判った以上、グレイは下手に動けない。魔女に対するすべなど分かるはずがないのだ。

 だが、目の前にいる半身を失っている魔女に魔法的な援助は求められないが、知恵としてでいいから助けを求めたかった。
 グレイの常識だけでなんとかなる相手だとは思えない。

「それであたしに何か見返りはあるのかしら?」
「義母さんの鏡を手に入れてくるわ。代償はそれでいい?」
「……あんた、変なとこ理想論で言うわね」
「現実的に考えるだけじゃ、太刀打ちできないでしょ。あなたを含めた魔女には」

 皮肉を交えて言うと、魔女は面白そうに笑ってカップを空にした。

「確かにそうね、あたしたちは一筋縄でいくようなまともな性格じゃないわ」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
「簡単なことよ」

 怪訝そうに尋ねたグレイに、魔女は口元に媚惑的な笑みを浮かべた。
 そして空になったカップを差し出して言うのだ。

「甘くない紅茶のおかわりを淹れればいいだけだわ」

 そんな答えにグレイは少し驚いたように灰色の瞳を丸くしたが、それから小さく笑ってポットを手にした。
 断る理由など、どこにもないのだから。

 これを持っていきなさいと、パステルカラーの紐で編まれた飾り紐を渡された。所々に玉飾りがあり、綺麗と言うよりは可愛いと表現したほうが似合うものだ。
 魔女曰く“魔具”と言うものらしい。

「魔具って?」
「一般人でもちょっとした魔法が使えるようになるもの。魔女の魔力が込められているものだと思いなさい」

 この飾り紐がそんなすごいものには見えないけれど。
 半信半疑ではあるが、それでもグレイは大切に握り締めた。

「それで、これってどうやって使うの?」
「使用回数は二回。行きたい場所を強くイメージして言葉にすればいいだけ」

 強くイメージして、と言う漠然とした物言いに、グレイは少し眉をひそめた。
 魔法に根拠や論理的に考えろとは言っても無駄だが、そんな非現実的なことができるのか甚だ怪しい。
 ……今は、それにすがる他ないのだが。

「あんたがさっき言った鏡は、真実の鏡でしょ? アレ、絶対嘘は言わないはずよ」
「そこをイメージしろってこと?」
「そう。それで“魔力の源は何処”と尋ねなさい。あとはソレを処分すれば、救って逃げることくらいはできるわよ」

 簡単に言うが、そんな簡単に物事を進められるはずないだろう。全てがあの義母に見つからないこと前提なのだから。

 それでも、やるしかないのだ。
 他の誰かが助けてくれるのを期待しても無駄なのだから、唯一の兄くらい自分で救い出さねばどうする。

「せいぜい頑張ってみれば?」

 魔女はどこか皮肉めいた笑みを浮かべて、緊張した面持ちのグレイに言葉を投げ掛けた。

 グレイは一つ頷いて、ゆっくり目を閉じた。大きく深呼吸をして思い描く。

 あの“私は美しいわよね?”と、何度も狂ったように言っていた義母が使っていた鏡。
 楕円形で、金の飾り淵がやけに立派に見えたアレは、どうしてか物置にあった。
 こんな立派なものを何故使わないのか、と不思議に思っていたのだが、“真実の鏡”なら誰にも使わせたくないだろう。割られたりしたらとんでもない。

 そんな鏡があるのは、暗い、昔の思い出を箱に詰めて押し込んだ場所。明かりなんかない。こんなに暗いと月明かりに頼るしかない、狭くて少し埃臭い……

 ヴン、とグレイの姿がブレるようにして消えた。
 転移魔法はうまく働いてくれたらしい。

「……義娘にこんな姿にされたあたしが、同族を同じ目に合わせようとしてんなんて」

 本当に皮肉よね、と。
 どこか寂しそうな色を瞳に灯して魔女は呟いた。

 紫色の瞳が、琥珀色の紅茶に映る。
 そんな自分の顔が情けなくて、魔女はそれごと中身を飲み干した。
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