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「零れ話」
フローレシアたん

三男、カーディン様

 ←五男、クロイド様 →そのいち。

「あら、フローレシアさまだわ」

 おや? 洗濯物をたくさん持った侍女さんたちが可愛らしく微笑みながらこちらに向かってきてますね。
 普通の猫ならスルーしますけど、ワタシは元人間ですからね。ぴたりと止まってじぃっと彼女たちの顔を見上げます。

「フローレシアさま、あまり遠くまで行かないでくださいね」
「フローレシアさまがいなくなると、お嬢様が寂しそうにしますから」

 はーい、とでも答えるかのように小さく鳴いて応えます。ここ、重要なのは猫は表情がそんなに変わらないので、機嫌がいい声で鳴くことなんですよ。笑顔とかできませんからね、猫。
 愛想は振りまくに越したことがないので、愛想振りまくりまくって彼女たちと別れました。きっとこれから裏手の洗濯干し場へと行くんですよね。お仕事、頑張ってください。
 ちなみに今、ワタシはお屋敷の裏手、使用人たちのテリトリーにいます。
 表の方に行くとたまに貴族とかがいるから嫌なんですよね。あからさまな猫扱いは嫌いです。
 のんびりと人気のない庭園の方へと向かい、むわっと強く臭う白薔薇の垣根の間をくぐります。上から見たことないですけど、この庭園なかなか大きいらしいです。王城の庭園の方はもっと大きいらしいですよ。王妃宮の方のバラ園は特に立派なものだとか。まあ、全部噂話で聞いた話なのですけども。
 トゲトゲしい薔薇の苗木を避けて、ゆっくりとした足取りで庭園の中程にある噴水を目指します。東屋の方でもいいんですけど、誰かが逢引とかしてたら気まずいじゃないですか。ワタシは空気を読む猫ですからね。
 開けた場所に出ると、そこには白い理石で作られた……ワタシから見れば大きな噴水が。これ、水のモチーフがなだらかなラインを描いて彫り込まれていて、大理石のようなつるつるな重厚な材質なのに、軽やかで、不思議と神聖なもののような印象を抱かせられるんです。さすが職人技ですね。
 そんな職人さんの努力の結晶の噴水の淵に身軽な体で飛び乗り、ころんと丸くなります。
 ここはやっぱりほどよく涼しいですし、日射しも暖かいですね。絶好のお昼寝スポットです。

 ちらりと霧雨のような水が掛かる水面を覗き込むと、一匹の猫の姿。
 ワタシです。一年もすれば見慣れました。
 艶やかな青み掛かった黒い毛並みに黄緑の猫目。ベルベットの首輪の先に薄い金のコインがぶら下がっているのが、ちょっと高級感出してるかと思います。もちろんこれは公爵令嬢の猫って証です。

「あぁ、お前か」

 ふと、ワタシの後ろに誰かの姿が映りました。
 この突き放すような言い方は三男のカーディン様ですね。水面に歪む姿を見なくったってわかります。
 何か? とでも言うかのように顔を上げると、彼はそっと隣に座りました。
 なら場所移りましょうかね、とも思ったのですが、ここはぐっと思い留まってその場から動きません。#成猫__おとな__#ですからね、アニマルセラピーなお役目は忘れてませんよ。

「お前はいいよな、気ままに過ごせて。何も考えなくて済んで」

 そうでもないですよ。猫だって色々考えることはたくさんあるんです。
 ワタシだって昔は猫になりたいとか思ってたクチですけどね。いざ猫になってみるとそうでもなかったりします。
 狩りとかできないんで、人間依存しないとですし、好きな時に好きなことできないですし愛想振りまかないといけませんし。

「この領地と責務を背負うという重圧がないだけ、兄上たちに比べれば僕もお前と似たような立場なんだろうけどね」

 自嘲するかのように笑った彼に、ワタシは関係ないですよーとでも言うかのようにあくびを一つして目を閉じた。
 ただ言いたいだけなんでしょうね、それくらいは察しましたよ。ワタシは何も喋れない猫ですし、口は堅いですよ、ただの人には。

 あ、そうでした。まだこの国に関してはあまり触れてなかったですね。元日本人であるワタシからしてみれば、あんまりピンとこなかったのですけれども。
 国王陛下が統治しているらしいこの国(名前はど忘れしました)は、わりと平和なのんびりとした国のように感じます。昔のヨーロッパ的な感じですかね、そこにもっと緑とか足して戦争とか小競り合いとかないと思ってもらえれば近いかと。
 ドレスだって着ちゃいますし、馬車だって騎馬隊だってあります。騎士だっています。あー、でも最近車もどきは開発されたみたいですね。エンジン音が五月蝿いのであんまり好きじゃないですけど。
 そんな国の中心部の王都より少し離れた場所で、ひろーい領地を運営? しているのが、ワタシが飼われている公爵様の領地。公爵様も公爵夫人様も、長男夫妻に跡目を譲りつつあるようで、今はあまり同じ屋敷には居ないようです。正直、ワタシお顔を覚えていません。猫だからいいですよね、別に。
 子どもは男五人の女一人。ワタシの飼い主の令嬢様は末っ子なので、お兄さん含め使用人たちからも非常に可愛がられています。そのついでにワタシも可愛がられています、あくまでもついでに。

「本当に、自分が嫌になる」

 おや、カーディンさま、そんなに思い悩むと色男が台無しになりますよ。
 ちなみに、カーディンさまは先ほどの五男のクロイドさまと三つ子です。雰囲気や性格はかなり違いますが、そろっと撫でる大きな手と撫でる手つきは似ています。
 そっと優しく。口ではなんて言おうと、心根は優しい方だって思ってますよ。だから大人しくしているんですけども。
 まぁ、頑張ってくださいよ。貴方の行いが領民の生活に大きな影響力を与えてくるのですから。やっただけ無駄にはなりません。
 そう心の中で思うだけで、カーディン様には通じはしませんけれどもね。

「はぁ……」

 大きくため息をつきながらも、撫でる手はとめない彼。
 しばらく堪能してもいいんですよ、この侍女さんたちが手入れをしてくれているこの自慢な毛並みを。逆撫でたら怒りますけどね。
 背中を優しく撫でてくれるその手つきに、ごろごろと喉を鳴らしてされるがままになる。あ、お尻の方までは撫でないでくださいね。

「まぁ、いい」

 アニマルセラピー効果はありましたか、カーディンさま。

「レティシアが探していたからな、早く行ってやれ」

 レティシア様がですか。それならすぐに向かわないとですね。
 あ、レティシア様はもちろんワタシの飼い主である公爵令嬢です。
 ほわほわして可愛くて美人さんで優しくて、女の子の理想と願望を具現化したらこんな感じになるだろうっていうお姫様的なお嬢様です。ちょっと変わった能力はありますが、それはそれ。
 レティシア様が探しているのなら、カーディン様に構ってる暇なんかないですね。
 ぐっと一つ背伸びをして、軽やかにカーディン様の足元をすり抜けます。

「にゃぁお」

 頑張ってくださいよ、カーディン様。
 そう思いを込めて、軽く振り返りながら鳴くと、カーディン様は小さく鼻を鳴らして微笑んでいた。整った顔立ちの人がふと表情を崩すだけで、ふわりと場が華やぐ。
 爵位高い貴族様の血筋が美形なのは、これテンプレートって言うんですよね、確か。
 ワタシ猫だから、関係ないですけど。
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