FC2ブログ

「Hazel amd Gray」
淡褐色と灰色

08 継母

 ←07 真実の鏡 →09 兄

『ねぇ義母さん。それ、何?』
『これはね、特別な林檎の木よ。大切な大切なものなの』
『ふぅん。林檎の木って鉢植えに入るものだっけ?』
『だから、特別だと言ったでしょう?』

 哀れむような視線。
 どうしてこうも理解しないのか、理解できないのか。

 そう言われているような気がして、グレイはそれ以上義母と話をできなかった。
 あんなへらへら笑っているゼルに対しては、一度もそんな目を向けてはいなかったのに。

 どうして私は、義母が望むような娘になれなかったんだろう。

 そう悩んだこともあったのに、義母はゼルの瞳にしか興味がなかっただと?
 義母が魔女で、あの林檎の木が魔力の源だと?
 ゼルが義母に連れ攫われて、囚われているだと?

 冗談じゃないわよ……!!

 自分の間抜けっぷりと、目を逸らしたくなる現実に、そう怒鳴り付けてやりたくなる。
 信じられないことばかりで、未だ信じたくないと思うこともある。だが、これが現実ならば動かないと事態は好転しない。

 グレイは息をひそめ、足音を殺しながら勝手知り足る我が家を迷うことなく進んだ。
 物置は一階のキッチンの隣。
 廊下を出て、板張りの階段を軋ませないように慎重にのぼる。
 二階はそれぞれの寝室にあてがわれ、今は義母が利用している父の部屋にソレはある。

 父の部屋は一番奥。
 そこにたどり着くまでには、ゼルとグレイの部屋を横切らなければならない。
 だが、こんな時に限ってゼルの部屋の扉が開け放たれており、声が聞こえてくるのだ。
 聞きたくもない、義母の熱を帯びた声が。

「私のゼル。私の美しい淡褐色の瞳。その瞼を閉じてはダメ。私を色とりどりに映してちょうだい」

 あぁ、嫌だ。
 真実の鏡に映された光景が蘇る。

 見なくても同じ光景がゼルの部屋で行われているのだろうと分かる。それに酷く嫌悪感を覚えて、吐き気がした。
 浅い呼吸を繰り返して、ぴたりと壁に寄り添って暗い天井を睨み付ける。

 大丈夫。義母さんに見つからないように部屋に行って、アレを壊す。
 それだけのこと。それだけを考えろ。

 グレイが自己暗示するように繰り返し心の中で呟くも、声は嫌でも耳が拾ってしまう。

「逃げ出そうなんて考えないでちょうだい。ゼルは私のもの。いつでも私の傍にいなくちゃダメ」
「だから大人しく家族ごっこをしてくれたって言うの?」
「だってあなたが望んだんじゃない。私よりあんな小娘の方が大切だって言うから」
「僕の可愛い妹を侮辱しないでよ。グレイはあんたのこと、気に入ってたのに」
「ゼルのために我慢してあげたんじゃない。貴方の、綺麗な瞳のために」

 気にしちゃいけない。
 聞きたくない聞いちゃいけない。

 違う。動揺してはいけない。
 先に進まなくては。義母に見つからないように。

「よりによって同族の元に駆け込まれるなんて……。間に合ってよかったわ」
「本当にそれで良かったって思ってる? だとしたら残念だったね」
「え?」

 気にしちゃいけない。
 息を整えて、気持ちを落ち着かせて。

 義母の……魔女の言葉に惑わされてはいけない。
 ゼルの言葉に気をとられてはいけない。

 救うために、進め。

「僕は世界で一番グレイが大切だから」

 魔女が気をとられているうちに、通りすぎてしまえ。
 動け、アレを壊すために。



「グレイが無事なら、僕は死んでもいい」



「バカなこと言わないで!」

 魔女が動揺して声を荒げた。
 今しかないと、グレイは震える足を動かして部屋の前を駆け抜けた。

 動揺?
 そんなのしたに決まっている。
 それでも動けたのは、長年ゼルと兄妹をやってたからに違いない。

 ゼルならそう言うかもしれないって、そんな気がしてたから。
関連記事
スポンサーサイト





総もくじ 3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ 3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ 3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ 3kaku_s_L.png 零れ話
総もくじ  3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ  3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ  3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ  3kaku_s_L.png 零れ話
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言
  • 【07 真実の鏡】へ
  • 【09 兄】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【07 真実の鏡】へ
  • 【09 兄】へ