FC2ブログ

「Hazel amd Gray」
緑色に口付けを

05 夢幻と彼

 ←04 白鳥の娘 →06 運命の短剣

『君は、誰なんだ……?』

 あぁ、またこの夢。
 ジークフリートさまがアタシを“知らない”夢で、現実。

 甘い夢に酔っていたいのに、この後の展開は分かってる。
 いつもと同じだもの。
 ロッドバルトが現れて、ジークフリートさまを絶望に突き落とすのよ。絶望するのは、アタシもだけど。

 だって、アタシの大好きなジークフリートさまにあんな目で見られるんだから……!
 鋭く抉りとられそうな視線で!
 アタシをっ! 愛シテルって言ってくれたのに……!!
 憎々しいと、そうアタシを見るなんて……っ!

 早く起きなきゃ。抜け出さなくちゃ、こんな夢から!
 胸がじくじくと痛むこんな過去の記憶なんか、忘れてしまいたいのに……!!
 早く起きなさいよ! 目を覚まして、体を起き上がらせて!
 たったそれだけのことを、早く!

 早く……っ!

「おい、大丈夫か?」

 必死になったかいあってか、バチリと目を見開いた。

 のに!
 目の前にうつる緑色に、荒くなった息を整えようとすることも忘れて、アタシは思いっきり叫んだ!

「っいやぁあああああっ!!」
「ふぎゃっ!?」

 ぶんと振り払って、ベッドの上から叩き落とす。
 何考えてんの!? 何してんの!?

 林檎の爽やかな香りを放って、音を立てて人間の……ジークフリートさまそっくりの姿に変わったけど、今はそんなことどうだっていいわ!
 だって信じらんない!

「アンタなんで乙女の寝室に勝手に入ってきてるわけぇえっ!?」

 しかも、アタシ寝てるのにベッドに上ってきて、あまつさえ人の目先にいるなんて……!!
 信じらんない! デリカシーってものないの!?
 想像しても見なさいよ!
 起きたら目の前にカエルがいるのっ! 緑色のっ、ぬめってるっ、カエルがっ! 目の前にっ!!
 いやぁあっ、信じらんないっ!!

「っ、たぁ……。お前、何するんだよっ!?」
「それはこっちの台詞よ!!」
「うなされてたから起こしてやっただけだ! 感謝されるのは分かるけどな、吹っ飛ばされることした覚えはないっ!!」
「してるでしょ現在進行形でっ!! 何勝手に乙女の寝室に入ってんの!?」

 元に戻った! と頭をさすりながら今更そんなこと言うカエル男に叫び付けて、アタシはネグリジェを隠すように布団を肩口まで引き上げた。

 あり得ない! 本当になんてことしてるの!
 とか、続けて口走ろうとしたけど言葉が出てこなかった。
 だって、アタシは夢の中で……、過去にあった現実で、

 その姿のジークフリートさまに拒絶されたから。
 胸が抉りとられてしまいそうな瞳で、睨み付けられたから。
 中身は違うし、別人だって分かってるのに、それでもその姿に拒絶されたくないの。
 ジークフリートさまには、二度と拒絶されたくないのよ……!

「……おい、何で泣いてるんだ」
「うるさいわね、放っておいてよ……」

 ボロボロと零れる涙に、狼狽えた声。
 それに対して出来るだけ強気に言った声も擦れて、弱々しいなんて……。

 馬鹿じゃないの。カエル男に気をつかわれたって、全然嬉しく何かないんだから。
 そんな姿で言われたって、苦しいだけなんだから。

「悪い、軽率だった。もう勝手に入らないから、泣き止めよ。な?」
「当然で、しょっ」

 鼻をすすりながら答えたけど、そんなんじゃないの。
 そりゃ、乙女の寝室に勝手に入るなんてこと、二度とされたくないけど。
 でも違うの。
 勝手に涙が出てくるのは、そんな理由じゃないのよ。

 アタシがなんでカエルなんかのアンタを手元に置いといてたか、なんて。
 そんなのたった一つの理由以外見つからないじゃない。

 ジークフリートさまに似ていたから。

 性格はともあれ姿は生き写し……ううん、生まれ変わりなのかもしれないって、そう思ってしまえるくらいそっくりだった。
 ジークフリートさまがあのときのまま、ここにいるかと思った。

 だから、今度はアタシのモノにしてしまいたくて。
 でも、“また”拒絶されたら怖くて。

 馬鹿みたい。このアタシがたった一人の人間に固執しているなんて。
 結局、その姿を前にされると、五百年気にしないふりをしていたのなんか意味ないのよね。
 ……ずっと気にしてたに決まってるじゃない。
 二度と会えなくったって、あの白鳥女を追って入水自殺された、なんて聞いたときは泣いたわよ。
 外聞もなにもないわ。だってアタシは、本当に“愛シテタ”。

「……兵と違って、女の扱いはよく分からないんだけどなぁ」
「触んないでよ、馬鹿……」
「カエルになるまで、慰めてやってるんだ。ありがたく思えよ」
「ありがたくなんか……っ」

 恐々と髪を撫でる手は、全然綺麗なんかじゃない。
 荒れてて、ごつごつしてて、アタシの頭をすっぽり覆ってしまえるほど大きくて。
 それでも妙に優しい手つきに、涙が止まらなかった。

 本当に馬鹿みたい。たったこんなことだけで泣くなんて。
 拒絶の言葉を投げ掛けたって、泣き通しているアタシにそれ止めようとはしない。
 いつもなら、涙だって雄の気を引くためのもので、自分の意志で流すことなんてないのに。

 ジークフリートさまがアタシの“特別”だから。

 アンタはジークフリートさまじゃないのに、そう思ってしまうくらい、アタシがジークフリートさまに望んでいたことをしてくれるから。
 特別はアンタじゃないのに、アンタを身代わりにしようとしていたアタシが嫌になるわ。
 一つ、息をついた。

「……触んないで。アンタに軽々しく触られたくないわ」
「泣き止んだか?」
「触らないでって言ってんのよ!」

 ぱしん、と。
 アタシは今度こそその手を振り払った。魔法なんか使う必要もないわ。
 自分の手で。ハッキリと拒絶した。

 そうよ。ジークフリートさまに……、ジークフリートさまの姿をしたコイツに拒絶されたくはないの。
 だから、アンタに拒絶される前に、アタシから拒絶した。
 そうすれば、これ以上傷付かないでしょ? これ以上苦しくなることなんてないでしょ?

「アタシはっ」

 悪魔の娘であるアタシはっ!

「アンタみたいな人間なんかに慰められるほど落ちぶれちゃいないわ!」

 だから、

「……アタシの傍にいないで」

 これ以上苦しめないで。

「出ていって」

 これ以上、ジークフリートさまのことを思い出させないで。

「出ていってっ!!」

 五百年経っても癒えない傷痕に触れさせないで。

「ここから出てってっ!!」

 叫んだ。何も知るはずのないアンタに向かって。
 いつカエルに戻ってしまうか分からないアンタに向かって。
 罵倒? するならすればいいじゃない。
 そしたら実力行使になるだけだから。さっさと出ていきなさいよ!

 涙が残る瞳でキツく睨んでいると、アタシが予想していた反応を越えて、アイツは笑った。
 ふわりと、優しい笑みを浮かべて。

「もう大丈夫だな」

 そう言い残して、扉から出ていってしまう。

 なんで、笑うの?
 拒絶したのに、どうして、そんなに穏やかな感情のままなの?

 後には呆然とした顔のアタシだけが残された。
 どうすればいいのかなんて、全然分かんない。
 そんなワケ分かんないことしないでよ、馬鹿。
 頬を伝う涙を押し留めようと、シーツに顔を押しあてた、そんなときだった。

「何者だっ!?」

 出て行ったはずのアイツの鋭い声が聞こえた。
関連記事
スポンサーサイト





総もくじ 3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ 3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ 3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ 3kaku_s_L.png 零れ話
総もくじ  3kaku_s_L.png BLUE_LIGHT
総もくじ  3kaku_s_L.png ARUTOYU_MA
総もくじ  3kaku_s_L.png Hazel amd Gray
総もくじ  3kaku_s_L.png 零れ話
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言
  • 【04 白鳥の娘】へ
  • 【06 運命の短剣】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【04 白鳥の娘】へ
  • 【06 運命の短剣】へ