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「零れ話」
開拓者Online

トリックスターと少年

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「よし、じゃこれからお前にはここの区域の開拓を任せる」
「えっ」
「好きなようにしていいぞ。あ、食料とか薬草は育てて欲しい。師匠(マイスター)見つけて来たら、生産職適当に生やしてもらうから、とりあえずはこっちの管理頼んだ。じゃ」

 僕がぽかんとしている間に、言いたいことだけ言って主人は行ってしまった。
 任せるって言ったって……。
 ぐるりと主人の担当地区を見渡す。岩肌が剥き出しの山に囲まれたひび割れた地面。太い見たこともない植物……たぶん雑草だと思うけど……が力強く根を張って縦横無尽に生えている。赤茶の硬い地面を軽く蹴ると、足先がしびれた。
 ここを、開拓しろって、主人は言ってる。

「無理、だよ……」

 へなへなと座り込んだ。たった一人で、この地を開拓しろって、そんな無茶苦茶な。
 いくら無理だと思っても、主人は帰ってこない。ううん、帰って来られても、何もやっていないって怒られるだけなのは嫌だ。
 仕方ない、言われたことを少しでもやろう。
 小さな小屋にあった、庭の草を取るような鎌を手にして、小屋の周りだけでもきれいにしようとした。二つ目の植物の茎を切る途中で刃が折れた。刃が折れるほどの植物って……。
 からん、と鎌を落とした。すでに心も折れそうだ。
 仕方ないから鎌は諦めて、直接鍬で地面を耕すことにしようと思う。地面に、鍬が突き刺さらない。地面、硬すぎ……。
 ううん、僕が、ひ弱すぎるのか。
 自分の無力さに心が折れそうだ。手が痛い。全然進まない。どうしよう、どうしよう。





「あれ、全然進んでねぇじゃん」
「!?」

 帰ってきてしまった。主人が。
 全然変わっていないこの区域を見て、呆れた声色で予想通りの言葉を言っていた。

「ん? なんでHP減ってんだ? 出血ダメージ? ここ魔物でも出た?」
「で、てないです」
「えー、じゃなんでダメージ受けてんだろ?」

 手元の何かを覗き込んでいるかのようにして、主人は不思議そうに首を傾げていた。
 爪が割れてぼろぼろの手を握りしめて、溢れてくる涙をこらえらながら報告の言葉を絞り出す。

「ぼ、僕が、ふがいない、から……!」
「は?」
「僕の力じゃ、全然耕せないし、抜けなくて……! 全然、進まなくて……!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待ち」

 主人は慌てたように手元を捜査して、せわしなく視線を行ったり来たりさせている。それから何かが分かったようで、ああー、と深く納得したような声を出して、哀れんだ視線で僕を見た。

「ビルドエラーだわ」
「び?」
「いや、まだ職業決めてないから未遂か。失敗失敗、人間だからって確認しなかった俺が悪い。まさか筋力値こんなに低いと思わなかった。あ、子どもだから仕方ねぇってのもあるんだろうけどさー」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ、MPそれなりだし特攻そこそこだから、魔術師にして土属性魔法スキル取ればまだなんとかなるだろ。【土壁(アースウォール)】とか【掘削(ディグ)】とか。これでもダメならまた明日考えるわ」

 手元の何かを操作して、主人はまた軽やかにどこかに行ってしまった。主人は、どうしても僕にここの開拓をさせたいらしい。その意思は変わらないみたいで、それについては何も言わなかった。
 それにしても、職業の話をされるだなんて思わなかった……。それを選べるのは遠い世界の人の話で、僕なんかが選べるだなんて。

「魔術師、か」

 魔法が使える職業だったと思う。詳しくはよく分からないけれど。
 でも、もし今魔法が使えたら、この土を少しでも耕すことができるのかな。血だらけの手を見つめて、それからひどい状態のこの開拓区域を見た。
 魔法一つで耕せたら、魔法一つで非力な僕がなんとかすることができたら、そしたら、どんなにいいことだろう。
 ぼんやりとした気持ちのまま、ぺたりと座り込む。地面に手をついた。

 もしも、この硬い地面を自由に動かせたら。

「【土壁(アースウォール)】」

 なんてね、と続けようとしたけれど、突然がくりとお腹の中心から何かが抜けて行った。な、なんだろう。地面についた手から、何かが抜けて行く。ずん、と身体が急に重くなったような感覚に震えると、目の前でズズズズ、と音を立てながら小さな凸が盛り上がっていた。

「……え?」

 無理やり地面から剥いだ地面を無理やりつなぎ合わせて作ったような歪な形のそれ。僕の非力な力じゃびくともしなかったのに、主人が言っていたスキル? を言ったとたんに何かが動いて、それを造った。
 どんな、力なんだろう? もしかして、これが魔法なのかな?
 ああ、でも、なによりも、こうして。
 僕にでもできる方法があった、ってことが純粋に、嬉しい。

 ぽっこりと浮かび上がった地面の周りはくぼんでいる。耕すために、地面を少しは柔らかく出来るかな。
 少し休んだら、少しずつやっていこうかな。





「おー、進んでる進んでる。でもちょっと種植えるには荒いんじゃねぇの? 知らねぇけど」
「あ、の」
「うん? 水の場所? 小屋の近くにあるんじゃね? うーん、なんか荒れ地とかでも育てられる種とか、生命力強い薬草とか買ってみるかー。装備買う時に一緒に売ってるといいんだけどなー」
「あのっ!」
「ん? だからなんだって?」
「壊して、もらえませんか……っ!」

 一方的に話す主人の言葉を遮ったことで、何か言われるかな、と心の中ではすごくドキドキしたけれど。それでも、言った。
 僕の非力な腕と魔法ではできないから。主人が言うように荒い畝もどきを一度壊してもうちょっと細かくしてもらいたくて。

「あれを? いいのか?」
「お願い、します」
「ん。分かった、ちょっとどいてろ」

 主人はそう言って、背中に背負っていた大きな盾を構えて、地面に擦り合わせるようにして前に突き出した。

「【盾衝撃(シールドバッシュ)】」

 ずざ、と大きな土ぼこりを立てて鋭く前へと突き出した、と同時に僕が一日かけて作り上げた畝もどきを衝撃破が崩していく。
 ああ、とどこか残念な気持ちがあるのは否めないけれど、これで少しはいびつな形じゃなくなるかな、なんてそんなことを思った。

「うへぇ、初心者装備盾とは言え消耗するなあ。これどんだけ強い土なんだよ、笑える」
「ありがとう、ございます」
「ん。まあ、丸投げしてるし。地道に頼んだわ、担当開拓地管理人くん」

 はい、と返事をしようと口を開いたけれど、うん? 今、不思議な言葉が聞こえたような?
 聞き返そうとしたけれど、その時にはもう主人はいなくなっていて、まあいいかと今日は鍬を持って、ちゃんとした畝を造ろうと手を握った。
 血はもう、止まっていた。





 その後も主人は僕に担当開拓地は任せたままだった。そりゃあまあ、所属国への納付分についての時はさすがに指示が出てきたけど。
 主人は、手助けと言うスタンスを貫いていて、基本的に開拓については手を出さない。小屋から出てきたときにちょこっとだけ顔を出して、買ってきた物を置いて行ったり、土地の開拓具合を眺めたり、時々ちょこっとだけ手伝ってくれたりするだけ。
 いつも、そんなに長い時間じゃない。

「なあ、珍しい種あったから買ってみたぞ! ていうか、ぶっちゃけいっぱいありすぎてよく分かんなかったから、とりあえず一種類ずつ買ってみた! なんかよさげなのがあったら報告な。また買ってくるわ」

 あと、わりと収集家の癖があるみたいで、とりあえず買ってくる。これ何処で使うんだろう? ってもので小さな小屋は溢れている。僕は最近小屋の脇にある軒の下で寝てるけど、主人は一体どこで寝ているんだろう。
 あと、それ以上買ってくると本当に置き場がなくて困るんだけど、どうするんだろう、なぁ。

「課金は家賃まで。課金は家賃まで。ただしボーナス月は別。よし、契約の指輪もう一個買おう。諦めたらそこで試合は終了だ、契約してやんぞこら」

 ちょっと前では、幻獣契約に力を入れすぎて、短期間で何度もボロボロに帰って来ていたっけ。ちょっと、主人の無謀な挑戦に心配になって、回復薬の素になる野草を多く育てていた。
 ここの地盤はあんまりものを育てるのに適していないから、畝を造ったのは少しだけ。それでも八分の一くらいの面積はあるけどね。
 それから、主人が好きにしてもいいって言っていたから、第十七地区の中心部に行って、建物建設の依頼をしてきた。本当に、どこにあるんだろうね、お金。いや、外で稼いでいるのだとは思うけど。





「管理人くん!」
「は、はい」
「あの建物の……四倍くらいの大きさの倉庫を建ててもいいかな? ついでに今あるのと同じくらいの大きさの建物が二つくらい欲しいんだけど!」
「……倉庫、をですか」
「そうそう。一つは完全に収納倉庫ね! もー、置く場所なくてさー。で、掲示板観たら倉庫機能あるからそっち使えばいいんじゃね? って目からうろこだったわー、常識だってのにうっかりうっかり。で、もう二つは美術館的な! 酒場的な! 副収入って大事だよね! いや、酒場はお姉さんに冷たくあしらわれたいっていうデフォルトを体験してみたいって、唐突に思ったからなんだけど!」

 興奮している主人の言っていることは、ちょっとよく分からない。
 ただ、元々は主人のものだから、僕に断るなんてことはないんだけど。主人は時々そのことを忘れているみたいで、ちょっと困る。

 倉庫は主人が言う通りに造ってもらったけど、美術館? は僕の意見も入れてもらった。集客を見込むのなら、主人のアイディアはちょっとぶっ飛びすぎていてたぶん、普通の人は引くと思ったから。酒場についても、普通の造りで、と念を押しておいたから大丈夫だと思うけど。
 主人の収集品を飾ると言う、少し変わった美術館は、主人と同じような開拓者たちがそれなりに訪れていた。展示品の前で嘆いたり膝から崩れ落ちたりもしていたけど、譲れとか言う嫌な人はいなかったから良かった。

「そんなの当然でしょ。広く公言してないし。あと俺の広いようで狭くて浅い付き合いのフレンドさんは、皆マナーはそれなりだし。あ、いや、べ、別に友達いないわけじゃないし! てか、クレクレする馬鹿は大っ嫌いだしね、俺」
「クレクレ?」
「人の物をちょうだいちょうだい、と揺する厚顔無恥のこと」
「あー」

 確かに、それは僕も嫌だなぁ。主人はだろ、と軽く肩をすくめて今日も今日とて外へと行ってしまった。
 最近の主人は、ちょっと楽しそうに外に行ってる。何か面白いことでもあったのかな。第三の倉庫が増えなければもう、何も言わないけど。難しいかな。





 上機嫌な主人は、しばらくしてから、神妙な顔をして僕を呼び出した。

「なー、管理人くん」
「はい、どうしましたか?」
「物は相談なんだけど、ギルド……じゃない、ええとここでの呼び名は……開拓党か。開拓党にな、入ろうかと思うんだ」
「開拓党、ですか。開拓者たちが同じ志を目指す集まりとして組む党団でしたよね?」
「そうそう、それそれ」
「いいんじゃないですか。ちなみに、どこの党団へ?」

 第十七区の中心部に買い物に行くことが増えたから、なんとなくだけど開拓者たちの言葉は耳になじんでいる。大きな開拓党とか、名前を聞けばああ、あそこねーと言えるくらいには。
 主人は、何処に入るんだろう? それによって、何か変わるのかな?

「《ハーヴェスト》。って言っても、俺ともう一人しか所属しない小さな個別党団なんだけどな」
「うん?」
「で、どうせだから共同開拓しようぜ、って話になって。ここと相手の開拓地をつなぐゲートを付けようぜ! って話まで進んでる。一回相手のとこまで行って、管理人くんが合わねぇなーって思ったなら繋ぐのはやめる。党の所属はするけどさ」
「僕の意見なんて」
「ここの管理人はお前だぜ。俺は全部丸っと任せてんだ。お前はいわば領主みたいなもんだ、さてどうする?」

 主人は、最初からそうだった。
 最初から全部、全部開拓区域についての提案はしても、決定は僕にゆだねていた。選択肢の提案と、最低限の希望を伝えて、あとは自由。困った主人だなぁ、なんて思ったこともある。命令してくれれば楽なのに、とも。
 少し悩んだけれど、僕の答えは一つしかない。

「じゃあ、お受けします。繋ぐ場所を決めるのも兼ねて、一度訪ねさせて下さい」
「マジか! いやー、良かった。相手の子たちもいい子でさー、これで気兼ねなく会いに行けるわー! 管理人くん様々ー!」

 主人。結局は僕は貴方を中心に動いているんですよ。
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