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「Hazel amd Gray」
虹色の笛の音は

01 新聞記事

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 楽しい楽しいパレードのお出ましだ
 足並みそろえて 拍子をとって
 みんな笑顔で 行進しよう

 掛け声合わせて
 いち、に、いち、に
 楽しい楽しいパレードのお通りだ

 さぁさ元気に勇ましく
 よい子もわるい子も泣き虫も
 みんな集まれ パレードに

 進めや進め パレードと
 いちにのさんで突撃だ


「さて、パレード参加者の諸君。今宵も愉快で滑稽なる行進を始めようではないか」

 甲高いピッコロの音色を鋭く響かせて、彼は隊列を作った彼らを見下ろした。

「参加するもしないも諸君次第。だが、残念ながら悩んでいる暇などはないのだよ。同士を呼ぶパレードはすぐに出発するのだから」

 吹き込み口にそっと唇をあて、撫でるような指さばきでメロディラインを奏でる。
 リズミカルな行進曲に合わせて少し大げさに足踏みを始めると、大勢の参加者が歓声をあげた。
 おどけた仕草で少しずつ前進すると、隊列を作っていた彼らもはずむような足取りで後を追う。
 軍隊のようなきっちりとした隊列ではないけれど、愉快で滑稽なるパレードに規律も正確さも必要ない。
 重要なのはいかに楽しめるか。

 今宵も、三日月が夜空を照らしだす中奇妙なパレードが始まった。







「怪奇! 闇夜に響く笛の音色。五番街の子どもたちは何処へ消えた!? だってさ」
「変な記事だ。何故そんな奇妙な現象と、子どもたちの失踪が関連付けられるのか、私には皆目検討もつかない」
「まぁこれ大衆紙ゴシップだし、そんな意味わかんないとこが楽しいんでしょ。高級紙タイムスばっかり読んでる頭固い人には理解できないのかもしれないけど」
「む。以後気をつけよう」

 暖炉の肘掛け椅子に座って、粗雑な新聞を広げている青年の名はゼル。
 暖炉の炎に照らされるたびに、その不思議な虹彩をくるくると変える淡褐色の瞳が印象的だ。

 対になるように置かれた、もう一つの肘掛け椅子に座るのは、人間ではなく猫。
 額に斜め傷が入った、琥珀色の瞳と赤銅色の毛並みが綺麗に整えられた猫の名はアンバー。
 元は人間で、更に言えば現王太子殿下の弟と言うやんごとない身分の持ち主なのだが、訳あって猫の姿をして居候している真っ最中だ。

「それで、その奇妙な記事には何と書いてあるのだ?」
「んーっと
『六番街の子どもたちの失踪から一月。今度は五番街の子どもたちが次々と姿を消している。
当社の記者の調べによると五五番街の戦争遺児たちの姿も忽然と姿を消していることが分かった』
 ……五五番街からもいなくなっちゃってるんだ」

 五五番街とは、五番街と六番街の間にあるいわゆる歓楽街と言われる場所だ。酷い言い方をすれば裏五番街。
 治安もあまり良くない上に、娼館と言った少々いかがわしいお店が立ち並ぶその場所で、陰に身を隠すようにひっそりと飢えを忍んで生きている。
 扶養者がいない子どもたちは、裏口に捨てられている残飯や、時には客となるものに命がけで盗みを働いて日々を生き延びている。
 それ以外に、生きる方法が見つけられないのだから。

「良い事なのか悪いことなのか、わからないけどさ」
「国が対策を施行する前にか。全く、今の政治のやり方は問題だらけではないか、必要としているものを何故すぐに出せないのか」
「それ、元に戻ったら是非とも上の人たちに言ってやってよ」
「うむ。必ず進言しよう。軍属の身でどこまで意見が通じるか分からんがな」

 それで、続きは? と促される。
 生まれながらにして王族の一員であるアンバーには想像できないのだろう。
 五五番街の悲惨さを。だからすぐに話を軽く流せる。

 偉い人全員、一回五五番街に落としてしまえれば、少しは意識が変わるかもしれないけど。

 自分たちもそこでひもじい生活をしなければならなかったのではないか。
 そう考えると他人事のように思えないゼルだったが、それを口には出さず、ただ黙って新聞に目を走らせた。

「どこまで読んだっけ? あ、そうそう
『子どもたちが姿を消してしまうその前夜には、必ずと言っても過言ではないほどに笛の音色が街に響き渡る。
 頭痛や眩暈を引き起こす作用を含むと考えられているその音色に惑わされ、子どもたちは何者かに連れ去られたのではないかと考えられている。
 以後笛の音が聞こえる夜はっ重々子どもたちに気を払うよう、注意を呼びかけた方が賢いやり方なのかもしれない』
 だってさ」

 笛の音が子どもたちを惑わして連れ去った。
 そう考えるのはいかにも馬鹿げている。
 そう言って一蹴してやりたいのだが、実害が出ているためにそう簡単に切り捨てられるものではない。
 このままではアウトキリアの国から、子どもたちの姿が消えてしまう。

「音色に惑わされ、か」
「まぁ、僕らには特に関係ないし、気にしなくてもいいんじゃない? 時間が解決してくれるでしょ」
「他人事だな。もしそれが魔法絡みだとすれば、魔女が真っ先に疑われるのではないか?」
「そうだとしても、ヴァイオレットはそんな面倒な事をするような魔女じゃないし。僕としては可愛い可愛いグレイが無事ならそれでいいもん」

 要するに、自分たちに被害がなければそれでいいと言うことか。
 アンバーが呆れたようにため息をついたが、ゼルはそんなこと当然でしょ、とでも言うかのようにひょいと肩をすくめた。

「重度なグレイ馬鹿だな」
「だって本当の事だもん。アンバーだってお兄ちゃん大好きなくせによく言うよ」
「当然だろう。我が殿下を敬愛するなと言う方が無理だ」
「それと同じだってば!」
「同じなどではない! 訂正しろ!」

 どこか面白そうに笑いながら丁寧に新聞を折りたたんで、ゼルは逃げるようにリビングを後にした。音も立てずにひらりと肘掛け椅子から飛び降りたアンバーが後を追う。
 そんなアンバーを、キッチンからひょいと顔をのぞかせた少女が抱き上げた。

「あーっ!」
「ゼル、煩いわよ」
「でもそいつをグレイが抱き締めてるってことが許せない! アンバーお前グレイから離れろっ!」

 ぎゅっとアンバー抱きしめている少女は、ゼルの妹であり、またこの家の魔女ヴァイオレットの使用人を行っているしっかり者だ。
 賢く、冷静に、十六の少女にしてはやけに大人びている。灰色の瞳が更にそう見せているのかもしれない。

「ところでグレイ、どうかしたの?」
「どうかしたじゃなくて、掃除。サボってたのは誰?」
「えー、お兄ちゃんに会いに来てくれたんじゃないの? そんな哀しいこと言うなよグレイー」
「ふざけたこと言ってないで、さっさと床掃除終わらせて」

 ぴしゃりとゼルの戯言をはねつけるグレイは、どこまでも真面目だった。
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