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「Hazel amd Gray」
猫の瞳は琥珀色

05 目的地

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「無事、うまくいったようで何よりだ」

 上機嫌なアンバーは、グレイの腕から抜け出して己の足で歩いている。
 控えの間から謁見室へと繋がる螺旋階段を、二人はぐるぐると上った。見張りの兵はなく、代わりに恐らく魔具であろうものが等間隔に設置されている。
 下手なことはできないが、人の目が無いことにグレイはひどく安心していた。

「ここには、見張りの兵がいないんですね」
「あぁ、王太子殿下の執務塔だからな。兵は基本的にはいない」

 不思議そうな顔で首を傾げたグレイに、言葉が足りなかったとアンバーは片目を微かに細めた。

「アウトキリアの国民ならば、一度は耳にしたことがあるだろう。王太子殿下は、魔法を使える、とな」
「魔女とはまた別の、稀有な魔法の使い手である、王太子様。でしたっけ? ただのお伽話じゃ?」
「いいや、それは事実だ。別段隠すようなこともない、事実であって、真実だ」

 それならば、ヴァイオレットと同じような存在なのだろうか?
 魔女のように狡猾で、嘘が付けない存在だと?
 そんな存在が、この国の王太子だと?

「私の雇い主みたいな制約で縛られた王太子様だとしたら、外交は大丈夫なのかしら?」

 思わずと言ったようにこぼした言葉に、案ずるでない、とアンバーは軽く笑った。

「魔女とはまた別の存在だからな。嘘が付けない制約などない」
「……それはよかったです」
「それと、さっきの問いだが……紫色の魔女に、護衛が必要か? という問いの答えと同じだ」
「あぁ、そういうことですか」

 紫色の魔女に護衛が必要か、と問われれば、答えは否だ。
 彼女なら、護衛が手を出す前に己の魔法で一蹴してしまえるくらいの力がある。本来ならば、こうしてグレイたちの力を借りる必要もないくらいに。
 それと類似している力を持っているのならば、なるほど、兵など必要ないだろう。
 納得仕掛けたグレイに、まぁ、喚ばれればすぐに駆けつけられる位置に待機はしているがな、とアンバーは補足を付け加えた。
 ついでとばかりに、グレイはもう一つ、気になっていたことを問いかけてみようと口を開いた。

「もう一つ気になってたんですけど、カラバ侯爵って何者なんですか?」
「……何者と言うには複雑で、うまく言葉が見つからないのだがな」

 アンバーは少し悩んだ後、ポツリと呟いた。
 伝説だ、と。

「伝説?」
「うむ、彼は口先一つで爵位を会得した人物だと言う」
「それってただの詐欺師じゃないですか」
「そうだろうな。だがしかし、彼の口先一つで紛争を一つ回避し、尚且つ各地区に領地を手にした程と聞く」

 すごいことだと思わんか?
 どこか感心したように頷くアンバーに、グレイは同意しかねた。
 どうしてそんな大きな嘘を見抜けないのか。
 また、どうしてそのような人物に敬意を払うのだろうか。
 グレイのようなただの平民には理解できないものがそこにあるのかもしれないが、それでも簡単に頷くことなどできない。

「真面目に働いているのを、嘲笑っているみたい」
「そんなことはないと思うぞ。口がうまいのも立派な才能だ、特に大きなものに立ち向かう場合はな」

 ポツリと呟いたグレイの言葉に、先を歩くアンバーは少し振り返った。
 アンバーが言う“大きなもの”が何を指しているのかは、グレイには分からなかった。だが、含みあるその言葉に直接問い掛けるなどと言うことはできない。
 答えを返されたとしても、きっと理解できないだろうから。

「カラバ侯爵は、グレイとよく似ていると私は思うぞ」
「……それ、褒めているんですか?」
「もちろんだ。軍事大臣にあのように堂々と立ち向かえるとは、正直思ってなどいなかったからな」

 ぐるぐるとした螺旋階段を上るのに疲れたグレイは、壁に手をついて大きく息をついた。ゆっくり深呼吸をして、激しく脈打つ胸を落ち着かせる。
 少し先でちょこんと座り待つアンバーを見上げて、腰の膨らんだ女官の服を意味もなく整えてから、重い足を持ち上げ再び歩きだした。

「私が二人を錯乱させる必要もなかったようだ」
「でも、正しい判断を下させないようにするには、必要だったと思います」
「だが、私はそなたを見くびっていたようだ。グレイは機転が利き、賢く、物怖じしない素晴らしい女性だ」

 手放しに褒められて、グレイは反応に困った。猫に褒められても嬉しくない。いや、実際は猫ではないらしいのだが、それでも少し複雑だ。
 でも見くびっていたのは、私も一緒なのよね。
 猫に何かできるわけでもないと、自分でなんとかしないといけないと考えていたのだが、アンバーは猫の姿でも頼りになったのは事実だ。カラバ侯爵だと囁き、彼らの疑いをあっさりと回避し、冷静な判断を下せないように場を混乱させた。
 ただの女官がすんなりと謁見室に行けるはず無いのだが、彼はそれを可能にした。この国の琥珀騎馬隊隊長を名乗るだけの実力は、猫になっても消えるものではないらしい。

「私が元に戻ったあかつきには、是非とも我が隊に入隊しないか?」
「私、ただの平民な上女なのでお断わりします」
「……カラバ侯爵と似たような断り方をするのだな」

 仕方ない、と困ったような声でそう呟いたアンバーに、グレイは小さく肩をすくめた。

「カラバ侯爵に失礼じゃありません?」
「勝手に名前を使うことか?それともそなたと一緒にしたことか?」
「両方です」
「案ずるな、カラバ侯爵以上に失礼な者はいない」

 その言葉に曖昧な言葉を返したグレイは、アンバーが軽快な足取りで階段を駆け上がるのを目で追った。視線を上に向けると、階段が平らな床に変わっている。
 やっと、長い螺旋階段が終わるのだ。
 一つ深く息をつき、グレイはアンバーの後を追って階段を駆け上がった。目的の人物がいるであろう謁見室に向かって。
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