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「Hazel amd Gray」
虹色の笛の音は

04 情報交換

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「ふぅー、さすがに一日中聞き込みって疲れる」

 三番街の綺麗に舗装された道を、オレンジ色の夕日が照らしだしていた。黒い影が長く伸び、道の至るところに設置された水銀ランプが、ぽつぽつと灯され始める。
 乗合馬車から降りたゼルは、五番街で獲た情報をぐるぐると考えていた。

「あんまり決定的なことじゃないよなぁ……」
「何がだ?」
「……アンバー?」

 独り言に返された言葉に別段驚くこともなく、その姿がどこにあるかと周りを見渡す。
 どこからともなく姿を現したアンバーが、ゆらりと長い尻尾を揺らしながら、ゼルの足元に寄り添うように共に歩きだした。

「どこ行ってた……うわ、なんか変な臭いするんだけど」
「……その変な臭いがする場所で情報収集だ」
「それで成果がなかったとか言ったら報われないよね、僕が。君洗わなくちゃいけないの僕なんだからさ、あーもぅ面倒臭いなぁ」

 グレイに近付くものはたとえ元王子だった猫でも許さない。
 そんな思惑もあってか、アンバーの世話は基本的にゼルが行っている。煙草やらカビやらの臭いをまとったアンバー自身もさっさとこの臭いから解放されたいと思っているのか、ゼルの言葉には特に何も返さなかった。

「それで? 何か分かったことでもあったの?」
「あぁ、一応は。ゼルの方はどうだ?」
「……悔しいけど微妙」

 豪華な屋敷が立ち並ぶ道沿いに、異様な雰囲気を放つ少し小ぶりの館が建っている。ウエハースの壁や市松模様のクッキーの瓦で形造られたお菓子の家。
 飴細工の柵で仕切られた敷地のビスケットの門に手をかけて開く。金平糖の砂が敷いてあるそこを、別段怯む事もなく突き進む二人……いや、一人と一匹はチョコレートで出来た玄関扉へと向かう。
 この奇妙な外見をしているお菓子の家こそ、ゼルたちが住み込みで働いている魔女・ヴァイオレットの家なのだ。

「とりあえず臭い落とすから、ついでに洗いざらい話してよ」
「ゼル、貴様も知りうる情報を話すの……あ、こらっ! そう乱暴に首根っこを掴むな!」

 ひょいとアンバーの首の皮をつまんで持ち上げたゼルは、アンバーの抗議を軽く流してバスルームへと向かった。そしてアンバーを床に放り投げて自分のズボンの裾をまくり、勢いよくシャワーを掛けた。

「なっ!? ゼル、貴様っ! やめっ」
「動かないでよ、うまくできないじゃんか」
「水圧が強すぎるっ! 私は、今は猫なのだ! 加減を考えろっ」
「分かってるってば」

 しぶしぶと言ったように水の勢いを弱めたゼルは、ようやく大人しくその場で水を掛けられているアンバーの毛を片手でわしわしと洗いながら、知り得た情報を話し始めた。

「僕は五番街でずっと聞き込みしてたけど、四番街よりも行方不明になっている子が多かったみたい。あと今まで三番街には被害はなかったみたいだね」

 まぁこれは、蛇足的に乗り合い馬車で聞いた話だから、確証はないんだけれど。
 そう続けて頭を洗い流していると、鼻に水が入ったのかふんふんと少し必死なアンバーの様子に気付いてか、ごめんと一言呟いた。

「それから、四番街と五番街の行方不明者は、皆下働きとかそんな感じの人らしいよ」
「五五番街は戦争遺児だったか? ……行方不明になる者の身分を選んでいると言うことなのかもしれないな」
「犯人がそんな器用なことする意味が分からないんだけど」
「確かに、目的と動機が分からないままだな」
「僕の方はこんな感じ。アンバーは?」

 きゅっとシャワーの水を止めて、ずぶ濡れで普段よりも細まっているように見えるアンバーからは、もうあの嫌な臭いはしてこない。ふるふると身体を震わせて水を弾く前に、ゼルはタオルでくるんでしまった。

「水を払わせろ、ぺっとりじっとりして気持ちが悪い」
「暖炉の前に行って僕が離れたらにして。これ以上濡れたくない」
「む」

 リビングにある暖炉の前にぺいと放り出されながらも、華麗な着地を決めたアンバーはぶるぶると身体を震わせて雫を飛び散らせた。暖炉に跳ねたのであろう雫が、じゅっと音をたてて消えた。

「私は、そうだな……」

 再びゼルにタオルでくるまれて、わしわしと拭かれるのを苦しそうにしながらも、アンバーはゆっくりと話し始めた。

「まず、犯人はこの辺りの裏組織ではない」
「何でそんなことが言えるの?」
「侵入して話を盗み聞いてきたからな。それに組織の方も被害にあっているようだぞ」
「それ被害って言うか、脱走したとかそんなんでしょ? 裏って言うくらいなんだから、やってることは最低だし」

 そうかもしれないな、と呟いたアンバーだったが、いや、とすぐに否定をした。

「笛吹き男が連れ去ったと考えているらしいぞ」
「笛吹き男? ……グレイを連れ去ったのも、その笛吹き男だってこと?」
「かもしれん。あ奴らは、眩暈がする音楽対策として魔具を奪ったとも言っていた」
「魔具ってことは、その笛吹き男は魔法を使うってことでしょ? ……男が魔法使えるのってあんまり聞かないよね」

 もういい、とタオルから抜け出したアンバーは、ごろんと暖炉の前に寝そべって己の毛並みを整えようと毛づくろいをしながら、水気をなくそうとしている。
 それを見たゼルは、無造作に暖炉の上に濡れたタオルを掛けて、肘掛け椅子に深く座り込んだ。

「我が親愛なる陛下も、魔法は使える。が、確かに女性以外の魔法使用者は滅多に耳にしないな」
「まぁ、僕らがここで適当なこと言ってるよりもヴァイオレットに聞いたほうが早いのかもね。その道の人に聞くのが一番手っ取り早そうだし」
「うむ。もうそれについて調べているのかもしれないがな」

 白い腹を暖かな暖炉の方へと向けて、その毛並みを舐める。普段はふわふわとしているそこも、今ではぼそぼそと濡れ細っておりぺたりとしていた。

「あぁ、それから……」
「それから、何?」

 何かを伝えようと口を開いたアンバーだったが、少し悩んだ後ゼルの方に向かって座り直した。

「いや、相手はもしかすると魔法使いだ。不可能を可能にすることも念頭に置いた方が良い」
「……ふーん。じゃあ、ヴァイオレットの意見も聞いたら、今夜辺りにでも笛吹きパレードの後を追ってみようか」

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