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「Hazel amd Gray」
虹色の笛の音は

03 消失

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 冷たい空気に、否応なしに目が覚めた。早朝は夜の間に溜め込まれた冷気がキンと冷えていっそう寒さが増すような気がする。
 ゼルと同室にされ、尚且つその隅にあったかごの中で眠っていたアンバーは、ぐっと身体を伸ばして動き出した。
 朝の毛づくろいをしながら、ふあぁとあくびを一つして、止まった。

 ……なんだかおかしい。

 アンバーの目覚めはそんなに悪くない方だ。それゆえにその異変にいち早く勘付けたのかもしれない。

「ゼル。起きんか、ゼル!」
「うー…あと、五分……」
「貴様の五分は何時間だ!? いいから、早く起きろ!」

 始めはぺしぺしと頭を叩くだけにしていたが、布団の中にもぐりこんで起きるのを拒否したゼルに、アンバーは布団をくわえてはいでしまった。
 猫だとしても、やろうと思えばできることを最近学んだ。

「なぁんだよ……っ」
「いい加減起きろ! 目を覚ませ!」
「お前と一緒にするなよな、寒いじゃないか……」

 そうしてもそもそと布団の中にもぐろうとする、寝ぼけ眼のゼルの布団の上に飛び乗って、アンバーは静かに言葉を紡いだ。

「妙だと思わんか?」
「何が」
「何が……。何かがだ。いつもとは違う」
「はぁ? 何がいつもとは違うって?」
「だから何かがだ」
「そんなことで僕を起こすのやめてよ。僕はグレイが起こしに来てくれるまで寝るんだ……あふっ、お休みいってきます夢の国へ」

 大きくあくびをして、ゼルはぺいとアンバーを布団から乱暴に下ろして再び横になった。
 音をたてずに華麗に着地したアンバーが不満そうに鳴いているが、そんなことを気にするつもりなんかない。今のゼルに眠気より勝るものはなかった。
 そんなマイペースなゼルに眉をひそめたアンバーは、仕方ないと扉をカリカリと音を立てながら力押しで開けようとする。押し戸な為に、ドアノブを捻らなくても開けられる。まぁそれをやるとどうして閉めないのかとゼルに言われるが、それで起きるなら構わないとグレイに許可をもらっている。

「ふんっ」

 キィと、音を立てて扉が開いた。
 廊下の寒気が室内に流れ込んでくる。妙に冷えている廊下に踏み出して、起きた時から覚えていた奇妙な違和感の正体にようやく思い当たった。

「っ、ゼル!」

 それがなんなのか分かった瞬間、アンバーはベッドに飛び乗った。

「……だぁっ!?」

 飛び乗った位置が丁度ゼルの腹に当たる部分で、それによって苦痛の声をあげたことは……少しはすまないとは思うが、気にしなくてもいいだろう。
 問題はそんなことよりも、もっと重要なことなのだから。

「っ、何だよ……!?」
「グレイの部屋に行くぞ」
「はあぁっ!?」

 アンバーの言葉に、腹を押さえていたゼルは今度こそ起き上がった。衝撃的過ぎて眠気も吹っ飛んだらしい。
 それでいい。朝に弱いゼルにはそれくらいで丁度いいのだ。

「何を突然、そんなこと……!?」
「おかしいと思ったのだ。廊下に出てよく分かった、家が冷たすぎる。それに、一階から物音一つ聞こえてこない」

 誰よりも早起きで、まずリビングの暖炉に火を入れ、それから雇い主の部屋の暖炉に火を入れる。それだけでも廊下の温度は少し上がる。それから調理場に立って、朝食の準備を始めるのだ。
 それが今日に限って朝食の準備をする音は愚か、家がまず暖まっていない。
 しっかり者のグレイに限って寝坊なんてことはないだろう。では何故? そう考えると、何かあったのではと考えてしまう他ない。

「グレイー、入るよー?」

 眠気がふっとんだらしいゼルは、寒い寒いと腕をさすりながらグレイの寝室の扉を叩いた。返事は、ない。

「グレイー?」

 さすがに不思議に思ったのか、ゼルは扉を開けた。
 そして、固まる。

 そこにグレイはいない。開け放たれた窓から、冷たい北風が吹き込んでいるだけであった。

 がらんとし、明らかに冷えきり、人気がまったく感じられない室内。ベッドに近寄り、そっと触れてみるが、そこに温かみは全くと言っていいほど無い。
 ゼルは状況を理解するや否や、わなわなと震えだして部屋を飛び出した。

「ゼルッ!?」

 アンバーが慌てて続くも、ゼルはそんな相手を気にした様子も無い。しんと静寂を保ったままの冷たい廊下を駆け抜けた。
 ノックもなしにこの家の主の部屋に飛び込む。その無礼さに叱責の声が飛んでくるかと思えば、部屋の主はただ黙ってベッドボードに寄りかかっていた。

「ヴァイオレット! グレイがっ!!」
「分かってるから、叫ばないでちょうだい」

 ぱちんと指を鳴らして、暖炉に火を点ける。
 そして血相を変えて駆け込んできたゼルを見て、アンバーを見る。紫色の魔女は、静かに息をついた。

「グレイが夜中に姿を消したみたいね」
「分かってるなら、なんでそんなに落ち着いてられるんだよっ!」
「あんたみたいに喚く方が、時間と体力の無駄だからでしょ? 喧しいのよ、朝っぱらから」
「だって、グレイがいないっ!」
「繰り返さなくったって、そんなこと分かってんのよ」

 鈍く輝く金髪を面倒くさそうにかきむしって、ヴァイオレットはイライラと吐き捨てた。
 ゼルは自分が何を言いたいのか、何を伝えたいのか分かっていないのだろうと思えるくらいに、狼狽していた。グレイがいない、と口走るたびに己の顔色を青くしている。

「グレイは僕に黙って消えちゃうなんてことしない!」
「……ちょっと黙ってなさいよ」

 ヴァイオレットがぱちんと再び指を鳴らすと、ゼルの口がチャックで閉められたように閉ざされた。なにやら叫んでいるがくぐもって聞き取れない。
 ゼルの足元でせわしなく目を白黒させていたアンバーだが、恐る恐ると言ったようにヴァイオレットを見上げる。

「紫色の魔女は、何故グレイがいないと分かったのだ?」
「愚問ね。あたしの領域の中で起こったことくらい、把握してるのは当たり前でしょ?」
「貴方の領域なら、何故それを食い止めることが出来なかったのか?」
「……グレイが結界に穴を開けたからよ」
「穴?」

 魔女は疑り深い。
 さらに言えば、狡猾で抜け目無く、一筋縄で行かない存在だ。それ故に、自分の物を護るために幾重もの結界を張ることは、そう珍しいことではない。

 紫色の魔女と呼ばれる彼女も例に違わず、現在己の拠点としているこの家に結界を張っていた。
 穴を空けた……つまり、結界に綻びを作り出したと言うことなのだろう。

「そうよ、基本的にこの家はあたしの領域だもの。結界くらい張るわよ。……グレイにははっきりと伝えなかったかもしれないけれど」

 ヴァイオレットはまた一つ、深くため息を吐いた。
 そして呟く。音よ、と。

「音だと?」
「えぇ、そぅ。さすがに音までは意識しないと防ぐのが難しいのよね」
「それで穴か。……穴と言うのは、窓のことだろうか?」
「だって、“開いてた”でしょ?」

 グレイの部屋の窓は。
 北風を呼び込んでいるように、開け放たれていたでしょ、と。
 そこから聞こえてきた音が、グレイの姿を消してしまったと言うことだろうか?

「確かに開いていたが……」
「んーっ!」

 首をひねったアンバーの隣で、ゼルが突然叫んだ。ハッとしたような表情を見て、ヴァイオレットは指を鳴らしてやる。

 「ヴァイオレット! まさか音って、笛の……!?」

 子どもたちが姿を消してしまうその前夜には、必ずと言っても過言ではないほどに笛の音色が街に響き渡る。
 頭痛や眩暈を引き起こす作用を含むと考えられているその音色に惑わされ、子どもたちは何者かに連れ去られたのではないかと考えられている。
 以後笛の音が聞こえる夜は、重々子どもたちに気を払うよう注意を呼びかけた方が、賢いやり方なのかもしれない。

「そう考えた方が、いいのかもしれないわね」

 アンバーの頭に駆け巡った、昨日の新聞の内容。ヴァイオレットが面倒臭そうに息をついたのが見えて、それがグレイにも当てはまったのだと気が付けた。
 まだ仮説だ。断定はできない。
 だがそう考えた方が、グレイがいない理由にも納得がいくのだ。

「絶対、グレイを返してもらうんだ! 笛の音なんか、かき消してやる!」
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