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「Hazel amd Gray」
淡褐色と灰色

11 結末

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「……グレイ」

 パチパチと、暖炉で薪が燃えている。
 燃えているのは薪だけではない。特別な林檎の木も、まだ炎に包まれている。
 心地よい暖かさと林檎の薫りが、明かりを点け忘れた薄暗い室内を包み込んでいた。

「……私は悪くない、なんて言ったら怒るわよ」
「グレイは悪くないよ」
「ゼル!」

 宣言した端からコレだ。
 それも、念押しするように繰り返すものだから、グレイは語気を荒めてゼルを戒めた。

「私が義母さんをあんな目にあわせてしまったのは、紛れもない事実なのよ!?」
「あの人は母さんって呼べる存在なんかじゃない。魔女なんだよ?」
「なんであろうと……、私が、この手で、やってしまったことに変わりはないの!!」
「でも、僕はそれで救われたし」

 その一言に、グレイは小さく息を呑んだ。

 確かに、ゼルを救うためにここに来て、行動に移した。後先など、結末なんて考えなかった。
 純粋にその気持ちだけで動いていたのだから。

「ありがとうグレイ。本当に、無事でよかったよ!」
「ちょっと、それ私の台詞なんだけど」
「お兄ちゃんは可愛い妹が心配だったんだから! これからは、無茶しちゃだめだからね?」
「……ゼルだって、隠し事はやめてよ。兄妹なんだから」
「はいはーいっと」

 へらへらと笑うゼルに、グレイも小さく口元を緩めた。

 そして二人は暖炉の火の始末をして、物置へと足を運んだ。
 真実の鏡がある、薄暗い場所へ。

 グレイは、年頃の女の子のように理想や空想に想いを馳せるのではなく、いつでも真っすぐに現実を見据えるようにしている。
 それがどれだけ厳しく、過酷な現実だろうと、目を背けるわけにはいかない。
 目を背けたとしても事態が良くなるわけではないし、それならば、しっかりと見つめて打開策を探した方がいいと考えている。
 感情に振り回されて、それも上手くはいかないけれど。

「教えて。義母さんは生きている? 生きているなら、林檎を映して」

 痛ましい姿の義母を直視する度胸はなかった。
 だから逃げの選択肢を用意した。

 ゼルは義母のことなど気にしないでもいいと言うが、気にならないはずがなかった。
 何年も義母として認識していたグレイは、そう簡単に切り捨てられない。それくらい、親愛の情は湧いている。

 だから、鏡が赤い林檎の実を映したときはとても安心した。

「ほら、気にしなくてもいいっていったじゃんか」

 ゼルがそう呟いていたが、グレイは聞こえなかったふりをした。
 これはグレイの感情的な問題なのだから。
 少なくとも、義母を本当に殺してはいなかった、と言うことに酷く安心した。
 勝手な正当化で、自己満足にすぎないがそれだけ分かれば十分だ。
 今、兄妹が揃っているだけで良としよう。

「ゼル、この鏡持って」
「いいけど、コレどうするつもり?」
「決まってるじゃない」

 グレイは右手でゼルの腕を掴み、左手で飾り紐を握り締めた。
 そして、何を当然のことを聞くのかとグレイは不適に笑った。

「雇用主への手土産よ」




 二人が突然現われても、半身を失った魔女は驚かなかった。

「うまくいったみたいね。おめでとうとでも言うべきかしら?」

 皮肉を交えたような物言いに、結末を伝える必要などはないと言われたような気がした。
 “魔具”による移動に、少し驚いていた様子のゼルから鏡を取り上げて、魔女の傍に置く。
 魔女にはそれがなんなのか一目で分かったようで、苦笑を漏らした。

「あんた、本当に持ってきたの?」
「使わないで物置に置いとくよりは、有効活用した方がいいと思わない?」
「人のもの勝手に使ったら泥棒よ」
「うちの物置にあったんだから、家のものに変わりないわ」

 グレイがそう言い切ると、魔女が思わずといったように吹き出した。
 多少の屁理屈ぐらい気にしなくてもいいではないか。
 グレイはそんな魔女を釈然としない表情で睨んでいたが、止めた。

「やっぱり、あんた嫌いじゃないわ」
「ねぇ、グレイを気に入ってくれるのは嬉しいけどさ。なんでグレイを家に寄越したの?」
「言ったじゃない。紅茶が美味しかったら考えるって。ちゃんと考えはしたわ」

 グレイの知らないところで交わされていた約束。
 ゼルはグレイを守ってほしいと頼んだのに、魔女は守るどころか義母に立ち向かわせた。
 それが気にくわないようだ。

「言葉遊びしてるわけじゃないんだけど」
「仕方ないじゃない。魔女は嘘を吐けないんだもの」
「うわー、自己保身? グレイ、こんな大人になっちゃダメだからね」
「大丈夫よ、私はゼルみたいな人にも絶対ならないから」
「グーレーイー…」

 嘆き声をあげてひっついてくるゼルを押しやって、グレイは面倒臭そうにため息をついた。

 これではまた魔女に“愉快な会話”と言われてしまうではないか。
 現に魔女は苦しそうに肩を震わせて笑っている。

「本当にもぅ……」
「それで? 用件がそれだけなら、さっさと帰りなさい」
「えっ?」
「え?」

 互いに驚いていたように目を丸くした。
 紫色と、灰色と、淡褐色の瞳がそれぞれの色を写している。

「僕たち、今日からここで働くんだよ?」
「え?」
「始めからそのつもりでここに来たって言ったじゃない」
「ちょっと待ちなさいよ。それ、本当に本気だったわけ!?」

 予想外の展開に魔女は思わず身を乗り出した。
 だが半身しかないその体では、上手くバランスがとれないようでぐらりと傾く。
 傍にいたグレイが慌てて支えることで、無様に倒れるなんてことはなかったが、それくらい魔女は驚いたらしい。

「“雇ってあげる”って言ってくれたでしょ。それは嘘だったの?」

 再びベッドに魔女を横たえながら、グレイは挑発的に魔女を見据えた。
 魔女は嘘を吐けない。
 それを分かって言っているのだから質が悪いと、魔女は小さく息をついた。

「そうね、雇ってあげてたわ」
「もちろん、衣食住付きのまっとうな仕事でしょ?」

 ゼルがにっこりと笑いながら言う。
 疲れたように呟いていた魔女だったが、相槌をうつ言葉に迷惑そうな感情はない。

「主にこの家の管理を任せるわ。二階の空き部屋なら好きに使いなさい」
「ありがとう! グレイ、頑張ろうね!」
「当然でしょ、ゼルは余計なことしないでよね」
「分かってるって!」

 子どものようにはしゃぐゼルと、大人びているグレイ。
 部屋から出て行こうとするその背に、魔女は思い出したかのように声をかけた。

「後でいいから、また紅茶を淹れてきてちょうだい」
「あ、やっぱりグレイの紅茶は絶賛だったでしょ!」
「否定しないわ。でも、今度は甘くしてちょうだい」
「分かったわ、ミルクティーにするわね」
「グレイ、僕も飲みたい」
「はいはい」

 甘そうなお菓子の家に住む紫色の瞳の魔女と、妹に甘えたがる淡褐色の瞳を持つ兄。
 灰色の瞳のようにどこか冷めた考え方をしてしまうグレイだが、こんな二人に頼られるのも悪くないと思えた。
 義母に対する気持ちの整理はつかないが、今は二人のために甘いミルクティーを淹れてあげよう。

 グレイは小さくため息をついて、仕方ないわね、とでも言うように小さく笑った。
 これからのことはまたじっくり考えようと、諦めにも似た気持ちで、グレイはミルクティーを淹れにその場を後にしたのでした。


Fin.

*淡褐色と灰色
メインはヘンゼルとグレーテル
サブメインは白雪姫
兄妹の絆を中心にしたシリアス風味
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