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「Hazel amd Gray」
橙色の灯火を

07 夢幻

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「いつか君を迎えに行くから、それまで待ってて」

 あぁ、これはキミを見た最後の日だ。

 忘れなんかしない。
 衝撃的過ぎて、今でも忘れられなかったくらいだもの。

「約束する、絶対戻って来るって」
「本当に? 本当に戻って来てくれるよね?」
「本当だよ。だから、僕のこと信じて待っててくれる?」

 真っ直ぐ向けてくるその瞳に、嘘なんかないって思ってた。
 キミは嘘を吐くと視線が泳ぐから、間違いなんかないって思っていたかった。それをずっと信じていたかったのに。

「待ってる。ずっと、キミのこと待ってるから……!!」
「それじゃ、約束」

 すっと差し出された小指。
 そのときは、わたしもキミを信じて小指を絡めたんだ。

 “指切り”って言う、約束を交わす儀式。
 小指と小指を絡めて、約束を守る誓いの歌を口ずさむ、絶対の誓い。

「指切りげんまん 嘘吐いたら
 針千本のーます 指切った!」

 ねぇ、本当に約束を守ってくれるんだよね?
 わたしのこと、迎えに来てくれるんだよね?
 キミは、無事に帰ってきてくれるんだよね……?
 死んだりなんか、しないんだよね……!?

 伝えたくても、言葉に出せなかった。キミに言えなかった。
 臆病なわたしは言えなかった。心の中だけでしか叫べなかった!

 絶対の約束だって誓ったから、それをずっと信じてたんだよ。
 信じてたんだ、どんな現実を突き付けられたとしても。

 信じるのが苦しくて苦しくて仕方なくても、わたしは信じてたんだよ……!!

「待ってるからね……、ずっとずっと」
「うん、絶対迎えに行くから、それまで待ってて」

 待ってたよ、キミをずっとずっと!
 わたしはキミと交わした約束を守って、待ってた。

 でもいつまで、いつまで待ってればいいの……?
 キミはいつになったらわたしのところに来てくれるの? 帰ってきてくれるの?

「そんな顔しないで。指切りした約束は、ちゃんと守るから」
「……信じてるからね。信じて、待ってる」
「ありがとう」

 守るって、言ってくれたじゃないか!
 わたしは信じてるって言ったじゃないか!

 約束を守って、今すぐ迎えに来てよ……!!
 思わず、記憶のなかのキミに手を伸ばした。

 その瞬間、光が消えた。

「あ……っ!!」

 記憶のなかのキミも、過去のわたしも、消えてなくなってしまった。
 何も見えなくなった。

「……だっ、……まだ……っ!!」

 まだキミは帰ってこない。
 消えてしまうキミなんか見たくない。

 まだ約束を守ってもらってないんだ……!

 シュッと、また火が灯るような音がした。
 それから、橙色の光に包まれて、眩しさに思わず目を閉じた。

 ゆっくり目をあけると、辺りは奇妙なほど静まり返っていた。
 少し明るい五番街を歩く人影はない。雪は止んだみたいだけど、辺りを包む霧が遠くまでは見通させてくれない。

「……」

 足元に散らばる折れたマッチ棒。
 空になったマッチ箱と、何も入っていない籠。

 重かった体は嘘みたいに軽くて、それでも動く気にはなれなくて、わたしはぼんやりと座り込んだままでいた。

 コツコツと、誰かの足音が石畳を反響する音が聞こえる。
 ゆっくりと、規則的に聞こえるその足音に耳を傾けながら、ほぅと息をついた。

 今まで見ていたのはなんだったんだろう?

 きっと、夢だったのかもしれない。
 キミにそっくりな人に仕事を止めたほうがいいだなんて言われて、ショックでキミの姿を見ようと自棄になってたから。
 それから、疲れて眠っちゃったんだ。
 寒い街中でよく寝れたな、なんて。

 キミが帰ってくるまで待ってないといけないのに。

 コツコツと聞こえる足音は、こっちに近づいてきているような気がする。

 わたしの側を通り過ぎたら、わたしも立って家に帰ろう。
 出しっぱなしだったココアを温め直して、キミの帰りを待ち続けよう。
 そう決めて、わたしは足音が通り過ぎるのを待った。

 コツコツコツコツ……

 空っぽになったマッチ箱を見て、新しいマッチ箱を買わなくちゃななんて思った。
 今日もわたしのことを待ってる人たちがいるんだから、彼女たちに夢を売りにいかなくちゃ。

 コツコツ、コツ……

 足音が、止まった。
 通り過ぎるのかと思ったけど、そうじゃない。
 わたしのすぐ側で止まったんだ。

 不思議に思って視線を向ける。
 その人のところだけ、霧が晴れているような気がした。

 足元から、ゆっくりと視線をあげていく。
 薄手のコートを着て、ライトブラウンの少し跳ねた短髪で、並ぶとわたしが肩くらいになる身長で、少したれた目尻の、人のよさそうな顔の―…

「……迎えに、きたよ」
「……っ!!」

 キミが、そこにいた。
 わたしがずっと待ってたキミが、そこにいたんだ……!

 息が止まった。
 夢かと思った。幻かと思った!

 消えてほしくなくて、わたしは勢いよくキミに抱きついた。

「わっ!?」

 驚いたキミの声ですら嬉しくて、愛しくて。
 なにより、抱き締めてくれるその腕の温もりも、わたしが抱きついているキミも消えることなんかなくて……!!

「おかえり……!!」
「……ただいま。待たせちゃって、ごめんね」

 ただいまと返ってくる声を聞くのは、どれくらい久々だろう。

 キミが帰って来てくれたことが嬉しくて、待ってたわたしは間違ったわけじゃなかったって、そう思わせてくれるこの温もりが心地よくて……。

「ずっと待ってたんだよ……」
「ありがとう。約束を守っててくれたんだね」
「だって、キミも守るって、言ってくれたから……!」

 キミのことを嘘吐きって言ってしまったくらいに不安だった。
 それでも待っていたんだよ、信じてたんだよ。

 キミが帰ってくるまで、ずっとずっと……!

「……そんな顔しないでよ、きみに泣かれるのは困るんだけどなぁ」
「ごめんね、嬉しくて……」

 そっとわたしの涙を優しく拭ってくれたキミの指に、新たに涙が溢れてくる。

 本当に困ったように笑うキミは、わたしが待ち望んでいたキミで……。

「約束、守ってくれてありがとう」

 あの日返せなかった笑顔を浮かべた。
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