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「Hazel amd Gray」
緑色に口付けを

07 口付けを

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 ずぶりと、胸を貫く短剣。

「あ……ぁ……あぁっ!!」

 カタカタと震えながら涙を流す白鳥女。
 これで忘れないわ。この肉に突き刺す感覚を、アンタはずっとずっと覚えていることになる。
 アンタがアタシの方に刃先を向けたときには、アタシは手を離していた。
 だから、これは間違いなくアンタがやったのよ?

「これで満足かしら?」
「あ、や、だっ、違うっ! 私はっ」
「何が違うって言うの? アンタがこれを望んで、実行したからこうなったんでしょ?」
「違うっ、違うっ! 私じゃ……!!」

 両頬に手をあてて、瞳を目一杯開いて否定する。
 否定なんか、アタシがさせてやるはずないじゃない。

 耳を塞ごうと動いた手を掴む。塞がせてなんかやらないわ。
 いい? 何度でも言ってあげる。

「アンタがやったのよ!? アンタが刺したんでしょ!? その手に残る感触は、消えないでしょ!? それが証拠よ!」
「違う! 違う、違う、違う違うの違うわっ!!」
「違わないわっ! アンタは、立派な罪人よ!」

 恋情のもつれの逆恨み。
 よくある話でしょ、雌の動機がそれだってこと。

 誰かを恨むことで、自分の感情を昇華させようとしたアンタに、残りの人生を幸せになんか過ごさせてやらないわ。
 人を刺したと言う罪悪感に苛まれてればいい!

「だってっ、私……っ!!」
「アンタがやろうとしたのは、これでしょ? アンタがこれを望んだのよ?」
「私、望んでなんかっ」
「ないなんて言わせないわよ。なら最初からこんなもの持ってこないでちょうだい」

 白鳥女から手を離す。
 元はと言えばアタシが悪いだなんて、本当にそうだと思ってる?
 去っていく雄を引き留めることも、その場で取り戻そうともしなかったのは、アンタたちなのよ?

 五百年前のアタシと同じで、何もしなかったじゃない。

 あの絶望に染まる表情を見るのが好きって言うのも本当。
 でも、誰か一人くらいはつなぎ止めるために必死になるような、アタシや逃げ出したオデットと同じことをしない雌に、出会いたかったのも本当なのよ……っ!!

 アンタはアタシたちと同じだった。
 ただそれだけだった、人間の雌の一人なのよ……。

「もう二度とアタシの前に現われないでちょうだい」

 アンタもただの意気地なしなだけだったから。
 魔法を使って飛ばしてやった。何処に飛ばしたかなんか分かんないけど、会うことなんてないような場所へ。
 白鳥女によく似た姿の雌が、消えた。

「おっ、おい……っ!?」
「何よ、カエル男」

 厄介なのがやっと消えたわ、なんて息をついたとたん肩をつかまれた。
 ちょっと、痛いじゃないの!
 そんなに強く掴むと、アタシの白い肌に跡が残っちゃうでしょっ!?

「おまっ、ちょ、それっ!?」
「あぁ、これ? 刺さっただけだけど何?」
「何じゃないだろ!? 馬鹿かお前はっ!」
「馬鹿って何よ!? アンタにだけは言われたくないわ!!」

 胸に短剣が刺さったくらい何よ。
 お洋服はダメになっちゃったけど、たかがこれくらいで何動揺する必要があるって言うの?

「こんなもの抜いちゃえばいいだけの話でしょ」
「ばっ!? そんな無造作に抜くと血が……流れてないな」

 ずるりと引き抜いた短剣は、濡れてなんかない。
 刺された場所だってみるみる塞がっていく。 戻らないのはお洋服だけで、刺されたなんか信じられないでしょ?

「アタシを何だと思ってんの?」
「悪魔の娘オディールだろ」

 分かってるなら、一々驚かないでよね。

「悪魔の娘に、剣は無意味ってことか……」
「当然でしょ? 人間なんかと一緒にしないでちょうだい」

 刺されたってなんてことないのよ。血の一滴ですら流してやんないわ。
 それに、アタシを恨んで同じことを繰り返す人間が何人いると思ってんの?
 こんなことでくたばってたら、命がいくつあっても足りないじゃない。

「あー…。ったく、久っ々に寿命が縮んだ。お前もっと俺のこと労れよな」
「なんでそうなるのよっ! アンタが勝手に寿命縮めたんでしょ!?」
「お前聞いてなかったのか? セントラル陸軍軍尉ジーク・アルライド侯爵の名において、オディールに危害を加えんのは許さないって言ったからな」

 お前から誘導されちゃ、言った俺ただの間抜けじゃないか。

 短剣はもう抜いたのに、ずきりと胸が痛んだ。
 だから、なんでそうやってアタシのことを思ってくれるの?
 そんなことされるようなこと、アタシはしてないのに。出てけとも言ったのに、どうして?

「な……んで」
「ん?」
「なんで、そんなこと言うのよ……!?」
「なんでって、言いたいと思ったからに決まってるだろう?」
「そんなの理由になってないわっ!」

 意味分かんないわよ!
 アンタなんか最初から、全然ワケわかんないっ!

 何がしたいの?
 アタシに何を求めてんの?
 呪いを解いてほしいから、アタシなんかの味方になろうとしてんの?
 そんな打算的な優しさなんかいらないわよっ!
 アタシは、アンタなんかに心配される必要なんかないんだからっ!

「理由になってないったって、お前を護りたいと思うのに、理由なんかいるのか?」

 それはっ、アタシがジークフリートさまに言ってもらいたかった言葉で……。
 アンタなんかに言われたって、全然、嬉しくなんかないんだから……。
 嬉しいなんか……

「……馬鹿」

 思ってやらない。

「馬鹿じゃないし」
「アンタなんか、大馬鹿よ」
「あ、てめぇ。二回も……しかも強調して言いやがったな!」

 ジークフリートさまそっくりの姿で、アタシが求めてた言葉をあっさり言って。
 ガキっぽい性格で、一々ムカつくことばっか言うんだけど、言ってることは全部直球で思ったことそのままで。
 アンタみたいな馬鹿な人間、何処捜したっていないわよ。

「っおい、泣くんじゃないぞ」
「何言ってんの、アタシが泣くはずないじゃない」
「泣きそうな顔で笑いながら言っても説得力ないぞ?」

 アタシ今そんな顔してる?
 情けない顔でアンタの前にいるの?
 あぁ、でも仕方ないじゃない。全部アンタのせいなんだから。

 困ったように眉をひそめるアンタの元に近付いた。
 とん、と肩に手を置く。
 ちょっと背が高いから、癪だけど背伸びするように距離をつめて……

 ゆっくりと、唇を重ねた。
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