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「Hazel amd Gray」
緑色に口付けを

08 乙女心

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 グロスを塗っていない薄い唇は潤いなんかないけど、それでもそんなことを気にしちゃうくらいには乙女心が揺れた。
 そっと離れる。
 ふぅっ、と視近距離で吐かれた熱い息がアタシの顔に掛かった。

「お前、何……っ!?」

 少し赤く染まった頬に、ちょっとした優越感を覚える。
 アタシが赤くさせた、なんて気分いいじゃない。
 さっとアタシが離れると、カエル男の体がぼんやりと光を放った。

「何だよ、これ」
「解呪よ」
「呪いが解けるのか……!?」

 そう言っている間にも、光が粒子に変わって宙に溶けて消えていく。
 爽やかな林檎の薫りを残して、カエルの呪いを抜き取っていく。

 いくつもの小さな粒が生まれては消える光景は、どこか幻想的で、儚い。
 まるでアイツ自身も消えてしまうんじゃないかって、そんな錯覚に陥りそう。

「林檎の魔女……アンタに呪いを掛けた魔女が言ってたのよ、こうすれば解けるって」
「お前、知ってたのか!? ならなんで直ぐに解かなかったんだ!?」
「決まってるじゃない。カエルなんかに乙女の唇を犠牲にできるはずないでしょっ」

 当たり前でしょ!
 この世界の何処を捜してもカエルなんかにキスできるような乙女はいないわよ!
 あんな、可愛さの欠片も見当たらない、ヌメヌメとした表面の、緑色した、カエルなんかにっ!!
 身体から抜けていく粒子が、途切れ途切れになった状態で、そういうものなのか? とか首を傾げるアンタは、永遠に乙女心なんか分からなさそうね。

「なら、なんで今解呪してくれる気になったんだ?」
「それは……」

 それは、その。アレよ。

「……ひ、秘密」
「はぁ? 別に秘密にするようなことじゃないだろう?」
「うるさいわねっ! 秘密って言ったら秘密なのよっ!」
「そんな顔赤くしながら怒らなくたっていいだろうが」

 顔が赤いのなんか分かってるわよ、放っといてちょうだいっ!!

 だって言いたくないもの。口に出して認めたくないもの。
 秘密にしときたいじゃない、伝えるのなんか怖いんだから。
 自分でも勘違いなんじゃないかって、思うけど、でも、誤魔化しきれないんだから仕方ないじゃない!

 アンタはジークフリートさまじゃない。
 そんなのもう分かってるし、アンタがジークフリートさまになれるはずもないんだから。
 分かってるのよ。分かってるの、頭では。理解してるわ、自分でもハッキリ。
 でも、分かった上でこうなのよ。

 ずっとずっと、ドキドキが止まらないの。

 こんな奴なんかにドキドキなんかしたくないし、ドキドキしてるなんか気付かれたくもないの!!
 あぁもう信じらんない!
 アンタ不意打ちが多いのよ。なんでそう何でもないような顔で、護るとか言ってるわけ!?

「あぁもぅっ!! しつこいっ!」
「何でだよ、そんな大したこと聞いてるわけじゃないだろ?」
「うるさいわねっ! それより、これでもうここに用はないでしょっ! さっさと出て行って!」
「やだね」
「はぁっ!?」

 やだって何よ、やだって!
 アンタに拒否権なんかないんだから!
 さっきはあっさりと出て行こうとしたくせに、何いきなりやだとか言っちゃってんのよ。
 べ、別にいやだとか言われたから、離れなくてもいいとか思ってなんかないんだからねっ!

 心の中だけで盛大に騒いでいるアタシに向かって、アイツはニヤリと笑った。

「ここに用はないけど、アンタに個人的な用はあんだよ」
「呪いは解いてあげたんだから、これ以上用なんかないでしょっ!?」
「あるって言ってるだろうが」

 少し苛立ったように近付いてくるアイツに、アタシは思わず後退さった。

 な、何よ。
 アンタがこれ以上アタシに何の用があるって言うのよ。

「呪いを解いてもらったことは、感謝してる」
「感謝してるって言うなら、態度が違うでしょ!? 何なのよ、アンタ!?」
「だってお前、逃げるから」
「追い詰められそうになったら普通逃げるでしょっ!?」

 ねぇちょっと! なんか、怖いんだけどっ!
 悪魔の娘であるアタシが怖いとか、普通は思わないんだけど、そう思わせるような妙な威圧感があった。

 どん、と背中が何かに当たる。
 やば、追い詰められた。後ろが壁じゃ逃げられないっ!

「なっ、何よ……?」
「何でキス、してくれたんだ?」
「だからっ」
「秘密以外で」

 ……嫌よ、言いたくない。
 顔の横に手を置かれて、文字通り追い込まれて閉じ込められた状態だけど、言わない。

「言いたく、ない」
「……じゃ、そのまま口閉じてろ」
「んっ」

 ふいと顔を背けて言ったら、噛み付くように口を塞がれた。
 何度も何度も奪われて、その感覚に頭がくらくらしてきた。体中から力が抜けて、壁に寄り掛かって立ってるのがやっと。
 キスに酔うって、こんな感じ?
 ぼうっとした頭でそんなこと考えていたら、ちろりと舐められた。それから優しく上唇を甘噛みされて、離れる。

「俺がどれだけ我慢してたか知らないだろう?」

 何が、よ。

「ずっとこうして触れたかったの我慢してたけど……、嫌じゃないだろ?」

 ……。

「……馬鹿」
「あぁ、お前のそれは聞き流すことにしとく」

 くたりと床に座り込んで呟いたアタシを、アンタは軽々と抱き抱え上げた。
 横抱きにされて、アンタのその顔が近い。

「お前が言う通り、ここから出ては行くが」
「……何よ」

 覗き込まれるようにして、自信有りげににっと笑う。

「お前も一緒に来い」
「……は?」

 キスの余韻がぶっ飛ぶほど驚いた。
 こいつ今何て言った?

「まぁ、拒否権はないけどな」
「ち、ちょっと待ちなさいよ! 何よそれ!?」
「誰が待つか。それにお前、嫌じゃないんだろ?」
「そう言う問題じゃないわよ!! アンタ正気!? アタシは悪魔の娘なのよ!?」
「それがなんだって言うんだ。お前はオディールなんだろ? それ以外はどうでもいい」

 この馬鹿。呪いが解けてから態度でかくない?
 隠そうとしない気持ちとその視線から逃れたくって、でも抱き抱えられたまま離れられなくて、離れたくなくて。

「……お化粧もしないで、外、出たくない」

 せめてもの抵抗に、アタシはポツリと呟いた。
 それはほんの些細な抵抗と、女の子としての本音。
 アイツはそれを聞いて、思わずと言ったように吹き出した。

「ばーか。お前はそのままの方が断然可愛いって言っただろう?」
「……知らないっ」

 そんなこと言わないでよ、馬鹿。
 赤くなった顔を隠すようにアタシは顔を背けた。
 アイツが小さく笑う振動が伝わってくる。

 素直になんかなれるはずないじゃない。
 なりたくもないわ、そんなもの!

 でもね。

 今度はちゃんと捕まえていられるように、

 アタシの元に惹き止めておけるように、

 逃がさないように、


 その腕だけはしっかりと掴んでおいてあげる。



Fin.



*緑色に口付けを
メインはカエルの王様
サブメインは白鳥の湖
ツンデレ女と直球男の恋愛風味
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