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「零れ話」
開拓者Online

囚われる人魚姫

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「おや、海の民(マーマン)を引き当てるとは珍しい」

 へ? と間抜けな声を画面の前で出した私は、クリックする手を止めた。
 チュートリアルをしてくれているおじさんの背後には、初回無料ガチャの結果が表示されている。驚いた表情のおじさんの言葉に、これ特殊分岐後の台詞にあたるんじゃないかって、なんとなくそんなことを思った。
 二窓にしている攻略サイトを慌てて前面に出して、検索を掛ける。
 待って、海の民って、何。ちょっと待って、そんなのデータにないよ。
 初回ガチャの排出結果一覧を見ても、海の民と言う項目はない。ベータテストの内容まで遡っても、ない。バグじゃないの? とも思ったけれど、ただ単にレア度が高すぎて排出記録がまだ乗っていないのか、情報提供をされていないのか。その可能性もあると思いなおして、もう一度ゲーム画面へと戻す。

 不思議な黄色の瞳孔が開いたままの瞳。初期装備の貫頭衣から覗く薄水色の肌には、鱗が見える。顔の部分には斑に鱗があるだけで、手足にはびっしりと生えている。耳がある部分には大きな魚のエラが生えていて、ぱたぱた、と動いていた。
 男の子、だろうか。歳は、中学生くらい? 女の子のような丸みを帯びた柔らかさが、体格に全然見られない。ざっくり切られた深緑色のような、深藍色のような……深海の色した短い髪が何故だかすごく気になった。
 と、とりあえず基本情報画面を開いて、確認。それからスクショも撮っておこう。どうするかは、それから考えよう。
 海の民、と。詳細画面を開く。

『人と魚の遺伝子を両方引き継ぐ古来からある種族の一つ。海中での生活を基本とするが、地上でもある程度同じように行動することができる。人と同じような相貌をする者もいれば、完全に足が魚のソレの者もいる。
 寿命はその魚人の血によって様々。同様に、その能力値の高さも魚人の血の濃さが関係してくる。
 湿地帯や水源地ではないと本領発揮できないという面もある。水の守護を受けていることもあり、彼らが作り出す妙薬等の錬金術や調合術の高さは頭一つ分抜けている。水龍信仰』

 うん、なんか扱いにくそう。癖が強いからレア排出でも選ばない人が多いのかな……。
 おじさんが、再度選択しますか? と選択肢を出している。リセマラできるんだ、とほっと息をついてからもう一度基本情報画面を見る。
 どう、しようかな。大体高レートの子が最初から引ける事なんか滅多にないし……なんだか、もったいないって気もする。

『NAME:シュウ ♂ 種族:海の民』

 いい、か。
 名前も普通っぽいし、これなら覚えられる。
 さっき決定したキャラメイクで、大体のプレイスタイル決めたけど、戦闘重視するわけじゃなくて、生産スローライフをのんびりするつもりでもあるし。
 そう考えれば、錬金術や調合術が高いのって逆に好都合じゃないかな。地上での能力半減のデメリットもあるけど、でもそれがなければ逆に心強い存在なるってことだろうし。

 リセマラ、しない。
 情報がないのなら、私が情報提供者になろう。そう割り切って楽しめばいいんじゃないかな。うん、おじさんの問いにはいいえで応えて、彼……シュウくんを、助手のポジションにする、にはいで応える。
 最悪、課金すれば他にも何人か小作人と言う形でガチャ引けるし、突発的イベントで低確率でも人数増やせることが分かってるし。

「では、海の民である彼の為に、貴方の割り当ての場所は少し手を入れましょう」

 うん?

「何、これは私からの好意的なプレゼントです。いやあ、丁度いい場所があってよかった」

 ちょっと、待って。

「では、これで基本設定のチュートリアルを終了します。よき、開拓者ライフを」

 引っかかる言葉に、最後のクリックする手を止めて、ログを見返す。嫌な予感がひしひしとする。
 確かに、私が選んだ所属は直接民主制(イグルシアン)だ。洋風の場所がいいなってそれだけの理由で選んだ。だって、初期装備が簡易ドレスになる特典があるし。
 でも確か、攻略サイトには、ここまとめてるのは貫禄ある男性……名前忘れたけど、プレイヤーからの愛称は腹黒狸、だ。





「やられたー!」

 基本設定のチュートリアルを済ましたプレイヤーの初ダイブ先は、割り当てられた開拓地区となる。ゆっくりと意識を覚醒させた彼女は、小さな小屋の前で愕然と叫んだ。
 プレイヤーハウスの基礎となる小さな小屋は、共通するものとして事前知識から認識していた。だが、これは、ない。
 膝から崩れ落ちた彼女の前に広がるのは、白いサラサラとした砂浜。そして、青い海である。
 担当開拓地区の区切りを示すかのように、両側には岸壁がそびえ立っており、穏やかな波が寄せては引いている。プライベートビーチのように遠浅になっていることを期待しても、深い青色を見ればそれも無駄でしかないことが分かる。

「薬草とか、食料とか、育てようと思ったのに……。地面……地面がないとか、嘘だ……」

 項垂れる彼女の傍に、ぽつん、と静かに立つ彼は、ただ黙ったまま彼女を見下ろしていた。
 一通り嘆いた彼女は深く深くため息をついて、それからゆっくりと起き上がる。もう一度辺りを見回して、それから初めて彼に気が付いた。

「あ。え、ええと? シュウ、くん、だっけ?」

 こくり、と頷く。

「ち、地上にいるの辛ければ、いいんだよ。海の中にいても」

 彼は、無感情な目でただ黙って見つめ返していただけだった。反応がないことに戸惑いながらも、言葉が返ってこないことに正確な命令じゃないと言葉が返ってこないものなのかと解釈した彼女は、視界の端で点滅している初心者クエストを選択しながら、あの腹黒狸め、と唇をかんだ。
 動きやすいドレスだって、畑仕事には向いていない。それでも可愛いから選んだ女心には代えられない。それは、納得の上での選択だからいい。
 だが、これは別だ。彼の為、と言いながら、開拓難易度が高いと言われている海岸を押し付けられるなんて!

「いいんだ、人との関係を全部なくしたくて、ハワイに行きたいような気持ちでログインしているんだから! 非日常大歓迎だよ!」
「?」
「人と関わりそうにないここ、大歓迎だよ! もう、絶対居心地が良すぎて外になんか頼まれたってでないような場所にしてみせる! 陸の上でも、海の中でも!」

 破れかぶれだ、と両手を高々と挙げて宣言する彼女に、シュウは不思議そうにこてんと首を傾げた。

「外部URL引っ張って来れる仕様ありがたいよね! わかめ農園でも塩の精錬も、あと養殖とかもやってやるー! 教えてウェブ上の物知りさーん!」

 やけくそに叫ぶ、彼女は知らない。

「人、嫌い? 海の中でも、いいんだ?」

 ふぅん、と小さく呟いた、シュウの含んだ言葉の意味など。

 海の民に海中へと連れて行かれた、『囚われの人魚姫』と後にそう呼ばれることになるとは、この時の彼女は予想ですらできなかった。

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