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「Hazel amd Gray」
白き姫君

03 魔女

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『……誰かが侵入したのね』

 ふと、誰かの声が部屋の中に落ちた。
 ぼんやりとした光が室内に灯り、薄暗い部屋を照らし出す。だが照らされた部屋の中に、人の姿はない。

『こんなところに迷い込む馬鹿はいないと思って、結界を張らなかったあたしが悪いんだろうけど』

 ぱちん、と一つ指を鳴らす音が響いた。
 明かりが灯った室内に、影が落ちる。そしてふわりと、宙から舞い降りた一人の女性。
 高い位置で一つに束ねられたハニーブロンドの長い髪が、一拍遅れて開けた背中を波打つ。頬に掛かった強いくせっ毛の髪を耳に掛け、紫色の瞳を細めて彼女は嫌そうに長いすで眠るマリアを見下ろした。

「全く、人魚の小娘の次は他の魔女の持ち物? 厄介なのは勘弁してほしいんだけど」

 あたしはラプンツェルのことだけで手一杯なのよ。
 そう呟いた彼女はゆっくりと、眠り続けるマリアに向かって手を伸ばした。

「起きなさい」

 ぺちぺちと、頬を叩かれる。
 何度も何度も。痛みを感じるほどではないけれど、煩わしく感じたマリアはそれを振り払った。

「うぅ、ん……」
「いやじゃなくて、起きなさい」

 今度は肩を揺さ振られた。
 ゆらゆらと揺れるものの、眠気を振り払えるほどではない。ゆっくりと首を振り、ソファーへと顔を押しつけた。

―…まだ、起きたくはないわ。

 疲れた体が起き上がるのを嫌がっているみたい、と揺さ振られているのを無視した。

「これが最後よ。いい加減起きなさい」

 苛立ったようなこの声の主人は誰かしら?
 ぼんやりとした頭で、霞み掛かった記憶を思い出そうとしても難しい。顔を見ればわかるのかしら? とは思えど、開くのを拒否した目蓋は暗闇しか映さない。
 苛立ったような相手は、やがて大きくため息を吐いた。
 それから、ぱちんと指を鳴らした音が聞こえたかと思えば……

「きゃああっ!?」

 ソファーから突き落とされた。無防備だったマリアは、床に体のあちこちをぶつけて否応なしに起こされた。
 鼻、縮んだりしてはいないかしら?
 痛む鼻を押さえつつ、マリアはゆっくりと体を起こした。

「ようやく起きたわね、この寝坊助」
「だぁれ……?」

 目を擦りながら見上げる。こぼれてしまった欠伸は取り消せなくて、どこか気の抜けたような言葉が零れてしまった。
 癖のある薄い金髪を一つにまとめあげ、大胆な切り込みデザインの闇色ドレスをまとった、誰か。呆れたように見下ろしてくるその紫色の瞳を、マリアは見たことがなかった。

「それはこっちの台詞よ。人の家に勝手に入って、熟睡してるとか……。あんた、何様のつもり?」
「あぁ、ごめんなさい。私はマリア。スノーベルクの王女さまよ。つもりじゃなくて、本物の」

 にっこりと笑ってみせると、彼女は再び大きくため息をついた。

「その王女さまがどうしてここに入れたのかは知らないけど、ここはあたしの領域なの。さっさと出ていきなさい」
「嫌よ」
「嫌って、あんたねぇ……」

 あんたに拒否権はないのよ。
 頭を抱えた彼女に対して、マリアは華麗に呟きを聞き流し、綺麗に笑ってみせた。

「逃げるのに疲れちゃったのよ。だから、私を護ってちょうだい」
「なんであたしが……。そもそも面倒臭いのは嫌いなのよ」
「でも、できないわけじゃないのでしょう? 私もう走れないし、お腹だってペコペコなの」
「それこそ、あんたの勝手でしょうが」

 そう言って、手を離させようとしていた彼女だったが、マリアは手を離さない。

「だって、永遠に綺麗なままだなんて。そんなこと嫌だもの! 必死にもなるわっ!」
「はぁ?」
「ねぇ、お願い。なんでもするわ、だから私を助けて」

 意味が分からないとでも言うように眉をひそめた彼女に対して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
 自分の容姿の美しさを、永遠にされることは嫌だ。
 花が咲き、枯れるように、人の若さや美しさもいずれは失われる。永遠に美しいなんてものは、どこにもないのだ。そんなものを作り出そうとすること自体、幻想にすぎない。
 そう考えているマリアだからこそ、后に捕われてしまう前に逃げ出したのだ。

「……ご飯を作り、寝床をしつらえて、洗濯をして、縫い物や編み物をして、どこもかしこも綺麗にする」
「やったことがないけれど、頑張るわ!」
「……なんて、そんなこと言ったら家が壊れちゃいそうね」

 あんた、筋金入りの箱入り娘みたいだし。
 そうマリアの額を小突いた彼女は、やがて大きくため息をついた。

「本当に、あたしってばお人よしにも程があるわね」
「人のために尽くすことは、いいことだと思うわよ」
「尽くさせようとしているあんたに言われたくないわ」

 そのくせのある長い金髪をかきあげて、仕方がなさそうに……本当に仕方がなさそうに彼女は言った。

「勝手にしなさい」

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