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「零れ話」
幸運少女

そのご。

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 四阿ってのは、ハイキングコースとかでよく見掛ける休憩スペースみたいなものだった。壁はないけど屋根はあって、机と椅子がポンポン置いてある感じ。これを四阿って言うんだ、勉強になります。
 イケメンさんと出会った巨木の下から、森林浴しながら木立の中を歩いて数分。開けた場所のやや手前、森林沿いにその四阿はあった。

 二人してそこにある椅子に適当に腰掛ける。翼があることを想定してか、背もたれに当たる部分はなく、椅子が配置されている間隔もやや広めにとってある。
 ……今更だけど、種族も違うんだよねぇ。天使族的な? 今まで見た三人の翼は黒っぽかったけど。
 イケメンさんがまたよく分からない言葉で呪文を唱えていたから、ゆっくりと辺りを見渡した。いやぁ、今まで心の余裕なかったし、なにより夢オチ期待してたから全然気が付かなかったけど……異世界だなぁってつくづく実感する。
 森林沿いの開けた先は、細い小川が流れていて、緑の絨毯が敷かれているような綺麗に整えられた庭が広がっている。あの先に色鮮やかに見える部分が花壇とかで、ちゃんと植木が切り込まれて埋まっているんだろうなぁ。よく見えないけど。その鮮やかな足下から、白い外壁のお屋敷が見える二階建ての、コの字型の建物。うーん、お金持ちな予感ーなんてあほみたいな感想しか出てこないけど。
 まあ、ここまではまだ、理解できる。
 たださぁ。空が……、空にいくつも島みたいなのが浮かんでるのよねぇ……。なんだっけ? ラピュタ? 空島? むき出しの地面がこちら側から見えるだけで、その上に何が乗っかってるのかはちょっとよく分からない。ただ、森林の向こう側に、ここよりも少し高い位置にある空島には、欠けた塔のようなものが突き出ているのが分かる。
 たぶん、あそこから吹っ飛んできたんだよなぁと思う。ずいぶん高いところから落ちたもんだと、気付いたときにはぶるりと震えたけど。
 この世界の人全員に翼があるのなら、空島間の移動もアリなんだろうけどさ。実際に、黒い点がいくつも動いているのが見えるし、そうして生活しているんだと思う。飛行機とかなさそうだし、これはアタシ詰んだんじゃね? なんて。いや、別にずっとここにいると決まったわけじゃないからいいんだけど。

「軽傷だったラクディオルスを召致した。しばし待てば来るであろう」

 呪文? を終えたのか、小さく息をついたイケメンさんが声を掛けてきた。
 ラクディオルス……ええと、あの少年の方かな? だといいなぁ。

「はあ、ありがとうございます」
「何故召喚を試みたのか、その条件は何か、帰還方法はあるのか、一つずつ尋ねてみると良い」
「重ね重ねありがとうございます」
「良い」

 そう、だね。帰れる方法があるかもしれない。ファンタジー小説とかで魔王を倒せば帰れるとか、そんなパターンがあるって聞いたことがある気がする。あれ、でもこれデマで復讐ザマアするのが今の流行なんですよねーって、後輩の中山ちゃんが言っていた気がする。いや、気がするだけだから信じよう。アタシその手のよく分かんないし!

「あの、聞いても良いですか?」
「答えられる範囲であれば」

 魔王はいるんですか、なんて聞くのは違うか。それは少年が来て話を聞いてからにしよう。頓珍漢すぎると阿呆の子がバレる。
 快く頷いて言葉を待ってくれるイケメンさん。アンタえぇ人や……。直視できなくて視線は外してしまうけど。いや、イケメンすぎてね。

「この世界の人って、皆あな……お兄さんみたいに羽が生えているんですか?」

 はて。たぶん、ていうか十中八九このイケメンさんは高貴な人だと思う。貴方って言っても良いんだろうか、無礼者とか言わないタイプ、だよね? きっと。言葉遣いが固すぎて無難な所を選んだつもりだけど、ガッチガチな敬語にした方が良いのかな。
 イケメンさんは少し考えるように間を置いて、小首を傾げたんだと思う。さらりと布を滑る長い髪が、羨ましいくらいにサラッサラでキューティクル掛かってるのが見えて、そっちに目がいったからたぶんだけど。枝毛とか傷みとか関係なさそうなくらいに髪質良さそうで羨ましすぎる。

「アーヴェルハイト」
「あー、はい?」
「私はアーヴェルハイトと言う。言いにくければ好きなように呼んでくれて構わない」
「はあ」

 そう言えば、自己紹介もしてなかったっけか。そんな余裕ないくらいに急展開の連続だったから仕方ないね!
 アーヴェルハイトね。横文字苦手だから直ぐに忘れそうだ。ポンコツ頭だから人の名前覚えるの苦手なんだよ。うーん、アーヴェルハイト……アーヴェルハイト……。長いからお言葉に甘えよう。省略してアーヴェル。もっと縮めてヴェルさんだな、それくらいならなんとか頑張れそうだぞ。

「すみません、ヴェルさんとお呼びしても?」
「好きなようにと言ったのは私だ、構わない。それで?」

 それで? それでってなんだ?
 あ、違う。アタシの名前か!
 横文字……横文字圏だとフルネームで言わない方が通じやすいよね、確か。短期留学生が来たときに学んだぞアタシは。敬語抜きの、単語と動詞で伝えた方が、シンプルに伝えた方がちゃんとコミュニケーションがとれるってね!
 たぶん、ヴェルさんもそういう意図があって名前だけ簡潔に伝えてくれたんだと思うし。

「お世話になっておきながら、すみません。スズと言います」
「スズ、か。覚えやすい名だな」

 まあ、覚えやすいの第一優先にしたから本名ではないけどね! あだ名でそう呼ばれていたこともある呼ばれ方だから、間違ってもいないけど嘘は言ってナイヨー。

「では答えよう。この世界では、殆どの種族が空を移動する手段を有している。有翼族が人工の殆どを占めており、翼を持たぬ者は別の種族特性を利用して移動する者が多い」
「つまり、ほぼ全員が翼がある、と?」
「そうなるな。龍族や鉱族はには翼がないが、浮遊するすべがあるという。人型をとれる者で翼がない者は……切り落とされた罪人くらいだろう」
「罪、人……」

 人間はいないのか人間は! ていうか、これ明らかにアタシ罪人って認識されてませんかねコレ!
 さっと顔を青くさせたけど、そんなのはとっくにお見通しなのか、ヴェルさんはしれっと問題ないといってくれた。

「視通したからな、召喚されたのは知っている。もとより翼がない種族なのだろう? そも、罪人であれば私の保護は掛けられぬ」
「ヴェル様……!」
「良い、様を付けるな」

 つまり、この手の甲の証は罪人じゃ有りませんよー。こいつの身の保証はヴェルさんがしてくれますよーって言うものなんだね! 見ず知らずの人間にそこまでしてくれるなんて見た目もだけど、心もイケメン! 男前ですよなんなんですか惚れてまうやろー!
 感激して思わず様付けしたら、しれっと嫌がられた。おや、これは敬語ある程度崩れても大丈夫な感じ?

「でもそれなら、本当になんで保護してくれたのですか? そこまで信用して貰う理由が分からないんですけど。あ、いや。滅茶苦茶感謝はしているのですけども!」
「ふむ……」

 ヴェルさんは少し悩むようにして一度言葉を切った。あの、そんな深い理由とかなくて、ただなんとなく思っただけだから、別に同情したとかでもいいんですよー? そんなに真面目に考えてくれなくてもいいんですよー?
 内心ワタワタしているアタシは、上手いこと言葉が見つからなくて、ちゃんと言えないんだけども。

「理由は三つある」
「え、三つも?」
「一つ目は、先程も述べたように召喚されたことを見透したからな。その証明を兼ねている。その罪人ではないと言う証明と同時に、完全なる無翼族であることの保護が目的だ」
「うん?」
「保護、だ。完全なる無翼族など聞いたことがない。希少種の研究と称してバラされるのは嫌だろう?」
「物凄く嫌ですね!」

 実験体扱いは嫌ですー! 人間モルモット断固はんたーい!

「二つ目、保護であれば私でも可能だった。ならば、シリウスに委ねるよりは私がなった方が適任だろうと判断した」
「これから来る少年は?」
「庇護なら良かろう。だが、保護となれば弱い。身分や権力、そうした点から付け込まれる要素が多すぎる。その他の点に関してもそうだが、あの子だけでは不完全だ。と言っても、今から他の保護人を探すのは難しいだろう。その上、あまり召喚のことを大事にしたくはないのでな」

 う、うーん? 
 話が難しくなってきたぞう。簡単にまとめると、どうだ? こうか? 召喚のことは秘密にしておきたいけど、今関わってきた三人の中では一番権力有る自分がなるよって事でオッケー? たぶんオッケー。

「三つ目は、……縁だ」
「はい?」

 あれ、なんか急にふわっとなった。
 
「なんとなく、と言えば聞こえが悪いだろうが。私のもとに落ちてきた縁、文言をすり抜けて来れた縁、関与した者全てが私の信がおける者であった縁。それならば良いか、と」
「良いんだ……」
「なに、存外そういった直感の方が頼りになることもある」

 もちろん外れることもあるが、なんて付け足してたけど、本当にこうふわとしすぎじゃない? いや、何度も繰り返すけど、アタシ的にはオールオッケー超助かる。けど、第三者から見て滅茶苦茶不安になるような気がするけど。

「もしかしたらアタシ、滅茶苦茶極悪人だったりするかもしれないですよ?」
「何、それならば責は全て自らに返ってくる。それだけの話だ」

 ヤバい、ヴェルさん滅茶苦茶大物じゃないですか。懐大きすぎませんか本当に、アタシが落ちてきたところからずっと! 自分の小物臭が半端なさすぎて泣きたくなるんだけど。
 それにな、とヴェルさんはふわりと笑った。

「特大の猫なら、毎日見ている」

 猫? ニャー? それは、一体どういうことだろう?
 こてりと首を傾げても、ヴェルさんは口元に笑みを浮かべるだけで、それ以上は何も言わなかった。

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