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「零れ話」
幸運少女

そのに。

 ←そのいち。 →そのさん。
 意味が分からないときって、とりあえず本能に忠実に動くの。これって真理じゃない?
 だから、前触れもなく突然知らない場所に居て、目の前に小さな男の子が縋るように手を伸ばしてきたら、まあ、とりあえず掴むじゃん? その子が女の子かな? って見間違えそうになるくらいに可愛かったら、まあ、見とれるのも当然じゃん?
 ただ、その子が意識を失うように倒れたとか。扉をぶち破って入ってきた誰かがめっちゃ戸惑ったようにこっち見てるとか。あの、さ。
 誰か説明プリーズ!

「お前、何をした……?」

 威嚇バリバリなお兄さんが訝しげな声で聞いてくるけど、アタシも知らないからね? 聞かれても答えられないんだからね?
 銀髪ツンツンの眼鏡掛けたインテリお兄さんだけど、なんで剣持ってんの? 背中には羽生やしてるし、コスプレ? 軍服っぽいの着てるから、なんかのキャラクター? ハロウィンでもオタクの祭典でもないはずだよ、今日は。

 気を失った少年の手を握りながら、こてんと首を傾げた。座ったままお兄さんガン見してるんだけど、お兄さん戸惑ってて目がキョロキョロしてる。めっちゃ動揺してるのが分かるんだけど、落ち着けお兄さん。
 まあ、うん。アタシも大概図太い性格してるなってのは……分かってるから敢えて何も言うな。

 お兄さんは混乱している。手を握った少年は気を失っている。アタシは……まあ、戸惑っているけど表には出してない、はず。大丈夫、見栄張るのは得意だ。
 表面上は落ち着いている素振りで、ぐるりと辺りを見渡す。
 なんだか室内に台風が通り過ぎたみたいに、ごっちゃごっちゃに散乱している。黄ばんだ紙はあっちこっちに散らばって、折れたりぐしゃしゃになって物に張り付いてる。小物という小物はなぎ倒されて、いくつか瓶が割れてるし、倒された机に大きなシミを作っていた。
 薄ら緑掛かった壁紙は、なだらかな弧を描いてドーム状の室内を包んでいる。薄墨色の羽根がいくつも舞っているのを見て、これ後片付け大変そうだな、なんて思った。

 いやぁ、しっかしおかしな話だ。
 アタシはさっきまで部屋でゴロゴロしていただけのはずだ。自分の部屋で、完全に気を許していた。その証拠に、ボサボサの髪は下ろしたままだし、だるだるに伸びたスウェット姿。いやー、これ、完全に外出る気なかったから、本当に人様にお見せできるような格好じゃないというかなんというか。もうちょっとちゃんとしている時の格好で頼むよ、なんでこの格好で人前に出てなくちゃなんないんだ。拷問か。
 とりあえず、なんか知らないけど、部屋に居たはずのアタシは、ここで少年の手を取ってるって話だ。いつの間にか寝たのか知らないけど、まあ、夢を見てるのなら直に目覚めるでしょ。目覚めようと思えば殊更に目覚められない。そんなもんだ、夢って。

 さて、と。
 少年を見下ろす。ふわふわなクリーム色の巻き毛。閉じられた瞳を縁取るまつげ長いな。すべすべの肌にぷにぷにのほっぺは羨ましいなって思うけど、その色が青白いのが心配だ。繋がれた指先が冷たい。
 これは、ちょっと不味いのでは……?

「あの、この子の手当……」
「あ?」

 何言ってんだコイツ、みたいな顔してんじゃない。見ればわかるでしょ、見れば。
 繋いだ手を掲げて、気を失っている少年をチラリと見る。

「不要だ、どけ」
「無理。離れないし」

 いやぁ、ね?
 がっちりと捕まれてるのよ、手。放すもんかってこっちの手が白くなるくらいにがっちり。
 アタシとしてもそろそろ手の感覚がなくなってきたから、放して貰えると嬉しいかなーとは思うんだけどね? なんかこう、泣きそうな顔で伸ばしてきた手をとった身としては、外していいもんかと思っ……おいこら。
 そんな無遠慮に、力任せに外さないの! そのちっちゃい指が折れたらどうすんの!
 いやまぁ、外れたなら手は抜くけども!

「どけ。いつまでそこにいる」
「ちょ、わっ!?」

 ちょっと言い方! 文句を言おうとした途端に突き飛ばされて、壁際に倒れ込んだ。
 こんな女子力皆無な姿でも、一応女の子だぞアタシは! 女の子突き飛ばすなんて最低だな!
 痛い、と小さくこぼしながらも身体を起こす。ビリ、と下敷きになった紙が破ける音がしたけど、まあそれは仕方ないよね!
 理不尽な夢だ。夢なんて、大概理不尽で意味分かんないものだけど。

「ラック。ラック、起きれるか?」
「んぅ……」
「最低限の魔力供給はした。意識は?」

 部屋の中心に近い位置で、彼らが顔を付き合わせている。近いな、アレ。チューしててもおかしくない位置だけど大丈夫?
 床に描かれた滲んだ魔方陣とか、二人の背中に生えてる羽とか、これはあれかな。魔法の世界的な? 天界的な? そういう設定なのかこの夢は。寝る前に何見てたっけ、なんてぼんやりと思いながら胡座をかく。
 この格好なら、まあ、気を使う必要ないか。猫かぶって女の子女の子しても、気にするのはアタシだけだろうし。

 完全に傍観の姿勢でいたのだけど、目を覚ました少年が慌てたようにして飛びついてきた。

「消えないで……!」
「はい?」

 這うようにしてお腹へと腕を回して、ぎゅうぎゅうとしがみついてくる。即座にお腹へこませたアタシ偉いと思う。やめろそこは、贅肉の塊なんだ。
 空気を読んで振り払いはしないけど、キリリと背筋が伸びる。

「いなく、ならないで」
「うん?」
「やっと、やっと手に入れた……」

 擦れた声でよく聞き取れないんだけど。
 まあ、アレでしょ。可愛い子に縋り付かれて悪い気はしないよね! ふわっふわな髪を撫でて落ち着かせようかな! やだめっちゃ手触り良い。
 ……鋭い視線の突き飛ばして下さりやがった男のことは、とりあえずガン無視でいいよね? いいともー。

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